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一章:貴族令嬢は罪滅ぼし活動に忙しい
第8話 第三のミッション、遂行
しおりを挟む静かな夜。
あたしはヘアブラシで髪を梳かす。
(なんてキューティクルなの!)
10歳当時の髪の質に感動する。
(あたし、超サラサラ!)
牢屋に入ってからの髪の毛は、いつもごわごわだった。
「るんるるーん! るるるるー!」
あたしは鼻歌を奏でながら、一人の夜を存分に味わっていた。
(ああ、今日も疲れたわ。朝食からママからのピリピリアーケードモード。でも、それをぶち壊すあたし)
「メニー、ブロッコリー好きなの? あたしのもあげるわよ」
「あ、あの……」
「テリー、甘やかしてはいけません。メニー、おかわりならおかわりだと言いなさい」
「ご、ごめんなさい……」
「気にすることないわよ。メニー。ママはね、可愛いメニーとあたしが仲良くしてるからヤキモチを妬いてるんだわ」
「……」
ママのナイフがオムレツを突き刺す。アメリが信じられないという目であたしを見つめる。あたしは笑顔でメニーに接する。メニーが一生懸命朝食を食べる。
「メニー、ほっぺたにくっついてるわよ」
「あう……」
「ふふふ!」
あたしはナプキンでメニーの口を拭いてあげて、笑顔を浮かべるのだ。
「ゆっくりでいいのよ。美味しく食べてね。メニー!」
(疲れた)
昼間はメニーと読書タイム。
(眠かった……)
さらにお人形遊び。
「おかえり、あなたー」
「ただいま、はにー」
(疲れた……)
ランチはメニーと二人でサンドウィッチを。
「メニー、ゆっくり食べるのよ」
「ふぁい!」
「サリア、ランチ食べた?」
「わたしたちはこの後に」
「サリアも一緒に食べればいいわ」
「ふふっ。そういうわけにもいきませんから」
サリアとはどんどん仲良くなっていく。どんどん喋れば、サリアもどんどん喋ってくれる。
(あたしはあの女が気に入ったわ。見た目もそんなに悪くないし、側に置いても苦じゃない)
それからは夕方までお勉強。
「メニー、これは読める?」
「読めるよ」
「メニー、これは?」
「読めるよ」
「メニー、これは」
「読める」
「これ」
「読める」
「こ」
「大丈夫」
(人が気を遣ってやればあの野郎ぉぉぉおおおおおお!!)
本ばっかり読んでるから国語はすらすら。
(これなら、いつ次の家庭教師が来ても大丈夫ね! ふん!!)
夕食もママからのピリピリパリピモード。しかし、さらにそれをぶち壊すあたし。
「メニーって頭いいのねぇー。アルファベット完璧じゃない」
「あ……うう……」
「将来有望ね。メニーがパーティーに行く日が楽しみだわー」
あたしはにっこりする。
「メニーの晴れ姿は、きっとすっごく綺麗なんでしょうね」
ママは静かに食事をする。アメリは呑気に食事をする。メニーは気まずそうに食事をする。しかし、あたしは笑顔でふるまう。
「フレッド!」
あたしは使用人に声をかける。
「スープおかわり!」
(疲れたわ……)
誰よりもあたしが疲れている気がした。
(いつまでこんな生活がつづくのかしら……)
いつになったらママはメニーを受け入れるのかしら。いつになったらアメリはこの状況に気づくのかしら。
(あたしが死刑を回避するために、こんなに頑張ってるというのに!)
ここは家族一致団結で頑張るところじゃないの!?
「くそが」
ブラシを机に置く。さらさらになった髪の毛を触る。
「完璧」
つやつやしてて美しい。
「さすがあたし。素晴らしいわ」
立ち上がって、一回欠伸。
「ふわあ」
よし、寝よう。
(疲れた……)
ベッドに向かって歩き出すと、こんこん、とノックされた。
「んっ」
もう一度、こんこんとノックされた。
「どうぞ」
ドアが開けられる。メニーが枕を抱えて、ちょこんと立っていた。あたしの目がぱちぱちと瞬きされる。
「メニー?」
「あの、ごめんなさい……」
「どうしたの? 入りなさいな」
部屋に招き、メニーが中に入り、ドアを閉める。ぎゅっと枕を抱きしめて、あたしを見る。
「あのね」
メニーがぼそりと言った。
「……怖い、話、見ちゃって……」
メニーが俯いた。
「眠れなくなっちゃったから、お姉ちゃんと、話したくて……」
(あ?)
