闇の境界

刈部三郎

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迷い込んだ森

不気味な廃屋

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神宮寺翔は、日が暮れかけた学校の帰り道を歩いていた。普通の日常が繰り返されるはずのその夕方、彼の足はいつもの道を外れ、古びた廃屋が佇む森の中へと誘われた。何かに引き寄せられるようにして、彼はその場所に足を踏み入れる。

翔の学校は町の端にあり、自宅までの道のりには数多くの店や公園が点在していた。彼は普段、この道を友人たちと話しながら帰ることが多かった。しかし、この日は珍しく一人で帰ることになった。部活の練習が遅くなり、友人たちは先に帰ってしまったのだ。

「今日は一人か…」翔は小さくつぶやきながら、静かな道を歩いていた。

学校から自宅に戻る最短ルートは、途中にある小さな森を抜けることだった。その森は普段、昼間は明るくて賑やかだったが、夕方になると一変して不気味な雰囲気を醸し出していた。翔はその森に足を踏み入れるたびに、何か異様な気配を感じることがあったが、それでも毎日のように通り抜けていた。

しかし、この日は何かが違った。森の中に一歩足を踏み入れた瞬間、翔は背筋に冷たいものを感じた。風が強く吹き抜け、木々がざわめく音が耳に響いた。まるで森全体が何かを囁いているかのようだった。

「なんだろう、この感じ…」

翔は立ち止まり、周囲を見回した。木々の間から見える空は、夕焼けに染まり、赤とオレンジの光が森全体に奇妙な陰影を作り出していた。その陰影が、まるで何か生き物のように見える瞬間があり、翔は思わず目を凝らした。

「きっと気のせいだ…」翔は自分にそう言い聞かせ、再び歩き始めた。しかし、数歩進んだところで、突然、彼の視界に古びた建物が飛び込んできた。

その建物は、かつては誰かの家だったに違いない。外壁は苔とツタに覆われ、窓ガラスは割れ、ドアは半ば外れかけていた。屋根は崩れ落ち、内部が露出している部分もあった。その姿は、まるで長い間忘れ去られていたかのようだった。

「こんなところに廃屋が…?」

翔は興味をそそられ、その廃屋に近づいていった。近くで見ると、その状態はさらに酷く、まるで何かが内部から崩壊しているかのように見えた。彼はドアに手をかけ、そっと押し開けた。

ドアは重々しい音を立てながら開き、内部から冷たい風が吹き出してきた。その風に混じって、何か異様な気配が漂っていた。翔は一瞬ためらったが、好奇心に駆られ、その場所に足を踏み入れた。

「ここには何があるんだろう…」

内部は暗く、埃っぽかった。翔は懐中電灯を取り出し、部屋の隅々を照らしながら進んでいった。光が壁や床を照らし出すと、まるで生き物のように影が動き出したように見えた。翔の心臓は鼓動を速め、その緊張感が彼の呼吸を浅くした。

部屋の中には、古びた家具が無造作に置かれていた。テーブルには割れた皿やカップが散乱しており、床には何かの書類が散らばっていた。壁には何かの文字が書かれているが、埃と汚れで読み取ることはできなかった。

「誰かが住んでいたんだな…」

翔はその光景に驚きながらも、さらに内部を探索することにした。廃屋の奥にはいくつかの部屋があり、それぞれに異なる物語が隠されているかのようだった。彼は一つ一つの部屋を慎重に調べながら進んでいった。

ある部屋には、古びたベッドが置かれており、その上にはボロボロの毛布がかけられていた。ベッドの横には、小さなナイトテーブルがあり、その上には壊れた目覚まし時計が置かれていた。まるで誰かが急いで逃げ出したかのような痕跡だった。

別の部屋には、本棚があり、その中には古い本が何冊も詰まっていた。翔は一冊を手に取り、慎重にページをめくってみた。ページは黄ばんでおり、文字がかすれて読みにくかったが、それでも何かの手がかりになるかもしれないと思い、彼はその本を持ち帰ることにした。

翔がさらに奥の部屋に進むと、一枚の古びたドアが目に入った。そのドアは他のものよりも新しく、何か特別な場所に繋がっているような気がした。彼は手を伸ばし、そのドアを開けると…

ドアの向こうには、さらに深い闇が広がっていた。翔は一瞬ためらったが、再び好奇心に駆られ、その闇の中へと足を踏み入れた。部屋の中は冷たく湿っており、まるで何かに見張られているような感覚が全身を包んだ。

「ここには何が…?」

翔は懐中電灯を前方にかざしながら進んでいく。すると、突然、部屋の隅から奇妙な音が聞こえてきた。それは低いうなり声のような音であり、翔の背筋を凍りつかせた。

「誰かいるのか…?」

翔は声を震わせながら呼びかけたが、返事はなかった。しかし、その音は次第に近づいてくるように感じられた。翔は緊張と恐怖に駆られながら、懐中電灯を音の方向に向けた。

光が当たった瞬間、翔の目に飛び込んできたのは、歪んだ姿をした存在だった。異様な形をした影が、床から浮き上がり、まるで生きているかのように動き始めた。その姿は人間の形をしていながらも、明らかに異質なものだった。

翔はその光景に息をのむ。恐怖が彼の体を凍りつかせ、動くことができなかった。その異様な存在は、翔に向かってゆっくりと近づいてきた。

「逃げなきゃ…」

翔の頭の中で警告の声が響く。彼は懐中電灯を握りしめながら、後退りし始めた。しかし、足がもつれて転倒し、懐中電灯が手から滑り落ちた。暗闇が再び彼を包み込み、異様な存在の影が迫ってくる。

その瞬間、翔の耳に聞こえたのは、再び奇妙なうなり声だった。しかし、今回はそれが遠ざかっていくように感じられた。翔は恐る恐る顔を上げ、懐中電灯を手に取ると、再び光を灯した。

そこには、異様な存在の姿はなかった。翔は深呼吸をし、冷たい汗が頬を伝うのを感じながら立ち上がった。彼はその場から逃げ出したい衝動に駆られたが、何かに引き寄せられるようにして、さらに廃屋の奥へと進む決意を固めた。

翔は恐怖と好奇心が交錯する中で、その廃屋の奥に隠された真実を解き明かすための一歩を踏み出した。それは、彼がこれまで経験したことのない、未知の冒険の始まりだった。
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