上 下
14 / 181

⑥魔獣より恐ろしいもの-1

しおりを挟む
 俺はリッドから連絡が入ってないかと何度もギルドに聞きに行って、とうとう無事に王都に着いたと知らされて心の底から安堵した。

(なんだよ、弱気な態度とか変な前振りをしやがって。やっぱりあいつは鬼強えぇんじゃねえか) 
 ああ騙された、心配して損をした、なんて思っていたらリッドたちが召喚獣に襲われたという報せが入ってきた。

「召喚獣ってなんだよ!?」
「召喚された魔物だっ!」
 焦って叫んだ俺にギルマスも叫び返し、バタバタと動き始めた。

「上級冒険者で手の空いている奴を探せっ! 万が一討ち洩らした場合、街に入る前に片付ける」
「ギルマス、何名かの冒険者が勝手に動いたようです!」
「放って置け! 邪魔になるようなら拘束して構わん」
「市民に避難勧告は出しますかっ?」
「必要ない。その時は魔剣・ボルケーノを持って俺が出る」
「では装備を準備します!」
 部屋の隅に立ち尽くす俺を無視して繰り広げられる会話に、全くついて行けない。
 唯一わかったのは、誰もリッド達を助けるつもりがないという事だ。

(ギルドとしては召喚獣の討伐が第一目標なのはわかる。もしもリッド達が破れたら、第二第三の手を考えなくちゃいけない。それが冒険者の使命だし、常に最小の被害を目指すのは正しいんだろう。だけど、だけどさあ!)
 俺は掌に爪が食い込むくらい強く拳を握り締めた。
 今すぐに応援を送って欲しい。
 けれど襲われた場所はここから遠く、どんなに急いでも丸一日は掛る距離だった。
 今から応援を送ったって間に合わないし、だったらしっかりと体勢を整えて討ち洩らした場合に備える方がいい。

(わかってるけどリッドは無事なのかって、誰か助けてくれって思っちまうんだよっ!)
 リッドは高ランク冒険者だけれどそんな事は全く関係が無い。
 例え魔法が使えたって、魔剣を持っていたって、鬼のように強くたってやっぱり心配だしどうか無事でいますようにと祈ってしまう。
 俺は自分が渡した御守りの存在も忘れてただひたすらに祈った。

「召喚獣三体のうち、二体まで倒しましたっ!」
 魔法による狼煙みたいなもので向こうの情報が伝わり、ワッとギルド内に歓声が上がる。
 但し負傷者も出たと聞いて直ぐに興奮が鎮まった。

「負傷の度合いは? 何名だ?」
「負傷者は三名。うち一名が重体、二名は軽傷との事です」
「よし、一名なら手持ちのポーションで足りるだろう。召喚獣も残り一体なら問題はないな」
「いえ、死霊召喚だったらしく、一度で倒し切れませんでした」
「魔剣は?」
「リッドの焔の魔剣だけです」
「負担が大きいな……」
 周囲から危惧する声と、リッドなら倒せると期待する声が混じり合う。
 俺だってリッドなら、と期待している。
 でも一人で背負い過ぎてはいないかと心配なのもまた本心だった。

「魔剣があれば、倒せるのか?」
「えっ? ユート……プッ、なんて顔をしてんだよ」
 俺が余程に切羽詰まった表情をしていた所為か、ギルマスがおかしそうに噴き出した。

「魔剣はそんな万能アイテムじゃないし、使い手も選ぶ」
「でも、魔剣は普通の剣とは違うんだろ? せめてもう一本あれば、死霊召喚獣だって楽に倒せるんだろう?」
「そうだな。もう一本魔剣があれば、俺たちも安心出来たな」
 まるで子供に言い聞かせているような口調に、そんなに簡単な事じゃないのだろうと察しがつく。
 きっと魔剣は数が少ないとか、使える人間がほぼいないとか、少ない魔剣を一カ所に集中させるのは勿体ない使い方だとか、色々と意見や理由があるんだろう。

「ごめん。リッドだけ、負担が大きいって聞いたから……」
「いいんだ。あいつにも、一人くらいはそうやって心配してくれる人がいないとな」
 ポンポンと頭を叩かれて悔し涙が滲む。
 俺が慰められてる場合じゃないのに。