あたしの顔がぴくりと引きつった。しかし、笑顔を浮かべる。
「ふふ。メニー、あんた寝る前にまた変な本でも読んだんでしょ」
「……うん」
「ばかね。メニーってば」
(この間抜け! なんでわざわざ自分から眠れなくなる真似なんてするのよ! てめえ頭いいならそれくらいわかるでしょうが! このドあほう! ばかっっっ!)
あたしはにっこーりと微笑む。
「寝る前に、なにか飲もうか?」
「……いい」
「ホットミルクでも」
「いらない……」
首を振るメニーに、かちんとくる。
(うぐううううううううううう!!)
メニーを睨む。
(どうしろってのよ! あたしに、どうしろってのよ!)
「メニー、とりあえずソファーにお座り」
「……はい」
とことこ歩いていき、ちょこんと座る。あたしも隣に座って、ニコニコしてメニーを見つめる。
「お話ししたいの?」
「うん」
こくりと頷く。
「そう。じゃあ、なんのお話しましょうか!」
「……」
メニーがぎゅっと枕を抱きしめて黙り込んだ。あたしは笑顔を浮かべつづける。メニーは黙る。あたしはニコニコする。メニーは黙る。
あたしのこめかみに、青筋が立った。
(帰れ!!)
用が無いなら、自分の部屋に帰れ!!
(あたしはてめえと話すよりも、てめえのその可愛い頬をぶっ叩きたいのよ!)
殴ってやりたい殴ってやりたい殴ってやりたい!! ぐおおおおお!! 堪えろ堪えろ堪えろあたし! あたしはやればできる子! 堪える子! 愛し愛するさすれば君は救われる愛し愛するさすれば君は救われる愛し愛するさすれば君は救われる愛し愛するさすれば君は救われる愛し愛するさすれば君は救われる愛し愛するさすれば君は救われる愛し愛するさすれば君は救われる愛し愛するさすれば君は救われる愛し愛するさすれば君は救われる!!
――そこで、はっと、思いつく。
(そうよ)
これはチャンスよ。
(部屋に帰すんじゃなくて)
(部屋に戻すんじゃなくて)
(一緒に寝ればいいのよ!)
ぞわっ。
「……」
背筋に鳥肌が立つが、全てはあたしの未来のため。
「メニー」
メニーの手を取る。
「今夜は一緒に寝ましょう?」
「え」
メニーが目を丸くし、笑顔のあたしを見つめた。
「それがいいわ。怖いなら一緒に寝ればいいのよ」
「え、でも、あの……」
「なによ。お姉ちゃんと一緒に寝たくないの?」
おどけて訊くと、メニーが首を振った。
「う、……ううん」
メニーが枕を抱く。
「寝たい……」
あたしの手をきゅっと、握りしめる。
「お姉ちゃんと寝る……」
ぞわっ。
「ええ! 寝ましょう!」
寒気も鳥肌も走る虫唾も無視して、ベッドへ導く。
「さあ! メニー! 寝るのよ!」
「ん!」
メニーが枕をベッドに置く。ぽんぽんと置いて、横になる。あたしは固唾をごくりと飲み込んだ。
(これがうまくいけば、あたしへの信頼度はまた上がるわ)
にやりと笑う。
(このチャンス、逃してたまるか!)
