上 下
60 / 181

㉕正体不明の生き物が生まれた−1

しおりを挟む
 小さな濡れ雑巾のような塊は、洗ったらふわふわの毛玉になった。ちょっとタンポポの綿毛にも似ている。

「これ、本当に生き物なのか?」
 だって目も口も手も足もない。

「スライムだって目も口も手も足もないぞ」
「それはそうだけどっ!」
 それはそうだけど、スライムはでっかくて存在感があるし、一応攻撃もしてくる。
 こいつは小さめの卵くらいの大きさしかないし、動きもたまに揺れるくらいで意識があるのかすら不明。
 でも植物と言ってしまうには根っこも無いし葉も花も無いので違和感がある。

「俺とは全く関係ない――ってのは無理があるよな?」
 それじゃあこいつはどこから現れたんだって話になる。

「取り敢えず、様子を見たらどうだ? 危険だと思ったら直ぐに斬り捨てればいい」
「ええぇ、斬り捨てるってお前、血も涙もないな」
「だって魔物だろう?」
 不思議そうに訊かれて感覚の違いにちょっと戸惑う。
 見掛けたらとにかく排除! という姿勢は元の世界でいうゴキブリの扱いに似ているかもしれない。
 別に放って置いてもいいかとか飼い馴らそうなんて微塵も思わず、直ちに殲滅する事に疑問すら抱かない。
 そういう生き物なのだと思おう。

「害が無ければ魔物じゃないんじゃないのか?」
「だが、魔力を持っているからな」
「えっ、本当に?」
 俺は慌てて毛玉に触れてみる。
 弱いけれど、リッドの魔力を注がれたばかりの俺にもしっかりと感じ取れる魔力があった。

「魔力があったら魔物?」
「人間以外の魔力を持つ生き物は魔物だ」
 へぇ、そういう区分だったんだ。
 同じく魔力を持っているのに、人間だけ違う扱いはどうなんだとちょっと思ったけどこっちで生まれ育ってない俺が言うことじゃないよな。
 田舎に行くと魔物の被害も甚大だと聞くし。

「魔物だったら害がなくても連れ歩く訳にはいかないよな?」
「いや、都市部や街中では余り見掛けないが、魔物を使役している冒険者もいるぞ」
「えっ、平気なの?」
「主従契約を結べば問題ない。自分より弱い魔物しか契約出来ないから余り役には立たないが、ソロで活動する冒険者には重宝しているようだな」
「リッドは使わないの?」
「俺は契約魔法は苦手だし、使役するくらいなら自分で倒した方が早い」
「ああ、だよな……」
 愚問だったよ。リッドがそんな賢そうな戦い方をする筈がない。

「兎に角、変だと思ったら直ぐに結界を発動して俺を呼べ」
「わかった」
 俺は毛玉を籠に入れて窓辺に置いた。

 ***

「ぬわぁあああああっ!」
「ユウ、どうした!?」
 剣に手を掛けたリッドがコンマ数秒で俺の元に駆け付け、目の前に立ち塞がった。

「あ、ごめん。そんな大袈裟な事じゃない」
「本当か?」
「ほら、毛玉の毛が全部抜け落ちてて、それで吃驚してさ」
 籠の中には抜け落ちた綿毛と油膜で出来たような虹色の玉があり、指で突っついたらぶにょんと揺れた。
 最早これ、生き物には見えねーんだけど。

「弾力があるな」
 リッドが玉を指先で摘まんでぶにぶにと揉んだ。

「ちょ、生きてんだから止めろよっ!」
 ぷちっといきそうで怖くて慌ててリッドから取り返した。そうしたら勢いが付き過ぎて弾みで落としそうになり、俺はしっかりと掴み直した。

(あれ? 思ったよりも弾力があって、平気そう?)
 思わず俺もぶにぶにと揉んでみた。玉も遊んで貰っているかのように楽しげにぶるんと揺れた。

「スライムみたいな生き物なのか?」
「虹色をしたスライムなんて聞いたことがない」
「じゃあなんだよ」
「俺とお前の間に生まれたものだ」
「……」
 そういう言い方をされると何だか無性に恥ずかしい。
 確かにエッチをして出来たモノではあるけどさぁ……。

「今からもう一度試してみるか?」
 艶を含んだ声で誘われて、俺は腰に回された手を叩き落とした。

「昨日したばっかだから今日は無理」
「もう痛くないだろう?」
「痛くはねぇけど、無理だって」
 だってすご~く疲れたんだ。今日はもう触らせない。

「少し寝るか?」
「眠くはないから大丈夫。それより朝飯にしようぜ」
 俺はリッドの作った朝食を平らげてから王都の薬屋で買ってきた瓶を目の前に翳して眺めた。
 昨日、リッドが使ったのはこの丸薬だった。

「ちょっと大きいって言ったのに……」
「済まない。あの場は使った方が良いと判断した」
 そりゃあ、無いよりはあった方がマシだけどさ。それに使うか訊かれたら尻込みしたと思うから、勝手に使われて良かったのかもしれないけどさ。でもその結果があの正体不明の玉かもしれないんだろ?

「お前、そんなに俺としたかったの?」
「当たり前だ。俺はいつだってお前が欲しい」
 リッドに妖しい流し目を送られて俺は口を噤んだ。

(我慢強い男だけど、やっぱり挿れたかったんだぁ……)
 俺は顔がニヤけてしまうのをどうにか抑え、スライムバター入りのお茶を間違って飲んで噴き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!

ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて 素の性格がリスナー全員にバレてしまう しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて… ■ □ ■ 歌い手配信者(中身は腹黒) × 晒し系配信者(中身は不憫系男子) 保険でR15付けてます

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

同僚がヴァンパイア体質だった件について

真衣 優夢
BL
「僕はヴァンパイア体質なんだ。基本は人間なんだけどね」 朝霧令一は、私立アヤザワ高校の生物教師。 人付き合い朝霧が少し気を許すのは、同い年の国語教師、小宮山桐生だった。 桐生がカミングアウトしたのは、ヴァンパイア体質という、特殊な人間の存在。 穏やかで誰にでも優しく、教師の鑑のような桐生にコンプレックスを抱きながらも、数少ない友人として接していたある日。 宿直の夜、朝霧は、桐生の秘密を目撃してしまう。 桐生(ヴァンパイア体質)×朝霧(人間)です。 ヘタレ攻に見せかけて、ここぞという時や怒りで(受ではなく怒った相手に)豹変する獣攻。 無愛想の俺様受に見せかけて、恋愛経験ゼロで初心で必死の努力家で勢い任せの猪突猛進受です。 攻身長189cm、受身長171cmです。 穏やか笑顔攻×無愛想受です。 リアル教師っぽい年齢設定にしたので、年齢高すぎ!と思った方は、脳内で25歳くらいに修正お願いいたします…。 できるだけ男同士の恋愛は男っぽく書きたい、と思っています。 頑張ります…! 時にコミカルに、時に切なく、時にシリアスな二人の物語を、あなたへ。

処理中です...