上 下
67 / 95
土を泳ぐ

聖女は竹林の中で

しおりを挟む
 

 青々とした竹が立ち並ぶ道は、風が吹き抜ける度に竹の葉がさらさら揺れて清涼感のある音が聞こえる。
 ラピスの魔法で私たちの両側に竹が生い茂って道ができていく様子がとても不思議で、つい足を止めてしまった。

「かれんさまーどうしたなのー?」
「あっ、ラピスごめんね」

 手をつないで歩いていたラピスに見上げられる。
 爽やかな音にあわせてラピスのくるんくるんの髪が踊るのが可愛らしくて優しく髪をなでる。
 ふわふわでくるくるの髪が手に心地よくてラピスのぷにぷにほっぺがにっこり上がるのを見て、胸がきゅんっと音を立てて弾けた。

「ラピスの魔法がすごくて見惚れちゃった……!」
「えっへんなのー!」

 えっへんと胸をそらすラピスの仕草がたまらなく可愛くて胸がきゅんきゅん忙しい。

「ぼくはねーもうおとななのー」
「えっ、そうなの?」
「みててーなのー」

 くいっと手を引っぱるラピスに顔を近づけると、ちゅ、とぷにぷにの唇があたる。

 ――ぽんっ!

 青いもふもふ龍に変身したラピスがぱたぱたと翼を動かして私の目の前を飛んでいる。
 もふもふ天使の誘惑に勝てるわけはなく、もふもふ龍を抱きしめて少し短いおでこのもふ毛にキスを落とす。ぴこぴこ動く耳を片手でなでれば、くるぅくるぅと鈴の音よりも愛らしい音が聞こえてくる。

「かれんさまーめめなのー」

 目を細めて気持ちよさそうにしているラピスになぜか怒られてしまった。
 怒ってもかわいいから喉の下をやわらかく撫でながら首をかしげる。

「ぷうーなのーかれんさまーみてるなのー」

 もふもふ天使が私の腕の中からパタパタと飛んでいき、くるりんと振り返る。

 ――ぽんっ!

 目の前に青いくるんくるん髪の毛を揺らしたラピスが立っていた。

「ちゃんともどれるなのー!」

 腰に手を当てて胸をそらすラピスがとってもかわいい。

「すごい! ラピス、いっぱい頑張っていたもんね……っ!」

 空の旅がはじまってから休憩中にノワルとロズに教えてもらってラピスが一生懸命に変身をあやつる練習をしていたので、嬉しくてぱちぱちと手をたたいて褒めるとラピスがふにゃりととびきりの笑顔になるから胸のきゅんきゅんが次々弾けて止まらない。

 両手できゅんきゅん跳ねる心臓を抑えていたら、スキップするように跳ねながら歩くラピスがあっという間に遠ざかってしまった。
 ノワルがラピスに追いついて肩車をして前を歩いているのが見えるけど、二人はまだまだ先にいて追いつこうと思った途端、するりと指先を絡められる。

「カレン様、ゆっくり行きましょう」

 ロズは隣に並ぶと私の歩く速度にあわせてくれる。
 竹の隙間から静かに陽の光が透けて、風と竹が奏でる心地よい音に癒されながら二人の足音も加わっていく。

「ここはカルパ王国の隣にあるトープ王国なのですが――昔から『美人の湯』とも謳われる温泉が湧き出ることで有名でして、風情ある景色と相まって、いつまでも浸かっていたくなる幻想的な温泉のある宿がたくさんあります」

 竹に囲まれた温泉を思い浮かべながらロズの言葉を聞いていると温泉の期待がどんどん高まっていく。

「ロズ、温泉楽しみだね!」
「ええ、カレン様と混浴するのが楽しみです」
「…………ふえっ?」

 びっくりして鯉のぼりの目玉のように大きく瞳を見開いてロズの綺麗な顔を見つめる。

「カレン様、お背中をお流しいたしますよ」

 ロズが口の端をくいとあげると艶やかに笑みを浮かべた。

「ひゃあ! む、むむむ、無理だから……っ!」

 突風に吹かれた鯉のぼりみたいに、ぴょん、と心臓も身体も跳ね上がる。色鮮やかな赤い鯉のぼりのように染まったと確信できるくらい熱い顔を左右に振り続けていると。

「カレン様は仕方ないですね」

 ロズにふわりと抱きよせられると真っ赤な頬を長い指であやすようになでている。
 その仕草に、とくん、と胸が大きな音を立てる。
 細い指が頬をつたい私の耳たぶのイヤリングに触れると、くすぐったくて思わず肩が揺れてしまうのをロズは満足そうに艶めいて微笑んだ。

