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水の魔法使い
有意義な休日
しおりを挟む「またアンジェ・ワイズだよ……」
「あの子すごいわね」
「でもさ、あの子」
「なんかいつもすかしてるよね」
「俺達と同じじゃないって顔しててさ」
「俺あいつ嫌いなんだよな」
「ワイズさん、悪い子じゃないと思うんだけどね」
「高校中退してわざわざこっち入学してきたんでしょ?」
「そのくせあんな魔法出すのかよ」
「あーあ、天才さんはいいよな」
「天才は羨ましいわ」
「「センスがあるって羨ましいなあ」」
(私がどれだけ努力をしてきたかも知らないくせに)
聞きたくない言葉には耳を塞ぐ。やってない奴らの陰口なんて聞いてる暇なんてない。自分のことで忙しい。
「アンジェ! これ二番テーブルさん!」
「はーい!」
どんなに時間が無くても、必ず期待以上の答えを出してきた。
「ワイズさん! 流石です! 努力を感じますわ!」
先生がそう言う度にクラスメイトからは冷たい視線。
(知らねーよ。やってない方が悪いんじゃん)
「ね、ね、姉ちゃん、起きて」
「……ふわあ……」
「……、……、部屋で、部屋で寝なよ」
「これやってからにする……」
「コーヒーの、の、飲む?」
「うん。淹れてくれる?」
「ん」
「ありがとう。ダニエル」
「クーン」
「ふふっ、ありがとう。トビー」
どんなに寝不足になっても負けない。負けるわけにはいかない。
「ワイズ、授業中寝てたぜ」
「余裕なんだろうな」
(やば……帰ったらちゃんと寝よう……。……待って、明日も課題あったじゃん。うわ、……明日も朝シャンだな……)
ここで甘えたら、絶対に辿り着けない。
「アンジェ! ぼうっとすんな!」
「はーい……」
ここでくじけたら、ミランダに辿り着けない。
あの魔女を見返してやるんだ。
絶対に見返してやるんだ。
私は魔法使いになる。絶対になるんだ。
学生になってる暇はないんだ。それ以上の課題を。すぐに仕事が出来るような魔法を。実技を。実績を。積まなければいけない。早く。早く。早く――!
「おめでとうございます。アンジェ・ワイズさん。貴女は我が校を卒業し、今から魔法使いとして本格的に事務所登録していただきます」
色んな書類を書かされて、魔法使いとして名前が登録された。
「今年は我が校からもう一人、アーニー・アグネスという子がデビューしています。一年くらいは一人ではなく、二人で仕事を行ってもらいます」
「はい」
「一年でデビューする子はなかなかいません。期待してますよ」
「ありがとうございます。頑張ります」
さあ、スタート地点に立った。有難い事に事務所から仕事が振られるので、一つ一つ、期待以上の仕事をこなし、帰っていく。夜は父親の店を手伝いながら魔法について考える。アーニーを見るたびに思う。もっと情報が欲しい。もっと魔法を研究しなければいけない。その度にミランダの言葉を思い出す。
――お前は私しか見た事が無いんじゃないかい?
