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㉖懐かしい人との再会はなかなか厄介だった−1

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 ちっこいのはおとなしいけれど、本当に契約しなくても大丈夫なのか心配になって一応ギルドに問い合わせてみた。

「お前もまた珍しいものを持ってきたな。それはカゲボウシと呼ばれる魔物だ」
 ギルマスは呆れたようにそう言い、俺の肩に止まっているちっこいのに顔を寄せてジロジロと無遠慮に眺めた。

「珍しいってなに? 小さすぎて虫と間違われて殺されちゃうとか?」
「いや、存在自体が幻みたいなもんでな。まず生態がほぼわかっていない。どうやって生まれるのか、何処で生活しているのか、群れは作るのか、雄と雌の区別があるのか――それすらもわかっていない」
「ちょ、それって何もわかってないって事じゃん!」
 まあ、どうやって生まれるのか俺は知ってるけどね?

「絶対数が少ないんだよ。まずその辺じゃ見掛けないし、文献にちょろっと記載があるくらいだ」
「そんなのよくわかったね」
優曇華うどんげの花自体は有名だからな」
「優曇華の花?」
 なんでも優曇華は三千年に一度しか咲かない幻の花だと言われていて、ちっこいのはその花に集る習性があるのだと言う。その優曇華の花を探す為に、まずはちっこいのを探す冒険者が後をたたない。

「優曇華の花は見つかったことがあるの?」
「過去に数例だけある。富と繁栄を齎すから、何処の国の王家にも高く売れる」
「へえ、でも滅多に見つからないんだろ? どっちにしろ幻なんじゃん」
「そうだ。だからギルドに売らないか?」
 学術的価値がある、と言われて俺は肩に止まったちっこいのを見た。ふわふわとレースのような翅が風に揺れている。

「こいつは俺が好きみたいだから、俺が飼うよ」
 俺にペットを飼う趣味はないけど、慕われて悪い気はしないし生み出した責任もある。
 いや、薬屋のオヤジに責任を取らせたら良いのか? それともあの丸薬をギルドに渡す?
 イヤイヤ、何に使うものなのか知られるのは嫌だ。
 俺は口を拭う事にした。

「ならわかった事をギルドに報告してくれ。それに対して情報料を支払うから」
「たかがこんなにちっこい魔物の?」
「たかがじゃない。リンという鳴き声を聴いたことはないか?」
「それなら最初に聴いたけど……」
「それはカゲボウシの祝福と呼ばれるもので、聴いた人に良い報せを運ぶそうだ」
「良い報せって、随分とふんわりしてるなぁ」
 なんかラッキーくらいだと思っていたらそうではないとギルマスに注意された。

「いいか? 全財産を失うか倍にするかって時にその声を聴けば間違いなく勝てるんだぞ? 幾ら出しても欲しいって奴が現れてもおかしくないだろう」
 すげー博打だな。そんな状況になる事自体が嫌だよ。

「でもこいつ、滅多に鳴かないよ? 俺も最初の日しか聴いてないもん」
 それに良い報せなんて無かったけど。

「本当に良い報せは無かったのか?」
 えーと、確か最初に羽化して直ぐに俺の耳元で鳴いて、その後でカゲボウシを締め出したリッドに拉致られて昼間っからあーんな事やこーんな事をされて、酷い醜態を晒してダウンした俺の周りをカゲボウシが飛んでいて……あれ? そういやどうやって入って来たんだろう?
 俺は部屋から締め出した筈のカゲボウシがどうやって入って来れたのか不思議に思った。

「カゲボウシは一ミリでも隙間があれば通り抜けられるぞ?」
「えっ、そうなの!? こんなにぷっくりしてんのに?」
 ならもしかしたら俺が気付かなかっただけで、もっと前から見られていたのだろうか。
 いや魔物に見られてると思うのはおかしいのかもしれないけどさ。

「そんな事より良い報せが無かったか思い出したか?」
「ううん、思い出せない。多分、無かったと思うんだけど……」
 リッドのバカは俺にユニコーンの角を残して指名依頼を果たしに行っちゃったし。
 俺はユニコーンの角を研究に使うべきか、そのまま残すべきか随分と悩んだ。

「思い出したら伝えるよ。そうだ、ついでに素材を見せて貰ってもいいか? アラクネの糸とスコルピオンの毒がいい仕事をして――」
 話している途中でカゲボウシがリンリンと鳴いた。

「あっ、ちっこいのが鳴いた! ギルマスも聴こえた?」
 慌てて確認したが彼には聴こえなかったと言う。

「えっ、飼い主にしか聴こえないの? それとも聴いた人にだけ良い報せが訪れるのか?」
「わからんが何か理由がある筈だ」
 ギルマスが腕を組み考え込んだところで受け付けのお姉さんが駆け込んできた。

「ギルマスッ、迷い人です! 二人目の迷い人が見つかりました!」
「なにっ? 怪我はっ?」 
「ありません、ただ酷く錯乱していて……巨人に食われるとか、進撃がどうとか言ってるのですが」

(あ、これ間違いなく俺と同じ場所から来た奴だ)
 俺はバツが悪いような気持ちでそろそろと手を挙げた。

「あのぉ、多分その人は同郷だと思うので、俺が話をしても良いかな?」
「なに、ユートと?」
「そう言えば髪と眼の色が似ていますね。あなたの方が黒いですけど」
 茶髪の日本人ならいずれ俺と同じになるだろう。
 ってかこんなに立て続けに、しかも同じ国から迷い込んでくるものなの?
 何か理由がありそうだが、取り敢えずはその保護された迷い人だ。

「別室に案内していますのでお願いします」
 俺は巨乳のお姉さんに案内されて別室の扉を開いた途端、思わず叫んだ。
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