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閑話

閑話その①一本勝負!

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 オカマバーには魔の時間帯というものが存在する。
 どれ程に格式のある品の良い店でも、接客をしているのがあしらい慣れたオカマでも避けられない乱痴気騒ぎが起こる。
 だって男なんて酒が入れば、場が盛り上がればついつい羽目を外してしまう生き物で、それは勿論オカマも例外では無いのだ。

「いやぁん、綱引きって何処に紐を結ぶのよぅ~」

 ぷっくりと膨らんだ涙型のアナルプラグの端に客がゴム紐を結ぶのを見て、アンコがゲラゲラと笑った。

「これを後ろに咥え込んでな、締りの良い方が勝つって寸法だよ」
「勝ったら何をくれんのよぉ」
「そうだな、勝ち抜けた奴には毛皮をやろう。たっぷりとしたミンクの毛皮は中が裸でも温かいぞ?」
「いやぁねぇ~、本当に変態なんだから」

 そう言いつつもアンコはすっかりその気になった。
 店内に残っている客は常連ばかりだし、スタッフも気心の知れたノリの良い仲間ばかりだ。

「あたしの対戦相手は誰かしら~?」

 声を掛けたらいつもは真っ先に手を上げるノリが躊躇い、代わりに意外にもケンヂが挙手した。

「あらぁ、ケンちゃんったらいいのぉ?」

 アンコがちろりと黒服の三崎に視線を流したが、ケンヂは強い口調でいいのだと言い切った。

「アタシだってやれば出来るんだから。いつまでもひよっこじゃないんだからね!」
「ふぅん……」

 アンコはどうせ彼氏と喧嘩でもしているのだろうと、やれやれと肩を竦めながら紫色のアナルプラグを渡した。

「これをジェルでたっぷりと濡らして、スカートの下に突っ込んでぇ……」
「おーい、アンコ。余り濡らすとすっぽ抜けやすいだろ。何も知らねぇケンちゃんに適当な吹かしすんじゃねーぞ」

 客のヤジにアンコが毒吐いて見せる。

「ばかぁ、ケンちゃんは慣れてないんだから濡らさなきゃ入んないのよ。ガバガバのあたしとは違うの!」
「おう、アンコはガバガバか。ガバガバ」

 ははは、と楽しそうに笑う客にアンコが陰でにんまりと笑う。

(そうやって笑ってなさいよね。あたしが勝ち抜いてたっかいミンクのコートを買わせてあげるんだからねっ!)

 当然のように勝つ気でいるアンコはアナルプラグをスカートの中で後孔に押し込んだ。

「んんっ、感じちゃうぅ~」

 アンコはわざと恍惚とした表情を作りしなを作って身を捩った。

(こんなのを見て前をおっ勃てているんだから男って本当にバカよね。それにしても……)

 アンコは演技でなく茹った顔をしているケンヂを少し難しい顔で見た。

 前々から思っていた事だが、どうやらケンヂにはマゾっ気があるらしい。
 だからオーナーに強引に触られると嫌がりつつも感じていたし、客前で恥ずかしい目に遭うと興奮してしまう。
 今も見えないとはいえ人前でアナルプラグを後ろに挿入し、アンコと紐で繋がっている事に言い様の無い昂ぶりを覚えているらしい。

(意外と強敵かも……)

 アンコはケンヂが本気で感じてプラグを締め付ける事を危惧した。

(これだから淫乱ちゃんは困るのよね~)

「さ、行くわよ!」

 アンコは声を掛けてからちょこまかと内股で歩いた。

「アンコ姐さん、待って! スカートが捲れちゃう、待って!」

 ピンと張った紐に引き上げられてスカートが捲れ上がってしまうそうしたらお尻が見えちゃう、と慌てたケンヂにアンコは無情にも告げた。

「あら、見られるのが嫌なら穴を弛めなさいよ。プラグが抜けたら見られないで済むわよ?」
「意地悪っ、姐さんの意地悪ぅ……」

 ケンヂは泣きそうな顔でギュッと両手を組み合わせて引き絞った。
 どうやらアンコの危惧した通り、感じちゃって弛める事が出来ないらしい。

「あらあら、締め付けて離さないなんてはしたないコね。お仕置きにあたしが無理矢理に引っこ抜いてあげるわね」

 そう言うとアンコは尻穴をキュッと窄めて前に身体を引いた。ギリギリまで張られていた紐がケンヂの短いスカートを捲り上げ、力が入ってエクボの浮いた尻がぷりんと見えた。

「おっ、見えたぞ!」

 客の声にケンヂの尻穴が一瞬だけ弛んだ。大きな声では言えないが、入ってくるものに備えて力を抜く事を覚えていた身体が勝手に肉棒を期待してそうしたのだ。
 スポン、と勢いよく尻から抜け出したものに歓声が沸き、ケンヂが真っ赤に染まった顔を両手で隠してバックヤードに逃げ込んだ。

(いやいやいやっ! 三崎さん以外の男にお尻を見られて、プラグが出るところまで見られて……。アタシもう恥ずかしくてお店に出られない!)

 ヒックヒックと肩を震わせて泣くケンヂに優しく冷たい声が掛かる。

「人前で何て事をしたの? お尻を見せて、プラグを出すところを見られるなんて……」
「違う! 見せたくなかったの、でもスカートが短いから捲れちゃって――」
「それで感じてた癖に。まぁ、お陰でケンちゃんのナカに入ってたプラグをそのまま挿れて見せたらご褒美だって、向こうは随分と盛り上がってるけどね」
「……え? そんな事、誰が――」
「勿論、言い出したのは例の客。そしてケンちゃんがいなくなった後の尻拭いをするのは決まってるでしょ?」

 自ら身体を売り物にしていると公言している小生意気なオカマ。彼があの興奮した後を引き受けたなら――

「いけない、助けないと!」

 ケンヂは泣いている場合じゃないと涙を手の甲で拭った。

「三崎さん、ごめんね。アタシ、責任を取ってくる」
「うん。いってらっしゃい」

 信じてるから、と送り出されてケンヂは少々胸が痛い。
 喧嘩をしているからって腹癒せであんな事をするのではなかった。それに三崎以外でも感じてしまう自分が後ろめたい。

(だって姐さんはやっぱり素敵なんだもん。チャンスがあれば絡んでいたいんだよね)

 ちゃっかりとそんな事を思い、フロアに戻ったら何がどうなったのか生板ショーをやって見せる事になっていた。
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