――もっと他の魔法使いの魔法を見な。
――優秀な魔法使いも、そうでない魔法使いも、自分とは違うものを持っている。
――参考になるはずだよ。自分に自信があるのであれば、調べておきな。
(私はその度に、あなた以外に素晴らしい魔法使いはいないと言ってきた)
(もっとあなたの側であなたの魔法を見たかったのに)
あなたは私を切り離した。
(見返してやる)
やってやる。水魔法使いであれば、どんな人の魔法だって見てやる。動画、テレビ、映像に映されたものを出来る限り調べて目で見て、箒で飛んで現場まで見に行く。学生時期も寝不足だったけど、デビューしてからはもっと寝不足になった。だって調べないといけないから。それでもって、仕事を頂けるから、自分の魔法を磨きながら、研究を続けて、調べて、取材して、勉強して、必死にやって、それでようやく次の仕事に繋がる。アーニーの魔法を見て、眉をひそめて、帰りに訊く。
「さっきのあれ、何か参考にしたの?」
「あー! えっとねー! 学校のテストでやったことあって! その時は全然駄目だったんだけど、今なら出来る気がしてやったら出来たって感じ!」
(天才はこの子みたいなことを言うのね)
自分は劣等感の塊だ。まだ駄目だ。私はもっとやらなければいけないという念がいつまで経っても消えない。
(もっと)
今日も寝不足。明日も寝不足。
(もっと)
疲れた。
アンジェが机に突っ伏した。机の上には、魔法についての参考書、教科書、ノート、棚にも魔法書が沢山並んでいる。
(字酔いした……)
アンジェがカレンダーを見た。今日は久しぶりに何もない休日だ。
(……駄目だ。一回頭すっきりさせよう)
アンジェが漫画を見た。集中力が切れて漫画を閉じた。アンジェが部屋の掃除をしようとした。部屋はさっき掃除して綺麗だ。アンジェはベッドでぼうっとしようとした。魔法の勉強をしなければいけない気がして、そわそわして、ぼうっとできなくなった。
(……散歩行こうかな……)
「母さん、ちょっと外出て来る」
「どこ行くの?」
「んー……散歩」
「暗くなる前には帰ってきなさいよ」
「はーい」
アンジェが箒に乗って空を飛ぶ。他の魔法使いも飛んでいる。鳥の邪魔にならないようにゆっくりと飛び、どこに行こうかと考えて、――ひらめいた。
(ルーチェ、いるかな)
アンジェの箒がかつてずっと通っていた森に方向を変えた。
(いたら、ちょっと……話し相手になってもらおう)
友達がいないわけではない。
高校の友達は今でもたまにチャットするが、魔法の話は出来ない。
魔術学校の友達はいない。嫌われていた。
魔法使いの先輩とは連絡先を好感しているが、それほどの仲というわけでもない。
アーニーは毎日顔を合わせるから、こういう時くらいは会わなくても良い。
魔法の話が出来て、他の話が出来る人物は、アンジェにとってルーチェだけだった。
(いるかなー)
ミランダの屋敷に到着し、どうかミランダはいませんようにと祈りながらドアを叩く。向こうからどたばたと乱暴な音が聞こえて、あ、いるわ。しかもなんか様子がおかしい。と思っていれば、案の定ぼろぼろのルーチェがドアを開けた。
「あれ、……アンジェちゃん」
「こんにちは」
「こんにちは」
「綿ついてるけど」
「あ」
「……調合?」
「……訊いてもいい?」
「丁度気分転換したかったの。いいよ。何作りたかったの?」
「あのねー」
アンジェがドアを閉めると、リビングからのそのそと人見知り猫が現れた。そして、客がアンジェだとわかると、またのそのそとやってきた。
「ああ、なんだ。アンジェか。よお。元気?」
「何? 寝てたの?」
「ああ。もうぐっすりだよ。でもルーチェが起こしたんだ。調合室でさ、とんでもない実験がされていたんだと思うよ。もう、どかんの一発。いや、あれは一発じゃなかった、二発、三発」
「四発……」
「そうそう。四発。お陰で俺は夢から現実に戻ってきたわけだ。ふわあ。ルーチェ、玉転がしして遊んでよ」
「おいで。セ、セーレム」
ルーチェがセーレムを抱き上げ、赤子のように体を揺らす。
「箒のしゅ、修正しようと思ってたの。折れちゃって……」
「ああ、合成の方?」
「そー……」
