34 / 181
⑬冒険者は団体旅行には向いていない-2
しおりを挟む
「ユートは貴族か何かなの?」
ニコに驚いた顔で聞かれて俺は慌てて首を振る。
「まさか! 俺はふつーの、一般庶民の出だって!」
「だよね、貴族だったらこんな風に口を利いてくれる筈がないもの」
ホッと胸を撫で下ろすニコを見て、俺はやっぱり騙しているような気持ちになる。
俺は貴族ではないけれど、異世界人だという真実を明かしてもいない。
外国人だなんて嘘ではないけど全てでもない言い方で誤魔化している。
「ニコ、俺は――」
「ユウトは二度と家に帰れないんだ。だから此処を好きになって欲しい。此処で居場所を見つけて欲しい」
俺の言葉を途中から奪うようにしてそう言ったリッドをまじまじと見る。
(俺がこの世界に落ち着く為に、根付けるようにずっと支えてくれていた? ただ最初に俺を見つけたってだけで?)
リッドはA級冒険者なんだから、他にもっと有意義な時間の使い方があるだろうに。
或いは自分の為に時間と金を割いたっていい。それだけの働きはしている。
「リッド、責任感が強すぎだろ」
「いや、これは俺の希(ねが)いだ」
どうか居着けますように、安心して暮らせますようにと祈る。自分以外の人の為に。
俺はリッドの頬に手を当てて困ったように笑う。
「バカだな。もっと他の事を願えよ」
「イヤだ。それ以外の望みはない」
迷いなくそう言ったリッドに手を取られ、手のひらに口付けられる。
「くすぐってぇよ」
「じゃあ別のところに……」
リッドに腰を抱かれ、甘ったるく見つめられて目を閉じようとしたら甲高い奇声が上がった。
「ひゃ~っ、えっちだぁ! あなたたち、破廉恥だよぅ」
恥ずかしそうに両手で顔を覆ったニコの態度が居た堪れない。
俺は人前でなんて事をしようとしてたんだ。
「リッド、人前で触れるのは無しにしよう」
「まさか王都に着くまでか?」
「ああ。だってそれまで常に人目があるだろ?」
「……だからイヤだったんだ」
リッドが口の中で文句を言ったようだが気にしない。
それよりもニコの誤解を解かなくては。
「ニコ、落ち着いてよく見ろ。俺達はちょっとスキンシップが多いだけで、破廉恥な事なんてしていない」
「でも、夜の父さんと母さんみたいな雰囲気で――」
ニコの両親め、子供の前で何をしてやがる。
「ご両親とは違うよ。リッドは俺の身元引き受け人だから、色々と心配して構いたくなるだけ」
「ほんとうに?」
「勿論」
俺は真っ直ぐな目でニコを正面から見つめた。
必要ならば堂々と嘘が吐ける自分が嫌いじゃないぜ。
「なんだ、じゃあ親子みたいなものなんだな」
「プッ! 親子……ああそうだな、煙ったい親父みたいなもんだな」
俺がニヤニヤしながらそう言ったら、リッドのこめかみがピクリとひきつった。
リッドはまだ二十代なのに、その立場と迫力から若僧扱いをされる事はない。いつも敬意を払うべきそれなりの年の相手と見られる。
(侮られっぱなしの俺としては羨ましいけど、ジジイ扱いはないよな)
流石にリッドが可哀想だけれど、ニコの勘違いは止まらない。
「幾ら心配だからって、余り構うと嫌われますよ? 少しは子供を信用してくれなくちゃ」
ドヤッとした顔で偉そうに宣っているニコがおかしい。
リッドには悪いが、勘違いされたままの方が良さそうなので俺も乗っかっておく。
「そうそう。余り俺に手を差し出さなくていいからな?」
「……わかった」
リッドはちっとも納得していない顔でわかったと言い、それからは少しだけ距離を取ってくれるようになった。
俺はその事にホッとしつつも少しだけ寂しい。
(だって、いつも強引に与えられていた温もりがないと、すきま風でも吹いているようにスースーする)
俺はそれを異世界で手を離される心細さだと思ったけれど、それだけじゃない証拠に身体の奥に燻り続ける熱がある。
ただ優しいだけじゃない、心地好いだけじゃない激しい触れ合いを求めている自分が何処かにいる。
(もうあんな風に触れてこないのかな)
そう思ったら辟易していた筈のそれが懐かしくなる。
なんならリッドの口の中の感触や、最中に見つめてきた熱い眼差しを思い出して身体が疼いたりもする。
(人がいるから抜けないけど……ちょっとくらいならいいよな?)
