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◇
辺境騎士団の食堂は賑わっていた。
アーサー様と一緒に入ると、沢山の騎士達の視線が集まる。思わず身を縮めたら、繋いでいた手を励ますように握ってくれる。視線を上げると、赤い瞳が優しく見守っていた。
「シャーロット、大丈夫か?」
手のひらから温もりが伝わってくる。不思議なくらい大丈夫だと思えて頷いた。こほん、と咳払いがして視線を移すと、副団長レオン様が眼鏡のフレームを押し上げ、呆れたようにため息をはいた。
「はあ。団長、スープが冷めます」
「ああ、すまない。みんな、俺の婚約者になったシャーロットだ。これからよろしく頼む」
副団長は相変わらず怖いけど、他の団員たちには好意的に受け入れてもらえて安堵の息をつく。
「シャーロット、あたたかなスープをもらってきた」
ふわりと湯気の上がる皿をことり、とアーサー様に置かれた。どうぞと声を掛けられ、喉がこくりと鳴る。スプーンを手に持って口に運ぶ。具沢山のスープは、野菜の自然な甘みがとても優しい。喉に流れていく温かさが胸に広がり、なぜか頬もあたたかい。
「──王都のお貴族様には、野蛮な辺境の料理が口に合わなかったですか?」
「……え?」
副団長の言葉に首を傾げる。
「泣くほど嫌なんでしょう?」
頬に手を触れると、涙がぽたぽたとこぼれ落ちていた。首をゆっくり横に振る。
「……おいしいです。お母様が亡くなってから、こんなに美味しいスープを飲んだことはありません。いつも一人で冷めたものを食べていたし、私のご飯は忘れられることも、よくあったから。スープ、すごく、美味しいです……」
ぽつぽつと私がマローラ子爵家のことを話し終えると、しんと静寂が訪れた。アーサー様はハンカチを出すと、私の瞳から溢れていく涙を優しくぬぐう。
「シャーロット、母上が亡くなってから随分と辛い思いをしてきたんだな──よし、俺がシャーロットを沢山甘やかして、幸せにする!」
「え?」
突然の宣言に戸惑っていると、アーサー様は私の頭をあやすように優しくなでた。
「ほら、みんなシャーロットのことを守りたいって顔してる。レオンはああ見えて涙脆いんだ」
騎士団の大きな身体の人達が肩を震わせたり、涙ぐんでいる。副団長のレオンは、ハンカチで瞳を押さえていた。びっくりして瞬きを繰り返していると、アーサー様はまっすぐに私を見つめていた。
「シャーロット、俺は、俺の妻となる人を大切にしたい。シャーロットの居場所は、マローラ子爵家ではなく、ここだ。これから安心して寛いでほしいし、困ったことがあったら俺に頼ってほしい」
真剣な表情のアーサー様は、私に言い聞かせるように言葉を紡いでいく。心のやわらかな場所にアーサー様の言葉が染み込んで、また涙が溢れてきてしまう。でも、この涙は嬉しい涙だとわかった。
「……はい。ありがとうございます、アーサー様。ありがとうございます、みなさん」
笑顔のアーサー様に優しく頭をなでられる。心がぽかぽかする食事は穏やかに進んでいった。
辺境騎士団の食堂は賑わっていた。
アーサー様と一緒に入ると、沢山の騎士達の視線が集まる。思わず身を縮めたら、繋いでいた手を励ますように握ってくれる。視線を上げると、赤い瞳が優しく見守っていた。
「シャーロット、大丈夫か?」
手のひらから温もりが伝わってくる。不思議なくらい大丈夫だと思えて頷いた。こほん、と咳払いがして視線を移すと、副団長レオン様が眼鏡のフレームを押し上げ、呆れたようにため息をはいた。
「はあ。団長、スープが冷めます」
「ああ、すまない。みんな、俺の婚約者になったシャーロットだ。これからよろしく頼む」
副団長は相変わらず怖いけど、他の団員たちには好意的に受け入れてもらえて安堵の息をつく。
「シャーロット、あたたかなスープをもらってきた」
ふわりと湯気の上がる皿をことり、とアーサー様に置かれた。どうぞと声を掛けられ、喉がこくりと鳴る。スプーンを手に持って口に運ぶ。具沢山のスープは、野菜の自然な甘みがとても優しい。喉に流れていく温かさが胸に広がり、なぜか頬もあたたかい。
「──王都のお貴族様には、野蛮な辺境の料理が口に合わなかったですか?」
「……え?」
副団長の言葉に首を傾げる。
「泣くほど嫌なんでしょう?」
頬に手を触れると、涙がぽたぽたとこぼれ落ちていた。首をゆっくり横に振る。
「……おいしいです。お母様が亡くなってから、こんなに美味しいスープを飲んだことはありません。いつも一人で冷めたものを食べていたし、私のご飯は忘れられることも、よくあったから。スープ、すごく、美味しいです……」
ぽつぽつと私がマローラ子爵家のことを話し終えると、しんと静寂が訪れた。アーサー様はハンカチを出すと、私の瞳から溢れていく涙を優しくぬぐう。
「シャーロット、母上が亡くなってから随分と辛い思いをしてきたんだな──よし、俺がシャーロットを沢山甘やかして、幸せにする!」
「え?」
突然の宣言に戸惑っていると、アーサー様は私の頭をあやすように優しくなでた。
「ほら、みんなシャーロットのことを守りたいって顔してる。レオンはああ見えて涙脆いんだ」
騎士団の大きな身体の人達が肩を震わせたり、涙ぐんでいる。副団長のレオンは、ハンカチで瞳を押さえていた。びっくりして瞬きを繰り返していると、アーサー様はまっすぐに私を見つめていた。
「シャーロット、俺は、俺の妻となる人を大切にしたい。シャーロットの居場所は、マローラ子爵家ではなく、ここだ。これから安心して寛いでほしいし、困ったことがあったら俺に頼ってほしい」
真剣な表情のアーサー様は、私に言い聞かせるように言葉を紡いでいく。心のやわらかな場所にアーサー様の言葉が染み込んで、また涙が溢れてきてしまう。でも、この涙は嬉しい涙だとわかった。
「……はい。ありがとうございます、アーサー様。ありがとうございます、みなさん」
笑顔のアーサー様に優しく頭をなでられる。心がぽかぽかする食事は穏やかに進んでいった。
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