「合成は調合と違うから広い地面でやった方が良いよ。調合室なんて鍋で占領されちゃってるんだからほぼほぼ出来ないじゃん」
「そうなの。だから……魔法陣が上手くいかな、いかな、いかなくて……」
「見ていい?」
「あ、うん……」
アンジェが調合室に行く。地面にはチョークで書かれた小さな魔法陣が焼き焦げになって残されていた。
「あー……」
「分かってる……。今掃除する……」
「折れた箒これ?」
「それ……」
「……これ、合成の材料にして、新しいの買ってもらえば?」
「うーん……」
「ちなみになんで折れたの?」
「階段から落として」
「物はいずれ壊れるもの。ミランダに正直に言うことね」
「クビにされないかな」
「大丈夫でしょ。これくらい」
それでルーチェをクビにしたら私は絶対にあいつを許さない。
「合成用の木材にすれば、ミランダだって納得すると思うよ」
「だから言ってるだろ。ルーチェ。ミランダに土下座して謝ればなんとかなるって。もし怒ったら、俺が肉球を使って機嫌取ってやるから」
「それで何とかなったらいいけどね……」
「それよりここ先に掃除したら?」
「……そうだね。そうする」
ルーチェが杖を構えた。
「雑巾、モップ、デッキブラシ、それに水の入ったバケツの諸君、ここを綺麗にしておくれ。ミランダ様が使えるように、綺麗に輝く部屋にして。大丈夫。君達なら出来るでしょ? 綺麗に綺麗に磨いておくれ」
強くイメージして呪文を唱えると、雑巾とモップが歩き出し、井戸からやってきたバケツは調合室の地面に水を流す。デッキブラシが地面を擦り、モップが拭き取っていき、雑巾で床が磨かれていく。今日もぴかぴか調合室。これでミランダに叱られることはないだろう。使う前よりも綺麗に。
(行進させながら部屋まで行かせて、部屋に入ればダンスみたいに掃除して、終わればまた行進。しまわれる場所に戻って、おしまい。なるほど。吹奏楽部の発表会みたいな魔法ね。これはこれで面白いかも)
「アンジェちゃん、お茶飲む? み、み、ミーランダ様のお母様から、おい、美味しいお茶が届いてて……」
「ん。欲しい」
「今淹れるね」
「お菓子買ってくれば良かったね」
「あ、クッキーあるよ。食べる?」
「うん。ありがとう」
お茶の用意もルーチェは魔法で行う。呪文を唱え、杖を振り、今度は食器のダンスが始まる。テーブルまでやってきて、ルーチェとアンジェの分が用意される。
「セーレムもおやつ食べる?」
「いるー!」
「ふふっ。用意するね」
ルーチェがセーレムにおやつをあげてる姿をアンジェが眺める。心なしか、少し安心している自分がいる。ルーチェがセーレムを優しく撫でてから、正面の席に戻って来る。
「今日はオフなの?」
「そっ。久しぶりのね」
「最近忙しそうだね。昨日、あの、あの、……テレビ見た」
「あー、なんか……映ってたっぽいね」
「……見てないの?」
「自分の魔法見ても仕方ないし、次の仕事に使えそうな魔法がないか探してた」
「……すごいね。ミランダ様と同じことしてる」
「……それは癪だけど……でも、そうしないと次の仕事が来た時に困っちゃうでしょ。自分の首絞めるような真似はしたくなくて」
でも、
「やればやるほどわかんなくなっちゃって。疲れて、ちょっと気分転換しにきた」
「アンジェちゃんもそんなことあるんだ」
「あるよ。……私の場合、学校生活短かったし」
まあ、ミランダの弟子やってる時よりレベル低かったから、卒業出来て良かったんだけど。
「もう錯乱状態。何もしたくないけど、魔法の事ばっかり考えちゃう」
「それは……すごいね。あたしはそんなことないから」
「でも、ルーチェだって魔法の練習してるでしょ?」
「あたしは、自分からか、課題を見つけに行くとか、そういうこと出来ないもん。今提示されてるこの音の行の発音が悪いから、ここを重点して練習するとか、そういうことしか出来ない、から、ミランダ様によく言われてるんだ。もっとやりなさいって」
「ルーチェって休みの日とか何してるの?」
「……これがね、その、呆れないでほしいんだけど、その、小説書いたり、絵描いたり、セーレムを撮った動画の編集してから、その、発声練習したりしてる」
「……ルーチェ、そういう技術はすごいよね……」
「や、趣味だから」
「だって、私は興味ないもん。そういうの。動画編集とかさ、難しくて無理」