俺はこっそりと胸の飾りや分身に触れてみる。
けれど中途半端に疼いてモヤモヤと身体に熱が溜まるばかりでちっとも気持ちが晴れない。
(リッドに触って欲しい。グリグリと意地悪く摘まんで潰して苛めて欲しい)
想像しただけで胸がツンと尖ってジンジンした。
本当にゴリゴリされたら乳首だけでイケるかもしれない。
(今、滅茶苦茶にされたい……)
あの時はイヤだった。でも今なら滅茶苦茶にされて喘がされたい。
俺は物欲しげにリッドを見るけれど、俺の事をなるべく見ないようにしているリッドはこちらの熱になど気付かない。
素っ気ない態度を取り続けるリッドが憎たらしい。
「なあ、何も避ける事はないんじゃないか?」
つい詰るようにそう言ったらお前が望んだことだろうと言われた。
「別に、俺は……」
歯切れ悪く言い訳をしようとして、言葉を探しているうちにリッドにちょっと気になる事があるからと背を向けられた。
(なにそれ。俺が触るなって言ったからって酷くね?)
腹を立てた俺はニコにその辺を見てくると断ってからキャンプ地を出ていった。
ニコに驚いた顔で聞かれて俺は慌てて首を振る。
「まさか! 俺はふつーの、一般庶民の出だって!」
「だよね、貴族だったらこんな風に口を利いてくれる筈がないもの」
ホッと胸を撫で下ろすニコを見て、俺はやっぱり騙しているような気持ちになる。
俺は貴族ではないけれど、異世界人だという真実を明かしてもいない。
外国人だなんて嘘ではないけど全てでもない言い方で誤魔化している。
「ニコ、俺は――」
「ユウトは二度と家に帰れないんだ。だから此処を好きになって欲しい。此処で居場所を見つけて欲しい」
俺の言葉を途中から奪うようにしてそう言ったリッドをまじまじと見る。
(俺がこの世界に落ち着く為に、根付けるようにずっと支えてくれていた? ただ最初に俺を見つけたってだけで?)
リッドはA級冒険者なんだから、他にもっと有意義な時間の使い方があるだろうに。
或いは自分の為に時間と金を割いたっていい。それだけの働きはしている。
「リッド、責任感が強すぎだろ」
「いや、これは俺の希(ねが)いだ」
どうか居着けますように、安心して暮らせますようにと祈る。自分以外の人の為に。
俺はリッドの頬に手を当てて困ったように笑う。
「バカだな。もっと他の事を願えよ」
「イヤだ。それ以外の望みはない」
迷いなくそう言ったリッドに手を取られ、手のひらに口付けられる。
「くすぐってぇよ」
「じゃあ別のところに……」
リッドに腰を抱かれ、甘ったるく見つめられて目を閉じようとしたら甲高い奇声が上がった。
「ひゃ~っ、えっちだぁ! あなたたち、破廉恥だよぅ」
恥ずかしそうに両手で顔を覆ったニコの態度が居た堪れない。
俺は人前でなんて事をしようとしてたんだ。
「リッド、人前で触れるのは無しにしよう」
「まさか王都に着くまでか?」
「ああ。だってそれまで常に人目があるだろ?」
「……だからイヤだったんだ」
リッドが口の中で文句を言ったようだが気にしない。
それよりもニコの誤解を解かなくては。
「ニコ、落ち着いてよく見ろ。俺達はちょっとスキンシップが多いだけで、破廉恥な事なんてしていない」
「でも、夜の父さんと母さんみたいな雰囲気で――」
ニコの両親め、子供の前で何をしてやがる。
「ご両親とは違うよ。リッドは俺の身元引き受け人だから、色々と心配して構いたくなるだけ」
「ほんとうに?」
「勿論」
俺は真っ直ぐな目でニコを正面から見つめた。
必要ならば堂々と嘘が吐ける自分が嫌いじゃないぜ。
「なんだ、じゃあ親子みたいなものなんだな」
「プッ! 親子……ああそうだな、煙ったい親父みたいなもんだな」
俺がニヤニヤしながらそう言ったら、リッドのこめかみがピクリとひきつった。
リッドはまだ二十代なのに、その立場と迫力から若僧扱いをされる事はない。いつも敬意を払うべきそれなりの年の相手と見られる。
(侮られっぱなしの俺としては羨ましいけど、ジジイ扱いはないよな)
流石にリッドが可哀想だけれど、ニコの勘違いは止まらない。
「幾ら心配だからって、余り構うと嫌われますよ? 少しは子供を信用してくれなくちゃ」
ドヤッとした顔で偉そうに宣っているニコがおかしい。
リッドには悪いが、勘違いされたままの方が良さそうなので俺も乗っかっておく。
「そうそう。余り俺に手を差し出さなくていいからな?」
「……わかった」
リッドはちっとも納得していない顔でわかったと言い、それからは少しだけ距離を取ってくれるようになった。
俺はその事にホッとしつつも少しだけ寂しい。
(だって、いつも強引に与えられていた温もりがないと、すきま風でも吹いているようにスースーする)
俺はそれを異世界で手を離される心細さだと思ったけれど、それだけじゃない証拠に身体の奥に燻り続ける熱がある。
ただ優しいだけじゃない、心地好いだけじゃない激しい触れ合いを求めている自分が何処かにいる。
(もうあんな風に触れてこないのかな)
そう思ったら辟易していた筈のそれが懐かしくなる。
なんならリッドの口の中の感触や、最中に見つめてきた熱い眼差しを思い出して身体が疼いたりもする。
(人がいるから抜けないけど……ちょっとくらいならいいよな?)
