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⑬冒険者は団体旅行には向いていない-2

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「ユートは貴族か何かなの?」
 ニコに驚いた顔で聞かれて俺は慌てて首を振る。
「まさか! 俺はふつーの、一般庶民の出だって!」
「だよね、貴族だったらこんな風に口を利いてくれる筈がないもの」
 ホッと胸を撫で下ろすニコを見て、俺はやっぱり騙しているような気持ちになる。
 俺は貴族ではないけれど、異世界人だという真実を明かしてもいない。
 外国人だなんて嘘ではないけど全てでもない言い方で誤魔化している。

「ニコ、俺は――」
「ユウトは二度と家に帰れないんだ。だから此処を好きになって欲しい。此処で居場所を見つけて欲しい」
 俺の言葉を途中から奪うようにしてそう言ったリッドをまじまじと見る。

(俺がこの世界に落ち着く為に、根付けるようにずっと支えてくれていた? ただ最初に俺を見つけたってだけで?)
 リッドはA級冒険者なんだから、他にもっと有意義な時間の使い方があるだろうに。
 或いは自分の為に時間と金を割いたっていい。それだけの働きはしている。

「リッド、責任感が強すぎだろ」
「いや、これは俺の希(ねが)いだ」
 どうか居着けますように、安心して暮らせますようにと祈る。自分以外の人の為に。
 俺はリッドの頬に手を当てて困ったように笑う。

「バカだな。もっと他の事を願えよ」
「イヤだ。それ以外の望みはない」
 迷いなくそう言ったリッドに手を取られ、手のひらに口付けられる。

「くすぐってぇよ」
「じゃあ別のところに……」
 リッドに腰を抱かれ、甘ったるく見つめられて目を閉じようとしたら甲高い奇声が上がった。

「ひゃ~っ、えっちだぁ! あなたたち、破廉恥だよぅ」
 恥ずかしそうに両手で顔を覆ったニコの態度が居た堪れない。
 俺は人前でなんて事をしようとしてたんだ。

「リッド、人前で触れるのは無しにしよう」
「まさか王都に着くまでか?」
「ああ。だってそれまで常に人目があるだろ?」
「……だからイヤだったんだ」
 リッドが口の中で文句を言ったようだが気にしない。
 それよりもニコの誤解を解かなくては。

「ニコ、落ち着いてよく見ろ。俺達はちょっとスキンシップが多いだけで、破廉恥な事なんてしていない」
「でも、夜の父さんと母さんみたいな雰囲気で――」
 ニコの両親め、子供の前で何をしてやがる。

「ご両親とは違うよ。リッドは俺の身元引き受け人だから、色々と心配して構いたくなるだけ」
「ほんとうに?」
「勿論」
 俺は真っ直ぐな目でニコを正面から見つめた。
 必要ならば堂々と嘘が吐ける自分が嫌いじゃないぜ。

「なんだ、じゃあ親子みたいなものなんだな」
「プッ! 親子……ああそうだな、煙ったい親父みたいなもんだな」
 俺がニヤニヤしながらそう言ったら、リッドのこめかみがピクリとひきつった。
 リッドはまだ二十代なのに、その立場と迫力から若僧扱いをされる事はない。いつも敬意を払うべきそれなりの年の相手と見られる。

(侮られっぱなしの俺としては羨ましいけど、ジジイ扱いはないよな)
 流石にリッドが可哀想だけれど、ニコの勘違いは止まらない。

「幾ら心配だからって、余り構うと嫌われますよ? 少しは子供を信用してくれなくちゃ」
 ドヤッとした顔で偉そうに宣っているニコがおかしい。
 リッドには悪いが、勘違いされたままの方が良さそうなので俺も乗っかっておく。

「そうそう。余り俺に手を差し出さなくていいからな?」
「……わかった」
 リッドはちっとも納得していない顔でわかったと言い、それからは少しだけ距離を取ってくれるようになった。
 俺はその事にホッとしつつも少しだけ寂しい。

(だって、いつも強引に与えられていた温もりがないと、すきま風でも吹いているようにスースーする)
 俺はそれを異世界で手を離される心細さだと思ったけれど、それだけじゃない証拠に身体の奥に燻り続ける熱がある。
 ただ優しいだけじゃない、心地好いだけじゃない激しい触れ合いを求めている自分が何処かにいる。

(もうあんな風に触れてこないのかな)
 そう思ったら辟易していた筈のそれが懐かしくなる。
 なんならリッドの口の中の感触や、最中に見つめてきた熱い眼差しを思い出して身体が疼いたりもする。

(人がいるから抜けないけど……ちょっとくらいならいいよな?)
 俺はこっそりと胸の飾りや分身に触れてみる。
 けれど中途半端に疼いてモヤモヤと身体に熱が溜まるばかりでちっとも気持ちが晴れない。

(リッドに触って欲しい。グリグリと意地悪く摘まんで潰して苛めて欲しい)
 想像しただけで胸がツンと尖ってジンジンした。
 本当にゴリゴリされたら乳首だけでイケるかもしれない。

(今、滅茶苦茶にされたい……)
 あの時はイヤだった。でも今なら滅茶苦茶にされて喘がされたい。
 俺は物欲しげにリッドを見るけれど、俺の事をなるべく見ないようにしているリッドはこちらの熱になど気付かない。
 素っ気ない態度を取り続けるリッドが憎たらしい。

「なあ、何も避ける事はないんじゃないか?」
 つい詰るようにそう言ったらお前が望んだことだろうと言われた。

「別に、俺は……」
 歯切れ悪く言い訳をしようとして、言葉を探しているうちにリッドにちょっと気になる事があるからと背を向けられた。

(なにそれ。俺が触るなって言ったからって酷くね?)
 腹を立てた俺はニコにその辺を見てくると断ってからキャンプ地を出ていった。
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