「楽しいよ。ほら、サムネイル作りとかもデザインを考えるから、文字入れたり、素材つけてみたり」
「……なんか、魔法に似てる」
「え?」
「魔法って、イメージが必要でしょう? デザインが魔法となると、そこにどんな色とか、文字とか、素材とか……」
「あー、確かに」
「ルーチェは、魔法ってどういう風に研究してる?」
「やっぱり……他の人の魔法見てるかな。ミランダ様は、滅多に現場に連れてってくれないし」
「……やっぱそうだよね」
「あとは、本読んだり、映画見たり、ドラマ見たり、アニメ見たり、そ、その、魔法でなくても、参考になるものはあるよ。例えば……ちょっと待ってて」
ルーチェが立ち上がり、リビングから出て行き、また戻って来ると、手にタブレットを持っていた。得意げにしゅっしゅっと指を動かす。
「これとか」
「……何これ」
「洋書の表紙」
「これが……何?」
「星がね、いっぱいあるでしょ? で、すご、す、すごく綺麗でしょ? だから、いつか光魔法で、星の魔法を出してみたいなって思うの。じゃあ、っ、星の魔法はどうやってイメージしたらいいんだろうってなるでしょ? で、星は、星座とか、流れ星とか、隕石とかあるでしょ? そこからイメージしやすいものをピックアップしていくの」
「あー、……連想ゲームみたいなね」
「そうそう」
「……言われてみれば、確かに作る時、そうやってイメージしてから魔法練習してるかも……」
「水って種類多いよね。川だったり、海だったり、湖だったり、あ、アンジェちゃん、金の斧って知ってる?」
「ん?」
「おとぎ話の」
「……おとぎ話、あんまり見ないのよね」
「えっとー、きこりがね、斧を川に落とすんだけど、か、神様が潜っててね、貴女が落としたのは、銀の斧ですか、金の斧ですかって聞くの」
「あー、それは知ってる」
「そうそう。それ。川から神様が出て来る魔法なんて、面白そうじゃない?」
「……それは思いつかなかった」
「うん。おとぎ話結構面白いよ。水に関連する事とか、いっぱい載ってると思う」
「……ありがとう。読んでみる」
「あ、あたし持ってるのあるから、貸すよ」
「え、いいの?」
「うん。もう全然読んでないから」
ルーチェが再びリビングから出て行き、二冊の本を持ってリビングに戻って来る。
「か、紙袋に入れた方がいいよね」
「あ、うん」
「ちょっと待ってねー……あ、あった」
ルーチェが手提げの紙袋をアンジェに渡す。
「はい」
「ありがとう」
(……友達から本借りるの、久しぶり)
「……気に入ってる話とかある?」
「んー。やっぱり灰被り姫かなあ」
「好きなの?」
「うん。三姉妹の話だから」
「ルーチェ、三姉妹だっけ?」
「うん。真ん中」
「あ、そうなんだ」
「その、灰被り姫ってね、ま、まま、継母と長女と次女に虐められてるんだけど、その、……国の翻訳によって話が違ったりして、実は、二番目のお姉さんは、灰被り姫のことを実はそんなに嫌ってなくて、唯一家族と思っていた人だったんじゃないかっていう説もあるんだよね」
「へーえ」
「うん。ちょっと、読んでみて」
「面白そう。ありがとう」
(……なんか)
普通に、会話出来てる。
(アーニー以外で年齢近い子とこんな風に話したの、久しぶりかも)
「意外とね、子供向けの絵本とかも、魔法の材料になったりするよ」
「あー、確かに」
「あたしね、保育園で見たんだけど、あの、お化けの……」
「寝ない子悪い子?」
「ああ、そう、それそれ」
「私も見てた。あれ怖かったよね」
「今見てもちょっと不気味。でも、光魔法にしたら、お化けも可愛くなるかも」
「水のお化けって楽しそう」
「ね、あの、よかったら、その、お、お茶、飲み終わったら、庭で、あの、魔法、やってみない?」
「うん。いいよ!」
「わ、よかった。あのね」
アンジェはふと思う。もし学生の時にルーチェと会っていたら、どうなっていたんだろう。嫌われていただろうか。それとも、やっぱりこんな風に話せる友達になれていただろうか。少なくとも、自分がいたクラスにはルーチェのような子はいなかった。いたとしても、全員から妬みの目で睨まれていたからわからない。
けれど、今、目の前にいるルーチェは、自分と笑顔で接してくれている。