俺はこっそりと胸の飾りや分身に触れてみる。
けれど中途半端に疼いてモヤモヤと身体に熱が溜まるばかりでちっとも気持ちが晴れない。
(リッドに触って欲しい。グリグリと意地悪く摘まんで潰して苛めて欲しい)
想像しただけで胸がツンと尖ってジンジンした。
本当にゴリゴリされたら乳首だけでイケるかもしれない。
(今、滅茶苦茶にされたい……)
あの時はイヤだった。でも今なら滅茶苦茶にされて喘がされたい。
俺は物欲しげにリッドを見るけれど、俺の事をなるべく見ないようにしているリッドはこちらの熱になど気付かない。
素っ気ない態度を取り続けるリッドが憎たらしい。
「なあ、何も避ける事はないんじゃないか?」
つい詰るようにそう言ったらお前が望んだことだろうと言われた。
「別に、俺は……」
歯切れ悪く言い訳をしようとして、言葉を探しているうちにリッドにちょっと気になる事があるからと背を向けられた。
(なにそれ。俺が触るなって言ったからって酷くね?)
腹を立てた俺はニコにその辺を見てくると断ってからキャンプ地を出ていった。
24
お気に入りに追加
1,946
あなたにおすすめの小説
実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、pixivにも投稿中。
※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。
鋼の殻に閉じ込められたことで心が解放された少女
ジャン・幸田
大衆娯楽
引きこもりの少女の私を治すために見た目はロボットにされてしまったのよ! そうでもしないと人の社会に戻れないということで無理やり!
そんなことで治らないと思っていたけど、ロボットに認識されるようになって心を開いていく気がするわね、この頃は。
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。
今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
王子様との婚約回避のために友達と形だけの結婚をしたつもりが溺愛されました
竜鳴躍
BL
アレックス=コンフォートはコンフォート公爵の長男でオメガである!
これは、見た目は磨けば美人で優秀だが中身は残念な主人公が大嫌いな王子との婚約を回避するため、友達と形だけの結婚をしたつもりが、あれよあれよと溺愛されて満更ではなくなる話である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1/10から5日くらいBL1位、ありがとうございました。
番外編が2つあるのですが、Rな閑話の番外編と子どもの話の番外編が章分けされています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※僕はわがまま 時系列修正
※ヤード×サンドル終わったのでラブラブ番外編を末尾に移動 2023.1.20
【完結】愛する人にはいつだって捨てられる運命だから
SKYTRICK
BL
凶悪自由人豪商攻め×苦労人猫化貧乏受け
※一言でも感想嬉しいです!
孤児のミカはヒルトマン男爵家のローレンツ子息に拾われ彼の使用人として十年を過ごしていた。ローレンツの愛を受け止め、秘密の恋人関係を結んだミカだが、十八歳の誕生日に彼に告げられる。
——「ルイーザと腹の子をお前は殺そうとしたのか?」
ローレンツの新しい恋人であるルイーザは妊娠していた上に、彼女を毒殺しようとした罪まで着せられてしまうミカ。愛した男に裏切られ、屋敷からも追い出されてしまうミカだが、行く当てはない。
ただの人間ではなく、弱ったら黒猫に変化する体質のミカは雪の吹き荒れる冬を駆けていく。狩猟区に迷い込んだ黒猫のミカに、突然矢が放たれる。
——あぁ、ここで死ぬんだ……。
——『黒猫、死ぬのか?』
安堵にも似た諦念に包まれながら意識を失いかけるミカを抱いたのは、凶悪と名高い豪商のライハルトだった。
☆3/10J庭で同人誌にしました。通販しています。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる