国外追放されたので野良ヒーラーをはじめたら勧誘がすごいです【完結】

厭悪

「罪人である証を失ったとしても、あなたは国外追放者であることに変わりはない。そのような者が何もなかったかのような顔でこの国に留まり続けるなど耐えられません」

「もとはと言えば貴女方が――」

「わたくし達がなにか？」


　悪ぶれた様子もなく冷たい表情を崩さないモーリーンに思わずクリスは激昂しかけたが、ぐっと言葉を飲み込んだ。

　こいつら、同じ人間とは思えない。クズだ。


「……あなた方との話は時間の無駄のようですね」


　吐き捨てるように言われた棘のある言葉もモーリーンは涼し気な顔で受け流す。


「エリック様も、よろしいですわよね？」

「いや、アンジェリカは我が国の魔道士として――」

「優秀な魔道士は大勢いますわ。ドラゴンが欲しいのであれば討伐隊にでも任せて狩りに行かせたらいいのです。何故あの女に固執するのでしょうか」


　エリックに向けられるモーリーンの瞳の中には強い嫉妬と怒りが溢れていた。


「結婚式までもう日がないのです。これ以上の揉め事は控えた方がよろしいのではないでしょうか」


　その気迫に押され、エリックは口を閉ざさざるを得なかった。


「それにこれはヨハン国王陛下も賛成されております」

「な、父上……国王陛下が？！」


　エリックははっとした。
　クリス一行の王都入りの連絡が上がらないように手を回したのはモーリーンなのではないか。秘密裏に国王に話をつけるあたり、疑わしい。
　アンジェリカに手を下すことができないとわかったモーリーンは、アンジェリカを追い出すほうへと手を変えたのだ。

　まさかアンジェリカに主従の呪いをかけるつもりでいたことも気づいて……？


「そういう訳ですので、その女を差し上げますわ。クリス殿下。……では、失礼いたします。行きましょう、エリック様」


　さっと踵を返し、モーリーンは扉に向かって行った。
　それを見たエリックはなにかを言いたそうに口を開閉させたが、悔しさの滲む顔でアンジェリカ達を睨みつけると出ていこうとしているモーリーンの後を追った。

　1人でどんどん廊下の先へ行ってしまうモーリーンの背を追いかけるエリックは、追いつくとその肩に手を置いて無理矢理に振り向かせた。


「どういうつもりなんだモーリーン！　なぜ私に黙って国王陛下に話を徹した？！」


　エリックは思いどうりにいかない苛立ちをぶつけるように声を荒らげた。それを受け止めるモーリーンは一瞬だけ辛そうに眉を寄せたが、すぐに冷ややかな目でエリックを見返した。


「どういうつもり？　それはわたくしの台詞です。先程も言いましたが、もう結婚式まで時間がないのです。そんなときにトライヴスと揉め事を起こすようなことをなさって」

「あちらが勝手に乗り込んできたんじゃないか！」

「それはエリック様があの女を連れてきたからではないですか」

「確かにそうだが、それは国王陛下に――」

「国王陛下があの女を所望されたと？　国王陛下の狙いは、トライヴスがあの女を手に入れるのを阻止することですわ。手に入らないのなら始末することも厭わない、エリック様がそれを汲み取れなかったはずはありません」

「……っ」


　モーリーンの言うとおりだった。
　エリックは返す言葉がなくなり、唇を噛み締めることしかできない。
　そんなエリックから視線をはずし、短く嘆息したモーリーンはくるりと背を向けた。


「 エリック様がなさらないのなら、わたくしが手を下します」

　低く呟くような声にエリックははっとした。


「なにをするつもりだ」


　まっすぐに前を向いているモーリーンの目に宿るのは仄暗い闇だ。
　

「あの女を葬るのです。今度は確実に。二度とわたくしの前に現れないように」