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㉑面倒事は嫌いだが、お涙頂戴には弱いので−1

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 水路から戻ってきたら城の官吏が物凄くホッとした表情を見せた。俺はちょっと顔に出しすぎだろう、と思いつつリッドがギルマスに依頼結果を報告するのを大人しく聞いていた。

「じゃあ、リザードマンは殆ど倒してくれたんだな?」
「残っていたとしてもあと数匹だろう。それよりも素材を剥ぎ取る方が大変そうだ」
「そんなに多かったのか?」
「四、五百はいたな」
「四百と五百じゃ大分違うんだが、流石A級はスケールが違うな。それに短期間で片付けてくれて助かった。お前も無事で良かったな」
 ギルマスはおまけの俺にまでそう声を掛けてくれた。

「戦いの時は隠れてたから、いっこも役に立ってないけどね」
「隠れてた?」
 不思議そうに訊かれてしまったと思う。
 此処に来る途中でガルーダを退治した事は伝えていたが、ガルーダの卵で密室を作った事は内緒にしていたのだ。
 だって売ってくれって言われそうじゃん? それに俺が魔法陣を描ける事も黙っていた方が面倒事に巻き込まれずに済むと思ったしね。

「あ~、そういう道具を貸してもらったんだよ。俺はギルドに保護されてるから」
「ちゃんと大事にされているようで何よりだ」
 あれ? そうじゃないところもあるってこと? なかなか世知辛いね。
 でもこの王都のギルドマスターも良い人みたいだ。

「あの街のギルマスはとても良くしてくれてるよ。他の冒険者も親切だしね」
 俺が最初に出会ったのがリッドとルスカだった事、二人に拾って貰えた事はとてもラッキーだった。
 何もわからないまま酷い目に遭わされてた可能性だってあった。
 リッド以外の男に無理矢理に突っ込まれた可能性だって……と考えて俺はぶるりと震えた。

(ムリムリムリッ! そんなの単なる拷問じゃん!)
 俺は思わずリッドの影に隠れた。

「それで、異世界人が残したものとやらは見つかりましたか?」
 キラリと灰色の目を光らせた官吏から訊かれて俺は首を横に振る。

「いや、なかった」
「本当に?」
「あったら持ってるだろ? 探してもいいぜ?」
 パタパタと上着を叩いて見せる俺を官吏の男が胡散臭そうに見つめる。

「確かあなた方の街では今、妙なものが流行っているんですよね?」
「妙なもの?」
「何でも履くだけで足の臭いと痒みが治まるのだとか」
 あっ、草鞋のことか! 畜生、地下に潜っている間に俺の事を調べさせたな?

「ハァ……。どうせバレてんでしょ? アレは俺が作ったものです。魔物の毛を編み込んで、魔法陣を描くんだ」
「本当にそんな事を出来る者がいるとはっ!」
 カッと目を見開いた男が怖い。
 俺のことを散々疑っていた癖に、どうしてそこだけは簡単に信じる訳?
 あっ、現物があるからか。

「布に魔法陣を編み込む事が出来るなら、もしやお召し物に守護魔法を付与することも……」
「出来るでしょうね。ってかお召し物ってなに? 偉い人の服を作れって言ってる?」
「そうですっ! あなたのような平民でも王族の服を仕立てる栄誉が――」
「そんな栄誉はいりません。俺は冒険者の安全対策の方が重要で――」
「ユウ、言い過ぎだ」
 俺の言葉をリッドが途中で止めた。
 リッドも男に対して偉そうな態度を取っていたけど、A級冒険者のこいつと俺では立場が違う。しかも俺の発言は王族を蔑ろにしているように聞こえるかもしれなくて、場合によっては不敬罪を適用されちゃうのかも。

「えっと、今のは無しでお願いします」
 へこへこと揉み手をして頭を下げる俺を見てギルマスが呆れたように息を吐き、それから男を見て釘を刺した。

「ネルソン卿、言っておきますが迷い人の保護はギルドの管轄です。勝手に連れて行くような真似はしませんよね?」
「わかっています! わかっていますが、こんなものにも縋らずにはいられないのですっ!」
「……どういう事ですか?」
 俺は男の切羽詰まった様子に恐る恐る聞いてみた。
 面倒事は嫌だけど、凄く困っていそうな人を見捨てるのも気分が悪い。
 それなら話だけでも聞いてみようと思った。

「ここだけの話にして戴きたいのですが、王にはお子が二人しかおられません。産まれても次々と亡くなってしまわれるのです」
(え、それって……)
 俺は嫌な予感にリッドとギルマスの顔を見上げ、二人に頷かれてゲンナリとしてしまう。
 敵対勢力から暗殺されてるのか……。

「それで? あんたが支持する陣営の王子だけは守りたいって?」
「いえ、王家の全てのお子にあなたの産着を与えて欲しいのです」
「え? 全てって……」
「私はこれ以上王に辛く悲しい思いをして欲しくありません。王のお子はみな等しく慈しまれるべきなのです。政権争いなどでお命を奪われてはならないのです!」

(……あ、やば。俺ってばこういうのに弱い。忠臣とか、子供大事にとかね)
 俺はスン、と鼻を啜ってから頷いた。

「それが本当なら協力してもいい。誰にも手が出せないような物理防御、呪詛返し、毒物耐性、疫病治癒に対魔法結界、あと頑張ればもう一個くらい――」
「待て待て待てっ!」
 俺の言葉をギルマスが慌てて遮った。

「なんだその国宝超えの産着はっ! 普通はそれだけの最上級魔法陣を同時に付与なんて出来ないだろう!?」
 驚きすぎて顔が福笑いみたいな面白い事になってるギルマスに申し訳なく思いながらも俺はあっさりと否定する。

「出来るよ。俺は、出来る」
「っ!」
 ギルマスが慌ててリッドの顔を仰いで確認し、リッドが重々しく頷くのを見てその場に崩れ落ちた。

「勘弁してくれ……。魔力ナシって聞いてたのに、何だその規格外な能力は……」
「能力じゃないよ、俺が頑張って考え出したんだぜ? それにこれは使う人の魔――」
 魔力と言い掛けた俺の口をリッドがデカイ手で塞いだ。

(あ、これは言っちゃまずかった?)
 リッドに視線を送ったら軽く顎を引いて頷いたので、俺も頷き返す。
 よし、この事は黙っていよう。
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