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⑪相手をしないと拗ねる獣が可愛くて-1(R-18)
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透明化の魔法陣はある意味失敗だったけれど、最上級魔法陣を発動出来たのでリッドとの約束は果たしたと言える。だから魔石を溶かしたインクを買ってやる、とリッドに言われた。
「いやでもさぁ、透明化の魔法を付与されても困るだろ?」
「確かにその依頼を出すつもりはない」
「だったらインクはまだいいよ。他の最上級魔法陣も覚えなくちゃいけないし」
「でも約束は約束だろう?」
「あんたも融通が利かねえな。今すぐに必要じゃないんだからいいって」
「なら代わりに何か――」
「子供に飴玉を与えるような真似は止めろよ」
「そんなつもりはない」
リッドは否定したけれど、直ぐに物を与えたがるリッドの態度は余り褒められたものじゃない。
そりゃあ俺は甘やかされるのは好きだけど、これは違うと思う。
「ご褒美なら、他の街に連れて行ってくれないか?」
「他の街?」
「うん。この街だってまだ全部見た訳じゃないけど、他の街には異世界人の痕跡がもっと色濃く残ってたりするんだろ?」
「仲間が欲しいのか?」
「そういう訳じゃないけど、他の人がこっちの世界でどんな風に暮らしていたのか知りたいと思って」
「それなら伝聞を取り寄せれば――」
「直に見たいんだって!」
確かに異世界人がこの世界で何をしたのか色々と伝聞は残っているし、そういう書物だってある。
幸い言葉も文字も最初から通じたから、何処の国の言葉だって読むのに不自由もない。
でもさ、俺はその人たちが実際に生きていた証って言うか実感が欲しい訳。
俺以外にもこの世界に来た奴がいて、ちゃんと溶け込んで根付いて暮らして行けたんだって確かな証拠が欲しい。
俺もここでやっていけるんだって保証が欲しい。
だからリッドに頼んだ。
「連れて行くのは構わない。どうせなら王都に行けば観光も出来るし、帰りは転移石を使ってもいい」
「バカ、何百万もするようなものを使えるかよ。それくらいなら俺が――そうか。次は転移魔法陣を覚えたらいいのか」
俺は目標が決まってすっきりとした。
「ユウト、転移魔法陣は最上級魔法陣の中でも特に難しい。もう少し経験を積んでからの方がいいんじゃないか?」
「やりたい事をやるのが一番頑張れるんだよ。それに転移魔法が使えるようになったら、今度はあんたのピンチに駆け付けられるだろ?」
「バカ、お前に来られても助けには――」
「わかってる。俺があんたの助けになれる筈はない。でも遠く離れてて、手も足も出ないってのはもう嫌なんだ。何も出来なくてもせめて近くに行きたい」
「……ドラゴンブレスも防げるような結界魔法が使えなきゃ駄目だ」
「おっけ。それも一緒に覚える」
やる気満々で笑ったら、何故だかリッドが溜め息を吐いた。
「お前には街にいて欲しいのに」
「俺は子供じゃないからあんたの希望は聞いてやらない」
「子供だなんて思った事は無い」
嘘吐き、と思ったけれど俺は黙っていた。
どうせこの問題に関しては、俺たちは平行線だ。
今は言い争っている暇なんてない。
「ヤル気になるのはいいが、この間みたいに寝食を忘れたら無理矢理に口に突っ込むからな?」
ギラリと光る眼で睨まれて、流石に俺も素直に頷く。
こっちの世界に来るまで知らなかったのだが、俺は物作りに夢中になるとちょっと周りが見えなくなるみたいだ。
「せっかく依頼から帰って来ても俺の声も聞こえていないし、それどころか邪魔だと言われて、帰って来ない方が良かったのかと思った」
「あ~、悪かったって」
リッドの家なんだから堂々としてりゃいいのに。
意外と繊細なんだな。
「言っておくけど俺が細かいんじゃなく、お前が大雑把なんだからな」
だから人の考えを読むなって。
「わかったわかった。次は帰って来たらちゃんと相手をしてやるから、依頼に行って来いよ」
「ハァ……嫁に家を追い出されたコングの気持ちが分かるな」
「えっ? あんな顔して奥さんの尻に敷かれてんの? ってか結婚してたの?」
「コングは有名な愛妻家だ。ちょっとお前に感じが似ている」
へえ~、すっごく意外だ。
「羨ましいなら嫁に貰ってやろうか?」
久し振りにニヤニヤと笑われてリッドの腹を思い切りド突いた。
「バカ野郎、羨ましいのはコングだよ」
俺だって可愛い嫁さんが欲しい。
こんな頭からバリバリと喰われそうな男じゃなく、たゆんたゆんの胸を恥ずかしそうに腕で寄せる可愛い女の子と暮らしたい。
「ユウ、お前を守ってくれる女ならいるかもしれないが、お前に守られる女はいないぞ?」
「わかってるよっ! だからあんたで我慢してるんだろっ!」
「それでいい。ずっとうちにいろ」
満足気に頷かれてなんとなく負けた気分になる。
リッドの家で囲われてすっかり満足してしまっているのを見透かされているみたいだ。
(だって俺の部屋もあるし、ベッドは寝心地が好いし、居間には人をダメにするスライムクッションも置いてある。今さら何処か他所へ行こうなんて気にはなれないだろ)
おまけに冒険者故に一通りの事が出来るリッドは食事の世話までしてくれる。
なんだよ、リッドの方が嫁みたいじゃないか。