「テレビで見た、あの、アンジェちゃんの魔法、すごかったから、一緒に練習したかったんだ」
「……ありがとう」
アンジェが俯く。
「滝のやつでしょ?」
「そう。滝から水の魚がこう、ば、ばーって現れるやつ!」
「あれ、魔力を形に変えるのすごく難しくて、魚見ながら森で練習したの。暗くなったら箒で帰ればいいと思ったんだけど、一回魔力家に忘れた日があって……それは結構焦った」
「……頑張ったんだね」
(……そう。頑張った)
「……んー、あんま、大したことないよ。魔法使うのは楽しいし」
(森で練習してたのだって、すごく怖かった。いつどんな猛獣が現れるかわからない状況で、でもこれが使えたら、絶対に仕事が増えると思って)
「ルーチェの方が頑張ってるよ」
(立派な魔法使いになりたくて)
「私はそんなに」
(すごく、頑張って)
「ううん。頑張ってるよ。すごく頑張ってる」
ルーチェは優しく微笑む。
「あたしは、そ、そこまで出来ないもん」
「……」
「夜の森なんて、こ、怖いじゃん。クマとか、出るかもだし」
「……まあ、ね」
「あたしは、本当に、なんて言うか、……情けない話、かつ、滑舌で躓いてるから、そこから先のことはわかんないけど、でも、ミランダ様も毎日魔法の研究してるし、努力を続ける者が、この業界生き残るとも言ってる。だから、……アンジェちゃんは間違ってること、何一つしてないと思う」
ごめんね。あたしは学生だし、偉そうに言える立場じゃないけど。
「その、あたしから見て、アンジェちゃんって、すごく頑張り屋さんだけど、そのー……く、く、苦しい姿とか、あまり人に見せたくない子だと思うんだよね」
「……」
「だから、そのー、……ごめんね。失礼かもしれないんだけど、苦しくなったら、やっぱり、その、気分転換って必要だと思うから、……お茶くらいなら出せるし、その、魔法の事も、あたし聞きたい事いっぱいあるから、……また、こうやって、あたしの話し相手になってくれると嬉しいな。そしたら、アンジェちゃんの愚痴も聞けるし」
「……うん」
やっぱりルーチェは優しい。
確かに滑舌も、どもり癖もどうにかした方がいいと思う。それで、ルーチェも早く魔法使いになってほしい。
そしたら、一緒に仕事が出来るのに。
一緒に、魔法の研究が出来るのに。
「……今日ね、その、実は……なんか、全体的にやる気起きなくて……誰かと話したかったの。でも、丁度良い相手がルーチェしかいなくて」
「え、あ、あたし?」
「そっ」
「アーニーちゃんの方がいいんじゃない?」
「アーニーはうるさいから逆にストレスたまる」
「可愛いじゃん」
「ね、魔法何する?」
「あ、じゃあお題考えよう? お互い10個くらい出してさ」
「賛成。面白そう」
「ちょっと待って、紙持ってくる」
「スマホのメモで良いじゃん」
「あ、そっか」
「10個か。へーえ、どうしようかなぁー」
ルーチェと同じクラスだったら良かったのに。そしたら学校生活がもっと楽しかったかもしれないのに。
本当は友達とお弁当食べたかったし、図書室で魔法書を漁りながらお弁当を食べる真似なんてしたくなかった。でも、それくらい必死になってようやく魔法使いになれた。このチャンスを絶対に逃したくない。だから研究する。努力続ける。ミランダの背中を追いかけ、いつか追い越す事だけを目指す。
(でも、許可も下りたし、……苦しくなったらまたルーチェに会いに来よう)
一緒にいて安心するんだもん。
(年違うからっていうのもあるかも。……お姉ちゃんがいるとこんな感じなのかな)
「ねえ、アンジェちゃん。どっちがよりリアルなコイキングをだ、魔法で出せるかとか、やってみない?」
「何それ。画像見ていい?」
「あ、駄目! 見ないでやるの!」
「私わかんないってば!」
「でも見ちゃ駄目!」
「いいじゃん! ちょっとくらい!」
「駄目だってば!」
リビングに笑い声が響く。それを聞きながらセーレムが玉を転がして一人で遊んでいる。時間はまだ昼過ぎ。遅くなるまで針はゆっくりと動いている。
アンジェにとって、実に有意義な休日であった。
有意義な休日 END
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