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㉕正体不明の生き物が生まれた−1
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小さな濡れ雑巾のような塊は、洗ったらふわふわの毛玉になった。ちょっとタンポポの綿毛にも似ている。
「これ、本当に生き物なのか?」
だって目も口も手も足もない。
「スライムだって目も口も手も足もないぞ」
「それはそうだけどっ!」
それはそうだけど、スライムはでっかくて存在感があるし、一応攻撃もしてくる。
こいつは小さめの卵くらいの大きさしかないし、動きもたまに揺れるくらいで意識があるのかすら不明。
でも植物と言ってしまうには根っこも無いし葉も花も無いので違和感がある。
「俺とは全く関係ない――ってのは無理があるよな?」
それじゃあこいつはどこから現れたんだって話になる。
「取り敢えず、様子を見たらどうだ? 危険だと思ったら直ぐに斬り捨てればいい」
「ええぇ、斬り捨てるってお前、血も涙もないな」
「だって魔物だろう?」
不思議そうに訊かれて感覚の違いにちょっと戸惑う。
見掛けたらとにかく排除! という姿勢は元の世界でいうゴキブリの扱いに似ているかもしれない。
別に放って置いてもいいかとか飼い馴らそうなんて微塵も思わず、直ちに殲滅する事に疑問すら抱かない。
そういう生き物なのだと思おう。
「害が無ければ魔物じゃないんじゃないのか?」
「だが、魔力を持っているからな」
「えっ、本当に?」
俺は慌てて毛玉に触れてみる。
弱いけれど、リッドの魔力を注がれたばかりの俺にもしっかりと感じ取れる魔力があった。
「魔力があったら魔物?」
「人間以外の魔力を持つ生き物は魔物だ」
へぇ、そういう区分だったんだ。
同じく魔力を持っているのに、人間だけ違う扱いはどうなんだとちょっと思ったけどこっちで生まれ育ってない俺が言うことじゃないよな。
田舎に行くと魔物の被害も甚大だと聞くし。
「魔物だったら害がなくても連れ歩く訳にはいかないよな?」
「いや、都市部や街中では余り見掛けないが、魔物を使役している冒険者もいるぞ」
「えっ、平気なの?」
「主従契約を結べば問題ない。自分より弱い魔物しか契約出来ないから余り役には立たないが、ソロで活動する冒険者には重宝しているようだな」
「リッドは使わないの?」
「俺は契約魔法は苦手だし、使役するくらいなら自分で倒した方が早い」
「ああ、だよな……」
愚問だったよ。リッドがそんな賢そうな戦い方をする筈がない。
「兎に角、変だと思ったら直ぐに結界を発動して俺を呼べ」
「わかった」
俺は毛玉を籠に入れて窓辺に置いた。
***
「ぬわぁあああああっ!」
「ユウ、どうした!?」
剣に手を掛けたリッドがコンマ数秒で俺の元に駆け付け、目の前に立ち塞がった。
「あ、ごめん。そんな大袈裟な事じゃない」
「本当か?」
「ほら、毛玉の毛が全部抜け落ちてて、それで吃驚してさ」
籠の中には抜け落ちた綿毛と油膜で出来たような虹色の玉があり、指で突っついたらぶにょんと揺れた。
最早これ、生き物には見えねーんだけど。
「弾力があるな」
リッドが玉を指先で摘まんでぶにぶにと揉んだ。
「ちょ、生きてんだから止めろよっ!」
ぷちっといきそうで怖くて慌ててリッドから取り返した。そうしたら勢いが付き過ぎて弾みで落としそうになり、俺はしっかりと掴み直した。
(あれ? 思ったよりも弾力があって、平気そう?)
思わず俺もぶにぶにと揉んでみた。玉も遊んで貰っているかのように楽しげにぶるんと揺れた。
「スライムみたいな生き物なのか?」
「虹色をしたスライムなんて聞いたことがない」
「じゃあなんだよ」
「俺とお前の間に生まれたものだ」
「……」
そういう言い方をされると何だか無性に恥ずかしい。
確かにエッチをして出来たモノではあるけどさぁ……。
「今からもう一度試してみるか?」
艶を含んだ声で誘われて、俺は腰に回された手を叩き落とした。
「昨日したばっかだから今日は無理」
「もう痛くないだろう?」
「痛くはねぇけど、無理だって」
だってすご~く疲れたんだ。今日はもう触らせない。
「少し寝るか?」
「眠くはないから大丈夫。それより朝飯にしようぜ」
俺はリッドの作った朝食を平らげてから王都の薬屋で買ってきた瓶を目の前に翳して眺めた。
昨日、リッドが使ったのはこの丸薬だった。
「ちょっと大きいって言ったのに……」
「済まない。あの場は使った方が良いと判断した」
そりゃあ、無いよりはあった方がマシだけどさ。それに使うか訊かれたら尻込みしたと思うから、勝手に使われて良かったのかもしれないけどさ。でもその結果があの正体不明の玉かもしれないんだろ?
