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⑥魔獣より恐ろしいもの-1
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俺はリッドから連絡が入ってないかと何度もギルドに聞きに行って、とうとう無事に王都に着いたと知らされて心の底から安堵した。
(なんだよ、弱気な態度とか変な前振りをしやがって。やっぱりあいつは鬼強えぇんじゃねえか)
ああ騙された、心配して損をした、なんて思っていたらリッドたちが召喚獣に襲われたという報せが入ってきた。
「召喚獣ってなんだよ!?」
「召喚された魔物だっ!」
焦って叫んだ俺にギルマスも叫び返し、バタバタと動き始めた。
「上級冒険者で手の空いている奴を探せっ! 万が一討ち洩らした場合、街に入る前に片付ける」
「ギルマス、何名かの冒険者が勝手に動いたようです!」
「放って置け! 邪魔になるようなら拘束して構わん」
「市民に避難勧告は出しますかっ?」
「必要ない。その時は魔剣・ボルケーノを持って俺が出る」
「では装備を準備します!」
部屋の隅に立ち尽くす俺を無視して繰り広げられる会話に、全くついて行けない。
唯一わかったのは、誰もリッド達を助けるつもりがないという事だ。
(ギルドとしては召喚獣の討伐が第一目標なのはわかる。もしもリッド達が破れたら、第二第三の手を考えなくちゃいけない。それが冒険者の使命だし、常に最小の被害を目指すのは正しいんだろう。だけど、だけどさあ!)
俺は掌に爪が食い込むくらい強く拳を握り締めた。
今すぐに応援を送って欲しい。
けれど襲われた場所はここから遠く、どんなに急いでも丸一日は掛る距離だった。
今から応援を送ったって間に合わないし、だったらしっかりと体勢を整えて討ち洩らした場合に備える方がいい。
(わかってるけどリッドは無事なのかって、誰か助けてくれって思っちまうんだよっ!)
リッドは高ランク冒険者だけれどそんな事は全く関係が無い。
例え魔法が使えたって、魔剣を持っていたって、鬼のように強くたってやっぱり心配だしどうか無事でいますようにと祈ってしまう。
俺は自分が渡した御守りの存在も忘れてただひたすらに祈った。
「召喚獣三体のうち、二体まで倒しましたっ!」
魔法による狼煙みたいなもので向こうの情報が伝わり、ワッとギルド内に歓声が上がる。
但し負傷者も出たと聞いて直ぐに興奮が鎮まった。
「負傷の度合いは? 何名だ?」
「負傷者は三名。うち一名が重体、二名は軽傷との事です」
「よし、一名なら手持ちのポーションで足りるだろう。召喚獣も残り一体なら問題はないな」
「いえ、死霊召喚だったらしく、一度で倒し切れませんでした」
「魔剣は?」
「リッドの焔の魔剣だけです」
「負担が大きいな……」
周囲から危惧する声と、リッドなら倒せると期待する声が混じり合う。
俺だってリッドなら、と期待している。
でも一人で背負い過ぎてはいないかと心配なのもまた本心だった。
「魔剣があれば、倒せるのか?」
「えっ? ユート……プッ、なんて顔をしてんだよ」
俺が余程に切羽詰まった表情をしていた所為か、ギルマスがおかしそうに噴き出した。
「魔剣はそんな万能アイテムじゃないし、使い手も選ぶ」
「でも、魔剣は普通の剣とは違うんだろ? せめてもう一本あれば、死霊召喚獣だって楽に倒せるんだろう?」
「そうだな。もう一本魔剣があれば、俺たちも安心出来たな」
まるで子供に言い聞かせているような口調に、そんなに簡単な事じゃないのだろうと察しがつく。
きっと魔剣は数が少ないとか、使える人間がほぼいないとか、少ない魔剣を一カ所に集中させるのは勿体ない使い方だとか、色々と意見や理由があるんだろう。
「ごめん。リッドだけ、負担が大きいって聞いたから……」
「いいんだ。あいつにも、一人くらいはそうやって心配してくれる人がいないとな」
ポンポンと頭を叩かれて悔し涙が滲む。
俺が慰められてる場合じゃないのに。
「ギルマス、現場の負担をもう少し――」
「悪い、続報が入ったらしい。後にしてくれ」
俺は慌ただしく通信係に駆け寄るギルマスの背中を見送り、言えなかった言葉を胸の中で反芻する。
(現場の負担をもう少しだけ軽くしてくれ)
そんな言葉はこの世界の誰も聞いちゃくれないし、第一線に出ている冒険者自身ですら望まないだろう。
それはリッドの反応でもわかっていた事だ。
(彼らに望めないなら、俺がなんとかするしかない)
俺が勝手にする事なら、それがプラスに働くならきっと反対されないだろう。
でもまずはリッドの帰りを待たなくては。
「ギルマスッ! 数名の冒険者が勝手に乱入、場を混乱させているそうです!」
「なんだと!?」
通信係の取り乱した声が聴こえ、ギルマスも予想外の事態に珍しく慌てる。
「ここを飛び出した冒険者――どうやら下位ランクの者たちが、転移石を持ち出して移動したようです」
「馬鹿が……」
ギリッとギルマスの歯ぎしりが聴こえた。
何かとんでもない事をしでかした跳ねっ返りがいるらしい、と思っていたらその内の一名は俺に突っかかって来た新人のアインだと言う。
「一丁前に力になるんだなんて言ってるが、却って足手纏いだとどうして気付かない!?」
酷く腹立たし気なギルマスの言葉に心の内で俺も同意する。
あんなにリッドに迷惑を掛けていたのに、この大変な時に考え無しに飛び出して行ったのか。
しかもギルドの秘蔵品を盗み出して、後でどう言い繕うつもりか。
「全ては召喚獣を討伐してからだ」
重々しいギルマスの言葉に、誰しも黙るしかないのだった。
(なんだよ、弱気な態度とか変な前振りをしやがって。やっぱりあいつは鬼強えぇんじゃねえか)
ああ騙された、心配して損をした、なんて思っていたらリッドたちが召喚獣に襲われたという報せが入ってきた。
「召喚獣ってなんだよ!?」
「召喚された魔物だっ!」
焦って叫んだ俺にギルマスも叫び返し、バタバタと動き始めた。
「上級冒険者で手の空いている奴を探せっ! 万が一討ち洩らした場合、街に入る前に片付ける」
「ギルマス、何名かの冒険者が勝手に動いたようです!」
「放って置け! 邪魔になるようなら拘束して構わん」
「市民に避難勧告は出しますかっ?」
「必要ない。その時は魔剣・ボルケーノを持って俺が出る」
「では装備を準備します!」
部屋の隅に立ち尽くす俺を無視して繰り広げられる会話に、全くついて行けない。
唯一わかったのは、誰もリッド達を助けるつもりがないという事だ。
(ギルドとしては召喚獣の討伐が第一目標なのはわかる。もしもリッド達が破れたら、第二第三の手を考えなくちゃいけない。それが冒険者の使命だし、常に最小の被害を目指すのは正しいんだろう。だけど、だけどさあ!)