「ギルマス、現場の負担をもう少し――」
「悪い、続報が入ったらしい。後にしてくれ」
 俺は慌ただしく通信係に駆け寄るギルマスの背中を見送り、言えなかった言葉を胸の中で反芻する。

(現場の負担をもう少しだけ軽くしてくれ)
 そんな言葉はこの世界の誰も聞いちゃくれないし、第一線に出ている冒険者自身ですら望まないだろう。
 それはリッドの反応でもわかっていた事だ。

(彼らに望めないなら、俺がなんとかするしかない)
 俺が勝手にする事なら、それがプラスに働くならきっと反対されないだろう。
 でもまずはリッドの帰りを待たなくては。

「ギルマスッ! 数名の冒険者が勝手に乱入、場を混乱させているそうです!」
「なんだと!?」
 通信係の取り乱した声が聴こえ、ギルマスも予想外の事態に珍しく慌てる。

「ここを飛び出した冒険者――どうやら下位ランクの者たちが、転移石を持ち出して移動したようです」
「馬鹿が……」
 ギリッとギルマスの歯ぎしりが聴こえた。
 何かとんでもない事をしでかした跳ねっ返りがいるらしい、と思っていたらその内の一名は俺に突っかかって来た新人のアインだと言う。

「一丁前に力になるんだなんて言ってるが、却って足手纏いだとどうして気付かない!?」
 酷く腹立たし気なギルマスの言葉に心の内で俺も同意する。
 あんなにリッドに迷惑を掛けていたのに、この大変な時に考え無しに飛び出して行ったのか。
 しかもギルドの秘蔵品を盗み出して、後でどう言い繕うつもりか。

「全ては召喚獣を討伐してからだ」
 重々しいギルマスの言葉に、誰しも黙るしかないのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。

鋼の殻に閉じ込められたことで心が解放された少女

ジャン・幸田
大衆娯楽
 引きこもりの少女の私を治すために見た目はロボットにされてしまったのよ! そうでもしないと人の社会に戻れないということで無理やり!  そんなことで治らないと思っていたけど、ロボットに認識されるようになって心を開いていく気がするわね、この頃は。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

王子様との婚約回避のために友達と形だけの結婚をしたつもりが溺愛されました

竜鳴躍
BL
アレックス=コンフォートはコンフォート公爵の長男でオメガである! これは、見た目は磨けば美人で優秀だが中身は残念な主人公が大嫌いな王子との婚約を回避するため、友達と形だけの結婚をしたつもりが、あれよあれよと溺愛されて満更ではなくなる話である。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 1/10から5日くらいBL1位、ありがとうございました。 番外編が2つあるのですが、Rな閑話の番外編と子どもの話の番外編が章分けされています。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※僕はわがまま 時系列修正 ※ヤード×サンドル終わったのでラブラブ番外編を末尾に移動 2023.1.20

カップル奴隷

MM
エッセイ・ノンフィクション
大好き彼女を寝取られ、カップル奴隷に落ちたサトシ。 プライドをズタズタにされどこまでも落ちてきく。。

【完結】愛する人にはいつだって捨てられる運命だから

SKYTRICK
BL
凶悪自由人豪商攻め×苦労人猫化貧乏受け ※一言でも感想嬉しいです! 孤児のミカはヒルトマン男爵家のローレンツ子息に拾われ彼の使用人として十年を過ごしていた。ローレンツの愛を受け止め、秘密の恋人関係を結んだミカだが、十八歳の誕生日に彼に告げられる。 ——「ルイーザと腹の子をお前は殺そうとしたのか?」 ローレンツの新しい恋人であるルイーザは妊娠していた上に、彼女を毒殺しようとした罪まで着せられてしまうミカ。愛した男に裏切られ、屋敷からも追い出されてしまうミカだが、行く当てはない。 ただの人間ではなく、弱ったら黒猫に変化する体質のミカは雪の吹き荒れる冬を駆けていく。狩猟区に迷い込んだ黒猫のミカに、突然矢が放たれる。 ——あぁ、ここで死ぬんだ……。 ——『黒猫、死ぬのか?』 安堵にも似た諦念に包まれながら意識を失いかけるミカを抱いたのは、凶悪と名高い豪商のライハルトだった。 ☆3/10J庭で同人誌にしました。通販しています。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...