罪滅ぼし活動ミッションその三、メニーを寝かしつける。
「そうだ。眠れないなら、眠れるようにすればいいんだわ」
「え?」
メニーがまた起き上がる。あたしに振り向く。
「メニー、いいことひらめいた。こういう時はね、疲れることが必要だと思うのよ」
「疲れること?」
「そう。あんた、部屋で本ばっかり読んでたんでしょ。だから、目が冴えるのよ」
メニーがきょとんとする。あたしはにやっと笑って、枕を抱く。
「というわけで、これより! 第一回! 枕投げ大会の! はーじまりーぃー!」
「枕投げ大会?」
メニーがきょとんとする。あたしはたくさんの枕をベッドに並べた。
「いいこと? メニー。疲れるまでがこの戦いよ。疲れたらそこで終了」
あたしは枕を一つだけ抱く。
「今から枕を投げることに関しては無礼講ね。好きに投げていいわ」
「枕を投げるの?」
「そうよ」
「どこに?」
「メニーはあたしに投げるの」
そして、
「あたしは、メニーに投げるのよ!」
あたしは枕をメニーに投げた。
「ひゃっ」
枕が顔に命中したメニーがベッドに倒れた。あたしはくすくす笑う。
「ほら、メニー! あたしにも投げてごらんなさいよ!」
「うーんと、えっと」
メニーが自分の枕を抱き、あたしに向かって投げた。
「えい!」
「え」
意外とメニーが思い切り投げてきやがった。
「ぶっ!」
あたしの顔に直撃する。枕が落ちる。あたしは笑顔で枕を拾う。
「おほほ! そうよ! そうやって遊ぶの!」
(このやろぉ……!)
笑顔がぴくぴく引き攣ると、メニーの目がどんどん輝き出す。
「えっと! えっと!」
メニーがあたしのベッドにある枕を選んで持ち上げ、再びあたしに体を向ける。
(そうはさせるか!)
この勝負の支配権は、あたしよ!
あたしは枕を持ち上げ、メニーに投げる。
「りゃっ!」
「ぶっ!」
メニーがこてんとベッドに倒れる。あたしは口角を上げる。
(ふふ)
にやりと笑う。
(ふふふ! ばぁーーーか!)
このままあたしにやられてしまえ! メニー!!
あたしは枕を振り投げる。が、メニーがベッドから抜け出した。枕が空振る。
(なにっ!?)
「えい!」
メニーが枕を投げる。
(げっ)
あたしは避ける。
「させるか!」
枕を投げる。メニーからも枕が投げられた。枕が衝突して、二手に分かれる。
「ぐっ!」
「あっ!」
あたしとメニーの目が合う。ごくりと唾を飲む。
(右よ!)
あたしは右の枕に飛びつく。メニーは左の枕に飛びつく。あたしの手が枕を掴む。
「きた!」
投げる。
「くらえ! メニー!」
怨念こめて、そぉぉぉぉおおおおい!!
しかし、枕を投げる先にメニーがいない。あたしははっと目を見開く。
「なにっ!?」
「ふふっ!」
振り返る。メニーがすでに枕を投げていた。
「げっ」
ぼふん! と顔に当たる。
「ぶっ!」
「ふふふふ!」
「メニー!」
あたしは投げられた枕を手に持ち、メニーにぶん投げる。
(てめえ、よくもやりやがったわね!!)
手加減してたら調子に乗りやがって!
(許すまじ!!)
本気で目を光らせて、メニーを狙う。
「おらぁああああ!!」
ばふん!
「ぴっ!」
メニーの顔に直撃。しかし、メニーも負けない。その枕を掴んで、思い切りあたしにぶん投げる。
「とりゃ!」
「ぐぅ!」
あたしの足に当たる。あたしは枕を持ち上げる。
「はっ!」
メニーがたたたたっ! と走り込み、ソファーの影に隠れる。
「メニーーーーー! そこかぁぁあああ!!」
あたしはソファーに向かって枕を投げる。
「きゃははははは!」
「メニー!!」
メニーが逃げる。あたしに枕を投げる。
「メニー!」
「えい!」
メニーの枕があたしの体に当たる。あたしは拾ってまた枕を投げる。
「うらあ!」
「ぶふっ!」
メニーの顔に当たる。メニーが笑いながらあたしに投げる。
「えい!」
「なんのこれしき!!」
「ふぁいあー!」
枕が二つ連続。
(なに!? 連続技だと!?)
