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登龍門を泳ぐ

聖女と変身

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 赤色と青色の鯉が優美に泳いでいるのを見つめていたら、ノワルが龍の実を川に向かって高く投げた。

「ロズ、ラピス、龍の実を忘れてるよ」

 水の跳ねる音が鳴って、二匹の鯉が飛び跳ねる。空中で龍の実をキャッチする姿も優雅で惚れ惚れするしかない。鯉ってこんなに魅力的だったんだなあ。はあ、ロズもラピスも素敵で見惚れちゃう。

「花恋様は、ロズとラピスがどんな姿になっても好きなんだね」
「もちろん! あっ……、でも、ロズとラピスが大人の姿になるのは心の準備が必要だけどね……」
「どうして? 大人のロズとラピスは嫌だった?」

 困ったように眉を下げたノワルが首を傾げる。
 
「そんなことないよ! もちろんちがうよ……っ!」

 慌てて首をぶんぶん横に振って否定した。

「ロズは色っぽくてドキドキしちゃうし、ラピスもかわいいのに格好いいからドキドキしちゃう……っ! いきなりあんなに格好よくなるなんて反則すぎだよ!」

 思い出したら胸が苦しいくらいにドキドキしてきて、両手で胸を押さえてもだえる。

「うう、心臓が爆発しちゃう……っ」
「そうだね。花恋様の心臓が爆発するのは困るね」
「そ、そうなの……っ! だから、心の準備をさせてほしいなって思ったの」

 胸に手を押さえたまま涙目でノワルを見つめる。伝わってよかったと安堵の息をついた途端。

「日本に帰るまで時間があるから、心の準備ができてよかったね」
「ふ、ふえっ……?」
「俺のかわいい弟たちとも、昨夜みたいにいちゃいちゃしてあげてね」
「……っ、ひ、ひゃああっ……っ!」

 悲鳴をあげた私を見て、くすくす笑いはじめたノワルをじとりと見上げる。

「花恋様、かわいい」

 私のおでこにキスが落とされた。なんでもないように微笑むノワルを見ていると、これからも敵わないような気がする。まだ大人なロズもラピスもドキドキしちゃうけど、もしかしたら甘やかな夜を超える日が来るかもしれない……。

「花恋様は、本当にかわいいね」

 大人のロズとラピスのことを考えて、耳まで熱くなった私の顔をノワルが覗き込む。

「そろそろ、花恋様も鯉になろうか」
「ノワル、そういえば、どうやって鯉になるの……? 私がなにかするの?」

 三人が変身するところは何度も見ているけれど、自分が変身するなんて想像もできなくて首をひねる。

「魔力を使って、花恋様を鯉に変化させるんだよ。花恋様がなりたくないものは魔力の消費が激しくなるから、鯉になりたいって思ってほしいかな」
「あっ、う、うん……。やってみるねっ」

 今朝、ロズとラピスが変身できたのは、聖女の魔力で変化できるからだと教えてもらった。私が変身を望んでいれば魔力の消費は少ないと聞いていたので、まぶたをとじて、お祈りポーズをとる。

「鯉になりたい……ロズとラピスみたいに鯉になりたい……!」

 ロズとラピスの鯉の姿を思い浮かべながら、お願いを口にする。雄大に泳ぐ二匹は素敵だったから、一緒に泳いだら楽しいと思う。

「うん、いいね。その調子で願ってみて」
「わかった……っ!」

 ノワルの指先が頭につけたかんざしに触れて、耳についているイヤリングをしゃらりと鳴らした。
 音色と共に、まわりの空気が凛と澄み渡っていく──…


「花恋様」


 ノワルの優しい声で見上げると、黒い瞳と視線が絡む。

「登龍門を昇って帰ろう」
「うん」
「日本に戻っても俺たちと一緒にいようね」
「……うん」

 どこまでも甘やかで愛おしく見つめられていて、目を逸らすことができない。ノワルの手がイヤリングから頬に下りてきて添えられて、甘い予感に瞳を閉じる。



「大好きだよ──俺たちのつがい


 ちゅ、と触れるようなキスをされると私の身体が淡く光りはじめた──
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