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罪人?

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 「ブラックドラゴンとは普段はどう接しているのですかな?」


 討伐部隊長だけでなく、魔道士団長や他の大臣たちも興味深げにアンジェリカの話に耳を傾けている。あわよくばブラックドラゴンを手なずけたいという欲がちらりと伺えるが、アンジェリカは顔色を変えることなく正直に話す。


「普段は遊びに付き合うことが多いです」

「遊び?」


 ブラックドラゴンの話になると表情が柔らかくなるのを見てとったクリスも興味津々で聞く。


「はい。オニキスは大きく見えますがまだ幼体ですので」

「人の子と同じというわけですか。どんな遊びをなさっているんですか?」
 
「散歩やボール投げです。あとダンスとか」
 
「ダンス? ドラゴンがダンスを踊るのか!」

 
 それまで黙って聞いていたジョナサンが豪快に笑いだした。


「さぞかし見物でしょうな」


 それにつられて他の大臣たちも笑い声をたてる。

 本当に踊るんだもん。可愛いんだから。

 まるでアンジェリカが冗談を言ったかのような空気だが、本人は至って真剣だった。内心頬を膨らませながら、場の空気を崩さないようににこりと笑う。
 

「是非ともブラックドラゴンと一緒に踊っているところを見させてください」

 
 他の者が笑うなか、クリスだけはまっすぐにアンジェリカの目を見て言った。
 なにを期待されているのか、その目はキラキラとしている。
 
 ダンスというよりもこどものお遊戯のような動きなので、見られるの恥ずかしいかも……、とアンジェリカは曖昧な笑みを浮かべた。


「まだ話を聞きたいところではありますが、アンジェリカ嬢は旅の途中にお越しいただいているので今日はもう休ませて差し上げましょう」


 話が尽きないなか、席を立つタイミングを計りかねていたアンジェリカはクリスがだしてくれた助け舟に秘かにほっとした。


「そうですな、明日は討伐部隊の訓練所にお越しいただかなくてはなりませんから、万全にしていただかなくては隊員達にどやされてしまう」

「ずるいですぞ討伐部隊長殿……! ぜひ魔道士団の訓練所にもお越しください。歓迎いたします」
 

 熱烈な誘いに苦笑を浮かべつつ、アンジェリカはクリスのエスコートで席を立った。

 庭園に面した廊下を進んでいたとき、ふとクリスは足を止めた。


「よければ、少しだけ話せませんか。どうしても聞きたいことがあるのです」


 その眼差しの強さにアンジェリカは頷かざるを得なかった。
 護衛の騎士を廊下に待たせ、クリスの先導で庭園を進む。月明かりに照らされ落ち着きと物悲しさが漂う庭園はしっかりと手入れが行き届いており、色とりどりの花で飾られている。

 待っている騎士たちに声が聞こえないところまで来ると、クリスは立ち止まってアンジェリカを振り向いた。


「よければ、サンプトゥンであなたに何があったのかを教えてくれませんか」


 やっぱりその話か。

 何を聞かれるかは予想していた。
 食事中、クリスがずっと自分の様子を伺うようにして見ていたことに気がついていたからだ。

 アンジェリカは短く深呼吸をしてから小さく頷いた。

 
「婚約者候補の皆さんに姑息な手段でエリック様を諦めさせるように仕向け、最有力候補の公爵令嬢を……殺しかけました」
 

「あなたが? なぜ?」

「……」

 
 問いにこたえず、アンジェリカは俯いた。痛みを堪えるかのような辛そうな表情と、かたく握りしめられた拳にクリスは何かを察した。
 

「……あなたは本当に罪を犯したのですか?」
 

 アンジェリカは弾かれたように顔を上げたが、唇を噛み締めるとまたすぐにクリスから視線を逸らした。


「どうか、これ以上はご容赦ください」
 

 大きな目をふちどる長い睫毛を震わせ、アンジェリカは一礼して立ち去った。



 
 
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