「あいすすとーむ!」
枕が三つ連続。
(コ、コンボ技!?)
「だいあきゅーと!」
(ぐっ!!)
あたしは逃げる。しかしその先に、四つめの枕を投げられる。
「ばっよえーん!」
「ばかめ! あたしを誰だと思ってるの!」
その枕をキャッチする。
「いくわよ!」
あたしは枕を構える。
「くらえ!」
あたしは枕を投げる。メニーが避ける。
「ひゃっ」
「くたばれ!」
あたしは枕投げ連鎖を決めてみせる。メニーが逃げる。
「おーっほっほっほっほっ!」
メニーがドアの前に逃げる。あたしは枕を投げる。
「とどめだーーーー!」
「ひえええ!」
メニーが屈んだ。その瞬間、がちゃりとドアが開いた。
(あ)
「テリーお嬢さま、なんの音で……」
ばふん!!!!
ものすごい勢いで、部屋に来た執事の顔に枕が直撃した。
「「あ」」
あたしとメニーの声が重なった。執事が黙った。枕が執事の顔からずるりと落ちて、ぽてん、と床に落ちた。執事が鼻を赤くさせ、閉じていた目を開けた。
「……」
執事がメニーを見る。あたしを見る。
「はあ……」
この屋敷のほぼ全てを管理しているといっても過言ではない執事、ギルエドがため息を出し、メニーにしゃがんだ。
「メニーお嬢さま、お行儀が悪いですよ」
「あ、すみません……」
最初にメニーを立たせる。ギルエドが立ち、枕から出た羽根が散らばり舞い踊る部屋を見た。
「テリーお嬢さま」
ちょいちょい、と手招きされる。
「こちらへ」
「……」
あたしは枕をソファーに置いて、とことことギルエドの前に歩く。メニーの横に立つ。メニーと一緒にギルエドを見上げる。ギルエドがごほんと、咳払いをした。
「お二人とも、今、何時だとお思いですか?」
あたしとメニーが顔を見合わせた。あたしの部屋の時計を見た。22時30分。
「ギルエド、22時半よ」
「もう就寝のお時間ですな。メニーお嬢さま、お部屋に戻りましょう」
「……はい」
メニーが戻ろうと歩き出すが、その手を掴み、あたしの方に引っ張った。
「っ」
メニーが驚いたように目を丸くして、あたしを見る。あたしはギルエドを見上げる。
「だめよ。ギルエド。メニー、怖い本を見ちゃったんだって。だから眠れなくて、ここに来たの」
「なるほど。理解できました。それで、それだけならまだしも、なぜ部屋がこんなに散らかっているのですか」
「……」
あたしはもう一度部屋を見回した。部屋中に羽根が飛び回っていた。あたしはギルエドを見上げた。
「羽根を降らす魔法使いさんが現れたの。ね、メニーも見たわよね」
「え」
「見たわよね?」
「うん!」
メニーがこくりと頷いた。
「見ました!」
「魔法使いさんが羽根を降らしたの」
「はい!」
「メニーも目撃してるから」
「はい!」
「テリーお嬢さま」
ギルエドがにっこりと微笑む。
「このことは奥さまに報告させていただきます」
あたしはじっとギルエドを睨む。
「貴族令嬢として規則正しい生活を。部屋をこんなにして、いかがされるのですか」
「違うわよ。魔法使いさんが現れたのよ」
「なるほど。ではわたくしの顔に枕を投げたのも、魔法使いさんの仕業だと?」
「そうよ」
「二人とも、もうお休みなさい」
ギルエドが指を差す。
「今日はメニーさまのお部屋で寝てください」
「ギルエド」
メニーが首を振った。
「あの、お姉ちゃん、本当に、わたしを慰めようとしてくれたんです。怒らないでください……」
メニーの手があたしの手を掴んだ。
「怒られるなら、わたしが……」
「ええ。二人とも同罪ですよ」
ギルエドがメニーに優しく微笑む。
「部屋の掃除をしなくてはいけませんから、どうかお二人はそちらの部屋へ。話はまた明日にしましょう」
「明日は説教日和ね」
あたしは欠伸をして、メニーの手を引く。
「行くわよ。メニー」
「あ、待って」