俺はちょっと顔を赤くして、それを隠すようにゴシゴシと頬を擦った。
「あんたの予定もあるだろうし、俺の転移魔法陣に目処が付いてから出掛けよう」
俺はそう言ってまた研究生活に入った。
「いやでもさぁ、透明化の魔法を付与されても困るだろ?」
「確かにその依頼を出すつもりはない」
「だったらインクはまだいいよ。他の最上級魔法陣も覚えなくちゃいけないし」
「でも約束は約束だろう?」
「あんたも融通が利かねえな。今すぐに必要じゃないんだからいいって」
「なら代わりに何か――」
「子供に飴玉を与えるような真似は止めろよ」
「そんなつもりはない」
リッドは否定したけれど、直ぐに物を与えたがるリッドの態度は余り褒められたものじゃない。
そりゃあ俺は甘やかされるのは好きだけど、これは違うと思う。
「ご褒美なら、他の街に連れて行ってくれないか?」
「他の街?」
「うん。この街だってまだ全部見た訳じゃないけど、他の街には異世界人の痕跡がもっと色濃く残ってたりするんだろ?」
「仲間が欲しいのか?」
「そういう訳じゃないけど、他の人がこっちの世界でどんな風に暮らしていたのか知りたいと思って」
「それなら伝聞を取り寄せれば――」
「直に見たいんだって!」
確かに異世界人がこの世界で何をしたのか色々と伝聞は残っているし、そういう書物だってある。
幸い言葉も文字も最初から通じたから、何処の国の言葉だって読むのに不自由もない。
でもさ、俺はその人たちが実際に生きていた証って言うか実感が欲しい訳。
俺以外にもこの世界に来た奴がいて、ちゃんと溶け込んで根付いて暮らして行けたんだって確かな証拠が欲しい。
俺もここでやっていけるんだって保証が欲しい。
だからリッドに頼んだ。
「連れて行くのは構わない。どうせなら王都に行けば観光も出来るし、帰りは転移石を使ってもいい」
「バカ、何百万もするようなものを使えるかよ。それくらいなら俺が――そうか。次は転移魔法陣を覚えたらいいのか」
俺は目標が決まってすっきりとした。
「ユウト、転移魔法陣は最上級魔法陣の中でも特に難しい。もう少し経験を積んでからの方がいいんじゃないか?」
「やりたい事をやるのが一番頑張れるんだよ。それに転移魔法が使えるようになったら、今度はあんたのピンチに駆け付けられるだろ?」
「バカ、お前に来られても助けには――」
「わかってる。俺があんたの助けになれる筈はない。でも遠く離れてて、手も足も出ないってのはもう嫌なんだ。何も出来なくてもせめて近くに行きたい」
「……ドラゴンブレスも防げるような結界魔法が使えなきゃ駄目だ」
「おっけ。それも一緒に覚える」
やる気満々で笑ったら、何故だかリッドが溜め息を吐いた。
「お前には街にいて欲しいのに」
「俺は子供じゃないからあんたの希望は聞いてやらない」
「子供だなんて思った事は無い」
嘘吐き、と思ったけれど俺は黙っていた。
どうせこの問題に関しては、俺たちは平行線だ。
今は言い争っている暇なんてない。
「ヤル気になるのはいいが、この間みたいに寝食を忘れたら無理矢理に口に突っ込むからな?」
ギラリと光る眼で睨まれて、流石に俺も素直に頷く。
こっちの世界に来るまで知らなかったのだが、俺は物作りに夢中になるとちょっと周りが見えなくなるみたいだ。
「せっかく依頼から帰って来ても俺の声も聞こえていないし、それどころか邪魔だと言われて、帰って来ない方が良かったのかと思った」
「あ~、悪かったって」
リッドの家なんだから堂々としてりゃいいのに。
意外と繊細なんだな。
「言っておくけど俺が細かいんじゃなく、お前が大雑把なんだからな」
だから人の考えを読むなって。
「わかったわかった。次は帰って来たらちゃんと相手をしてやるから、依頼に行って来いよ」
「ハァ……嫁に家を追い出されたコングの気持ちが分かるな」
「えっ? あんな顔して奥さんの尻に敷かれてんの? ってか結婚してたの?」
「コングは有名な愛妻家だ。ちょっとお前に感じが似ている」
へえ~、すっごく意外だ。
「羨ましいなら嫁に貰ってやろうか?」
久し振りにニヤニヤと笑われてリッドの腹を思い切りド突いた。
「バカ野郎、羨ましいのはコングだよ」
俺だって可愛い嫁さんが欲しい。
こんな頭からバリバリと喰われそうな男じゃなく、たゆんたゆんの胸を恥ずかしそうに腕で寄せる可愛い女の子と暮らしたい。
「ユウ、お前を守ってくれる女ならいるかもしれないが、お前に守られる女はいないぞ?」
「わかってるよっ! だからあんたで我慢してるんだろっ!」
「それでいい。ずっとうちにいろ」
満足気に頷かれてなんとなく負けた気分になる。
リッドの家で囲われてすっかり満足してしまっているのを見透かされているみたいだ。
(だって俺の部屋もあるし、ベッドは寝心地が好いし、居間には人をダメにするスライムクッションも置いてある。今さら何処か他所へ行こうなんて気にはなれないだろ)
おまけに冒険者故に一通りの事が出来るリッドは食事の世話までしてくれる。
なんだよ、リッドの方が嫁みたいじゃないか。
俺はちょっと顔を赤くして、それを隠すようにゴシゴシと頬を擦った。
「あんたの予定もあるだろうし、俺の転移魔法陣に目処が付いてから出掛けよう」
俺はそう言ってまた研究生活に入った。
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