「いつもより結界を張ればカレン様だけで温泉に入っても大丈夫ですよ」

 強力の部分を強めに言われて、かあ、と頬がほてるのがわかる。
 まるで正解だというように細い指がするりと下りてきて唇を誘うようになぞるから、心臓がとくとくと早鐘を打ち続けていく。

「カレン様、ずっとこのままでいるつもりですか?」

 繊細な指は唇の上をゆっくり往復するだけなのに、とびきり愛おしそうに見つめられて跳ね上がった心臓の音がロズに聞こえてしまいそう。

「ロズの意地悪……」

 小さくつぶやいた言葉にロズが笑みをこぼす。

「カレン様にだけです――嫌いになった?」

 しっとりした赤い瞳をやわらかく細めて、答えのわかっている質問をするロズにゆっくり首をふった――。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!〜少年聖女と獣人騎士の攻防戦〜

アマンダ
恋愛
「世界を救ってほしい!でも女ってバレないで!!」 え?どういうこと!?オカマな女神からの無茶ぶりに応え、男の子のフリをして―――異世界転移をしたミコト。頼れる愉快な仲間たちと共に世界を救う7つの至宝探しの旅へ…ってなんかお仲間の獣人騎士様がどんどん過保護になっていくのですが!? “運命の番い”を求めてるんでしょ?ひと目見たらすぐにわかるんでしょ?じゃあ番いじゃない私に構わないで!そんなに優しくしないでください!! 全力で逃げようとする聖女vs本能に従い追いかける騎士の攻防!運命のいたずらに負けることなく世界を救えるのか…!? 運命の番いを探し求めてる獣人騎士様を好きになっちゃった女の子と、番いじゃない&恋愛対象でもないはずの少年に手を出したくて仕方がない!!獣人騎士の、理性と本能の間で揺れ動くハイテンションラブコメディ!! 7/24より、第4章 海の都編 開始です! 他サイト様でも連載しています。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!

綺咲 潔
恋愛
クリスタ・ウィルキンスは魔導士として、魔塔で働いている。そんなある日、彼女は8000年前に聖女・オフィーリア様のみが成功した、生贄の試練を受けないかと打診される。 本来なら受けようと思わない。しかし、クリスタは身分差を理由に反対されていた魔導士であり婚約者のレアードとの結婚を認めてもらうため、試練を受けることを決意する。 しかし、この試練の裏で、レアードはクリスタの血の繋がっていない妹のアイラととんでもないことを画策していて……。 試練に出発する直前、クリスタは見送りに来てくれた騎士団長の1人から、とあるお守りをもらう。そして、このお守りと試練が後のクリスタの運命を大きく変えることになる。 ◇   ◇   ◇ 「ずっとお慕いしておりました。どうか私と結婚してください」 「お断りいたします」 恋愛なんてもう懲り懲り……! そう思っている私が、なぜプロポーズされているの!? 果たして、クリスタの恋の行方は……!?

【完結】黒伯爵さまに生贄として嫁ぎます

楠結衣
恋愛
多額の借金を抱えた子爵家のマーガレットに黒い噂のあるセイブル伯爵から縁談が舞い込み、借金返済と弟の学費のために自ら嫁ぐことになった。 結婚式を終えると家令の青年からこの結婚は偽装結婚で白い結婚だと告げられてしまう。そんなある日、マーガレットは立ち入り禁止の地下室に入ってしまったのをきっかけに家令の青年と少しずつ心を通わせていき……。 これは政略結婚だと思って嫁いだマーガレットが、いつの間にか黒伯爵さまに愛されていたという夫婦の恋のおはなしです。 ハッピーエンド。 *全8話完結予定です♪ *遥彼方さま主催『共通恋愛プロット企画』参加作品です *遥彼方さまの異世界恋愛プロットを使用しています *表紙イラストは、星影さき様に描いていただきました♪

穏やかな日々の中で。

らむ音
恋愛
異世界転移した先で愛を見つけていく話。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

処理中です...