上 下
7 / 9
番外編

突然の別れ?※

しおりを挟む
「エドモンド様、わたくしたちしばらく会うのをやめましょう」


 初恋の幼なじみと新しい恋をつないだランターンフェスタから一週間が経った。なぜかあっという間に婚約者になったエドの膝の上でこう告げたのは、二人きりになるといつも膝の上に乗せられてしまうから。少しでもきちんと伝えたくて、エドモンド様と呼んでみた。

 まもなく我が家に到着するハイビスカスの花が咲きほこるお気に入りの道にさしかかると、ヴァールハイト公爵家の馬車の中に沈黙が流れる。


「…………うん?」


 紫色の瞳が驚いたようにゆれ、ヴァールハイト公爵家の馬車の中は空調が効いているにもかかわらずエドの顔色が青白く見えた。くっついているから暑いくらいなのに、寒がりなのかもしれない。

 もちろん嫌いになったわけじゃない。
 エドの態度がびっくりするくらいに甘やかになったことは驚いたけれど、嬉しく思っている。
 学園に通う馬車では、婚約者はもっと仲睦まじくなるべきだと言われ、いつも膝の上に乗せられ、婚約者は好みを把握するものだと言われ、いつも一緒に昼食を食べるようになっていたけど、初恋の幼なじみといつも一緒に過ごせることは幸せに思っている。

「よかった……」

 ただ、どれほど考えても、どうしてもエドの隣に立つにはふさわしくないと気づいてしまった。
 あと一週間で夏休み前の期末テストがはじまる――テスト勉強のためにしばらく離れることを分かってもらえたことに安堵の息をつけば、空色の髪がさらりとゆれた。

 私が、よしっと気合を入れていると馬車がヒビスクス伯爵家に到着して、鮮やかな赤色のハイビスカスの花に視線をうつした途端にエドに引き止められる。



「エリー、理由を聞かせてもらえる?」



 紫色の瞳に負けないくらい顔色の悪いエドにびっくりしてしまう。早くヴァールハイト公爵家に戻って休んでもらわなければと口をひらく。

「もうすぐ期末テストでしょう? エドはいつも一番だから私も今回は上位者リストに入りたいなと思って……」

 テストの成績上位三十名は学園の廊下に貼り出される。私は一度も貼り出されたことがないけれど、エドは入学してからずっと一番上に名前が書かれている。
 私もエドの婚約者としてふさわしくなりたいのだ。

「わかった」

 エドの言葉にハイビスカスの花が咲く庭でもう一度えいっ、と両手をにぎってがんばることを伝えると、いつの間にか紫色だったエドの顔色はすっかり治っていた。



 しばらく学園でも会うのを控えるのは寂しく思っていたのに、なぜかエドがヒビスクス伯爵家の私の部屋までついてきたーー。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

処理中です...