「お前、そんなに俺としたかったの?」
「当たり前だ。俺はいつだってお前が欲しい」
リッドに妖しい流し目を送られて俺は口を噤んだ。
(我慢強い男だけど、やっぱり挿れたかったんだぁ……)
俺は顔がニヤけてしまうのをどうにか抑え、スライムバター入りのお茶を間違って飲んで噴き出した。
「これ、本当に生き物なのか?」
だって目も口も手も足もない。
「スライムだって目も口も手も足もないぞ」
「それはそうだけどっ!」
それはそうだけど、スライムはでっかくて存在感があるし、一応攻撃もしてくる。
こいつは小さめの卵くらいの大きさしかないし、動きもたまに揺れるくらいで意識があるのかすら不明。
でも植物と言ってしまうには根っこも無いし葉も花も無いので違和感がある。
「俺とは全く関係ない――ってのは無理があるよな?」
それじゃあこいつはどこから現れたんだって話になる。
「取り敢えず、様子を見たらどうだ? 危険だと思ったら直ぐに斬り捨てればいい」
「ええぇ、斬り捨てるってお前、血も涙もないな」
「だって魔物だろう?」
不思議そうに訊かれて感覚の違いにちょっと戸惑う。
見掛けたらとにかく排除! という姿勢は元の世界でいうゴキブリの扱いに似ているかもしれない。
別に放って置いてもいいかとか飼い馴らそうなんて微塵も思わず、直ちに殲滅する事に疑問すら抱かない。
そういう生き物なのだと思おう。
「害が無ければ魔物じゃないんじゃないのか?」
「だが、魔力を持っているからな」
「えっ、本当に?」
俺は慌てて毛玉に触れてみる。
弱いけれど、リッドの魔力を注がれたばかりの俺にもしっかりと感じ取れる魔力があった。
「魔力があったら魔物?」
「人間以外の魔力を持つ生き物は魔物だ」
へぇ、そういう区分だったんだ。
同じく魔力を持っているのに、人間だけ違う扱いはどうなんだとちょっと思ったけどこっちで生まれ育ってない俺が言うことじゃないよな。
田舎に行くと魔物の被害も甚大だと聞くし。
「魔物だったら害がなくても連れ歩く訳にはいかないよな?」
「いや、都市部や街中では余り見掛けないが、魔物を使役している冒険者もいるぞ」
「えっ、平気なの?」
「主従契約を結べば問題ない。自分より弱い魔物しか契約出来ないから余り役には立たないが、ソロで活動する冒険者には重宝しているようだな」
「リッドは使わないの?」
「俺は契約魔法は苦手だし、使役するくらいなら自分で倒した方が早い」
「ああ、だよな……」
愚問だったよ。リッドがそんな賢そうな戦い方をする筈がない。
「兎に角、変だと思ったら直ぐに結界を発動して俺を呼べ」
「わかった」
俺は毛玉を籠に入れて窓辺に置いた。
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「ぬわぁあああああっ!」
「ユウ、どうした!?」
剣に手を掛けたリッドがコンマ数秒で俺の元に駆け付け、目の前に立ち塞がった。
「あ、ごめん。そんな大袈裟な事じゃない」
「本当か?」
「ほら、毛玉の毛が全部抜け落ちてて、それで吃驚してさ」
籠の中には抜け落ちた綿毛と油膜で出来たような虹色の玉があり、指で突っついたらぶにょんと揺れた。
最早これ、生き物には見えねーんだけど。
「弾力があるな」
リッドが玉を指先で摘まんでぶにぶにと揉んだ。
「ちょ、生きてんだから止めろよっ!」
ぷちっといきそうで怖くて慌ててリッドから取り返した。そうしたら勢いが付き過ぎて弾みで落としそうになり、俺はしっかりと掴み直した。
(あれ? 思ったよりも弾力があって、平気そう?)
思わず俺もぶにぶにと揉んでみた。玉も遊んで貰っているかのように楽しげにぶるんと揺れた。
「スライムみたいな生き物なのか?」
「虹色をしたスライムなんて聞いたことがない」
「じゃあなんだよ」
「俺とお前の間に生まれたものだ」
「……」
そういう言い方をされると何だか無性に恥ずかしい。
確かにエッチをして出来たモノではあるけどさぁ……。
「今からもう一度試してみるか?」
艶を含んだ声で誘われて、俺は腰に回された手を叩き落とした。
「昨日したばっかだから今日は無理」
「もう痛くないだろう?」
「痛くはねぇけど、無理だって」
だってすご~く疲れたんだ。今日はもう触らせない。
「少し寝るか?」
「眠くはないから大丈夫。それより朝飯にしようぜ」
俺はリッドの作った朝食を平らげてから王都の薬屋で買ってきた瓶を目の前に翳して眺めた。
昨日、リッドが使ったのはこの丸薬だった。
「ちょっと大きいって言ったのに……」
「済まない。あの場は使った方が良いと判断した」
そりゃあ、無いよりはあった方がマシだけどさ。それに使うか訊かれたら尻込みしたと思うから、勝手に使われて良かったのかもしれないけどさ。でもその結果があの正体不明の玉かもしれないんだろ?
「お前、そんなに俺としたかったの?」
「当たり前だ。俺はいつだってお前が欲しい」
リッドに妖しい流し目を送られて俺は口を噤んだ。
(我慢強い男だけど、やっぱり挿れたかったんだぁ……)
俺は顔がニヤけてしまうのをどうにか抑え、スライムバター入りのお茶を間違って飲んで噴き出した。
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