俺は掌に爪が食い込むくらい強く拳を握り締めた。
今すぐに応援を送って欲しい。
けれど襲われた場所はここから遠く、どんなに急いでも丸一日は掛る距離だった。
今から応援を送ったって間に合わないし、だったらしっかりと体勢を整えて討ち洩らした場合に備える方がいい。
(わかってるけどリッドは無事なのかって、誰か助けてくれって思っちまうんだよっ!)
リッドは高ランク冒険者だけれどそんな事は全く関係が無い。
例え魔法が使えたって、魔剣を持っていたって、鬼のように強くたってやっぱり心配だしどうか無事でいますようにと祈ってしまう。
俺は自分が渡した御守りの存在も忘れてただひたすらに祈った。
「召喚獣三体のうち、二体まで倒しましたっ!」
魔法による狼煙みたいなもので向こうの情報が伝わり、ワッとギルド内に歓声が上がる。
但し負傷者も出たと聞いて直ぐに興奮が鎮まった。
「負傷の度合いは? 何名だ?」
「負傷者は三名。うち一名が重体、二名は軽傷との事です」
「よし、一名なら手持ちのポーションで足りるだろう。召喚獣も残り一体なら問題はないな」
「いえ、死霊召喚だったらしく、一度で倒し切れませんでした」
「魔剣は?」
「リッドの焔の魔剣だけです」
「負担が大きいな……」
周囲から危惧する声と、リッドなら倒せると期待する声が混じり合う。
俺だってリッドなら、と期待している。
でも一人で背負い過ぎてはいないかと心配なのもまた本心だった。
「魔剣があれば、倒せるのか?」
「えっ? ユート……プッ、なんて顔をしてんだよ」
俺が余程に切羽詰まった表情をしていた所為か、ギルマスがおかしそうに噴き出した。
「魔剣はそんな万能アイテムじゃないし、使い手も選ぶ」
「でも、魔剣は普通の剣とは違うんだろ? せめてもう一本あれば、死霊召喚獣だって楽に倒せるんだろう?」
「そうだな。もう一本魔剣があれば、俺たちも安心出来たな」
まるで子供に言い聞かせているような口調に、そんなに簡単な事じゃないのだろうと察しがつく。
きっと魔剣は数が少ないとか、使える人間がほぼいないとか、少ない魔剣を一カ所に集中させるのは勿体ない使い方だとか、色々と意見や理由があるんだろう。
「ごめん。リッドだけ、負担が大きいって聞いたから……」
「いいんだ。あいつにも、一人くらいはそうやって心配してくれる人がいないとな」
ポンポンと頭を叩かれて悔し涙が滲む。
俺が慰められてる場合じゃないのに。
「ギルマス、現場の負担をもう少し――」
「悪い、続報が入ったらしい。後にしてくれ」
俺は慌ただしく通信係に駆け寄るギルマスの背中を見送り、言えなかった言葉を胸の中で反芻する。
(現場の負担をもう少しだけ軽くしてくれ)
そんな言葉はこの世界の誰も聞いちゃくれないし、第一線に出ている冒険者自身ですら望まないだろう。
それはリッドの反応でもわかっていた事だ。
(彼らに望めないなら、俺がなんとかするしかない)
俺が勝手にする事なら、それがプラスに働くならきっと反対されないだろう。
でもまずはリッドの帰りを待たなくては。
「ギルマスッ! 数名の冒険者が勝手に乱入、場を混乱させているそうです!」
「なんだと!?」
通信係の取り乱した声が聴こえ、ギルマスも予想外の事態に珍しく慌てる。
「ここを飛び出した冒険者――どうやら下位ランクの者たちが、転移石を持ち出して移動したようです」
「馬鹿が……」
ギリッとギルマスの歯ぎしりが聴こえた。
何かとんでもない事をしでかした跳ねっ返りがいるらしい、と思っていたらその内の一名は俺に突っかかって来た新人のアインだと言う。
「一丁前に力になるんだなんて言ってるが、却って足手纏いだとどうして気付かない!?」
酷く腹立たし気なギルマスの言葉に心の内で俺も同意する。
あんなにリッドに迷惑を掛けていたのに、この大変な時に考え無しに飛び出して行ったのか。
しかもギルドの秘蔵品を盗み出して、後でどう言い繕うつもりか。
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