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番外編~婚約してからも加速する独占欲
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王宮で開かれた婚約発表のためのパーティーには多くの人々が訪れた。
会場には国内の貴族だけではなく、国外からやってきた客人も集まっている。
ロシュディの隣を歩くパトリシアは頬が攣りそうになりながらも微笑みを浮かべ続けた。
「ロシュディ殿下、この度は御婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます、モニーク公爵」
既に何十人と挨拶を交わしているにも関わらず、疲れどころか余裕すら感じさせる様子で対応し続けるロシュディの横顔をちらりと見上げ、パトリシアは気合いを入れ直した。
覚悟していたことじゃない。これしきのことで疲れているようではダメよ。
ロシュディの隣に立つと決めたのだ。そのための訓練もしているし、王子妃として相応しい立ち居振る舞いは出来て当然でなくてはならない。
「先程も紹介しましたが改めて紹介させてください。彼女が婚約者のパトリシアです」
「お初にお目にかかります、パトリシア・ド・ヴォロワです」
何度も練習をしてやっと言い慣れた新しい姓を名乗る。
パトリシアは“第1王子の婚約者”であることと“ヴォロワ公爵家の養女”であることのプレッシャーを抱えていた。
ロシュディも義兄であり魔道士隊の上司であるシャルルもそこまで気負うことはないと言ってくれているが、出自が子爵家であり数年社交界とは無縁の生活をしていたパトリシアにはどちらの肩書きも緊張が伴う。
パトリシアにあてがわれた行儀見習いの教師からは及第点を得たが、未だに一礼するだけでもかなりの神経を使う。
会話を終えたあとは先程のやりとりに問題はなかったかどうかが気になる。心も体も休む暇がない。
モニーク公爵との挨拶を済ませるとすぐに別の人間が話をしにやってくる。
顔色ひとつ変えずに客人に合わせて柔軟に対応しつつ、パトリシアが会話に混ざれるようにさりげないフォローもやってのけるロシュディの社交力とサポート力には関心せざるを得なかった。
こうして隣に立って初めてその凄さを理解した。
「あの方はヴァルナ王国の第3王子、ナイジェル王子だよ」
コソッと耳打ちされた名前から必死で覚えてきた友好国のひとつであるヴァルナ王国とナイジェル王子の情報を記憶から引っ張りだす。
名前と情報は頭にあっても相手の顔と繋がらなければ意味がない。
『それだけ覚えていれば問題ないよ。招待客は全員把握しているから他のことは私に任せて』
パーティー会場に入る前にそう言って励ましてくれたロシュディを思い出す。
その言葉は見栄でもなんでもなく、ロシュディは本当に招待客全員の顔と名前だけでなく、その人物の最新の情報までも把握していた。
王子として当然のことといえばそうなのかもしれないが、その記憶力と情報網にも驚かされた。
一体どれほどの訓練を積み、日々努力をしていることか計り知れない。
ロシュディの助けをありがたく思いながらも、それに甘えてはいけないとパトリシアは自らを奮い立たせた。
会場には国内の貴族だけではなく、国外からやってきた客人も集まっている。
ロシュディの隣を歩くパトリシアは頬が攣りそうになりながらも微笑みを浮かべ続けた。
「ロシュディ殿下、この度は御婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます、モニーク公爵」
既に何十人と挨拶を交わしているにも関わらず、疲れどころか余裕すら感じさせる様子で対応し続けるロシュディの横顔をちらりと見上げ、パトリシアは気合いを入れ直した。
覚悟していたことじゃない。これしきのことで疲れているようではダメよ。
ロシュディの隣に立つと決めたのだ。そのための訓練もしているし、王子妃として相応しい立ち居振る舞いは出来て当然でなくてはならない。
「先程も紹介しましたが改めて紹介させてください。彼女が婚約者のパトリシアです」
「お初にお目にかかります、パトリシア・ド・ヴォロワです」
何度も練習をしてやっと言い慣れた新しい姓を名乗る。
パトリシアは“第1王子の婚約者”であることと“ヴォロワ公爵家の養女”であることのプレッシャーを抱えていた。
ロシュディも義兄であり魔道士隊の上司であるシャルルもそこまで気負うことはないと言ってくれているが、出自が子爵家であり数年社交界とは無縁の生活をしていたパトリシアにはどちらの肩書きも緊張が伴う。
パトリシアにあてがわれた行儀見習いの教師からは及第点を得たが、未だに一礼するだけでもかなりの神経を使う。
会話を終えたあとは先程のやりとりに問題はなかったかどうかが気になる。心も体も休む暇がない。
モニーク公爵との挨拶を済ませるとすぐに別の人間が話をしにやってくる。
顔色ひとつ変えずに客人に合わせて柔軟に対応しつつ、パトリシアが会話に混ざれるようにさりげないフォローもやってのけるロシュディの社交力とサポート力には関心せざるを得なかった。
こうして隣に立って初めてその凄さを理解した。
「あの方はヴァルナ王国の第3王子、ナイジェル王子だよ」
コソッと耳打ちされた名前から必死で覚えてきた友好国のひとつであるヴァルナ王国とナイジェル王子の情報を記憶から引っ張りだす。
名前と情報は頭にあっても相手の顔と繋がらなければ意味がない。
『それだけ覚えていれば問題ないよ。招待客は全員把握しているから他のことは私に任せて』
パーティー会場に入る前にそう言って励ましてくれたロシュディを思い出す。
その言葉は見栄でもなんでもなく、ロシュディは本当に招待客全員の顔と名前だけでなく、その人物の最新の情報までも把握していた。
王子として当然のことといえばそうなのかもしれないが、その記憶力と情報網にも驚かされた。
一体どれほどの訓練を積み、日々努力をしていることか計り知れない。
ロシュディの助けをありがたく思いながらも、それに甘えてはいけないとパトリシアは自らを奮い立たせた。
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