メニーがベッドに走る。自分の持ってきた枕を抱く。戻ってくる。あたしの手を握り直した。
「ん」
「行くわよ」
「うん」
とことこ二人で歩いていく。ギルエドが頭を下げる。
「お休みなさいませ。テリーお嬢さま、メニーお嬢さま」
「おやすみ、ギルエド」
「おやすみなさい」
あたしの部屋から出る。廊下を歩き、少し進んで、メニーの部屋のドアを開ける。部屋は暗く、唯一ベッドの側にあるランプがついており、その周辺にだけ明かりが灯っていた。二人で中に入る。メニーがベッドに向かう。あたしはドアを閉めてからメニーのベッドに向かった。
「ふわあ……」
欠伸をしながらメニーのベッドに入る。メニーが横から申し訳なさそうな顔であたしを見た。
「お姉ちゃん、ごめんね……」
「なにが?」
「明日、怒られちゃう……」
「別に屋敷から追い出されるわけじゃあるまいし」
ふう、と呑気に息を吐く。
「寝ましょう。どうせなにやったって怒られるんだから」
「んん……でも……」
「メニー、怒られ慣れて。貴族のお嬢さまって、なにもしてなくても叱られるものなのよ」
「そうなの?」
「そうよ。ギルエドもママも礼儀に厳しいんだもん。好きにご飯を食べることもできない。でも、また怒ってるって思っちゃえば、簡単に流せるから」
「そういうもの?」
「そういうものよ」
(畜生。ギルエドめ。もう少しこいつと遊べたのに。邪魔しやがって……)
あたしはまた欠伸をした。
「ふああ……」
(……あたしが眠くなってきたわ……)
「メニー、ランプ消して」
「はい」
メニーがランプを消した。部屋が暗くなる。あたしは欠伸をしながらメニーに言う。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
メニーもベッドに潜る。あたしもシーツを上に上げて、瞼を閉じる。メニーがもぞもぞ動く。あたしは眉をひそめた。
(うるさい……)
「お姉ちゃん」
「なに?」
「あのね」
「なに?」
「お願いしてもいい?」
「なに?」
「手」
メニーがあたしの横で、声をひそめて言った。
「手、繋いで……?」
あたしはメニーを見た。メニーがあたしを見る。
――誰がお前の手なんか繋ぐか。
(本当は、ここで使用人として働く運命だったくせに)
(なにが妹よ)
(なにがお姉ちゃんよ)
(なにが手を繋いでよ)
反吐が出るわ。
「いいわよ」
あたしは笑顔でメニーの手を握る。
「これでいい?」
「……うん……」
メニーがもぞもぞと、シーツを口元まで被った。
「ありがとう」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「良い夢見て」
「お姉ちゃんも」
憎たらしい手を握る。
早く離したい手を握る。
大切に握りしめる。
(お前が懐くまでよ)
(お前があたしを信用するまでよ)
この手は離さないでいてやるわ。
(ふふ)
あたしは笑う。
(ふふふふふふっ)
だって、この手を離さなければ、死刑にならないんでしょう?
(お安い御用よ)
ああ、なんて有意義な子守りの時間だったのかしら。
(これで説教で済むならマシよ)
(死刑なんかよりも、全然マシよ)
あたしは、明日も生きられる。
(ふふっ)
あたしはメニーの手を握る。隣からは、メニーの寝息がすぐに聞こえてきた。
(クリアよ)
罪滅ぼし活動ミッションその三、メニーを寝かしつける。
あたしは、また一つ、やり遂げたのよ。
(……寝よう)
瞼を閉じると、簡単に意識を遠くに追いやることができた。あたしたちは、同じベッドで、隣同士で、手を繋いで、すやすやと眠りについてしまった。
翌日、ママにこてんぱんに怒られた。メニーが涙目になり、あたしはむすっとして、ママを睨みつけるのだった。
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