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土を泳ぐ
聖女は竹林の中で
しおりを挟む青々とした竹が立ち並ぶ道は、風が吹き抜ける度に竹の葉がさらさら揺れて清涼感のある音が聞こえる。
ラピスの魔法で私たちの両側に竹が生い茂って道ができていく様子がとても不思議で、つい足を止めてしまった。
「かれんさまーどうしたなのー?」
「あっ、ラピスごめんね」
手をつないで歩いていたラピスに見上げられる。
爽やかな音にあわせてラピスのくるんくるんの髪が踊るのが可愛らしくて優しく髪をなでる。
ふわふわでくるくるの髪が手に心地よくてラピスのぷにぷにほっぺがにっこり上がるのを見て、胸がきゅんっと音を立てて弾けた。
「ラピスの魔法がすごくて見惚れちゃった……!」
「えっへんなのー!」
えっへんと胸をそらすラピスの仕草がたまらなく可愛くて胸がきゅんきゅん忙しい。
「ぼくはねーもうおとななのー」
「えっ、そうなの?」
「みててーなのー」
くいっと手を引っぱるラピスに顔を近づけると、ちゅ、とぷにぷにの唇があたる。
――ぽんっ!
青いもふもふ龍に変身したラピスがぱたぱたと翼を動かして私の目の前を飛んでいる。
もふもふ天使の誘惑に勝てるわけはなく、もふもふ龍を抱きしめて少し短いおでこのもふ毛にキスを落とす。ぴこぴこ動く耳を片手でなでれば、くるぅくるぅと鈴の音よりも愛らしい音が聞こえてくる。
「かれんさまーめめなのー」
目を細めて気持ちよさそうにしているラピスになぜか怒られてしまった。
怒ってもかわいいから喉の下をやわらかく撫でながら首をかしげる。
「ぷうーなのーかれんさまーみてるなのー」
もふもふ天使が私の腕の中からパタパタと飛んでいき、くるりんと振り返る。
――ぽんっ!
目の前に青いくるんくるん髪の毛を揺らしたラピスが立っていた。
「ちゃんともどれるなのー!」
腰に手を当てて胸をそらすラピスがとってもかわいい。
「すごい! ラピス、いっぱい頑張っていたもんね……っ!」
空の旅がはじまってから休憩中にノワルとロズに教えてもらってラピスが一生懸命に変身をあやつる練習をしていたので、嬉しくてぱちぱちと手をたたいて褒めるとラピスがふにゃりととびきりの笑顔になるから胸のきゅんきゅんが次々弾けて止まらない。
両手できゅんきゅん跳ねる心臓を抑えていたら、スキップするように跳ねながら歩くラピスがあっという間に遠ざかってしまった。
ノワルがラピスに追いついて肩車をして前を歩いているのが見えるけど、二人はまだまだ先にいて追いつこうと思った途端、するりと指先を絡められる。
「カレン様、ゆっくり行きましょう」
ロズは隣に並ぶと私の歩く速度にあわせてくれる。
竹の隙間から静かに陽の光が透けて、風と竹が奏でる心地よい音に癒されながら二人の足音も加わっていく。
「ここはカルパ王国の隣にあるトープ王国なのですが――昔から『美人の湯』とも謳われる温泉が湧き出ることで有名でして、風情ある景色と相まって、いつまでも浸かっていたくなる幻想的な温泉のある宿がたくさんあります」
竹に囲まれた温泉を思い浮かべながらロズの言葉を聞いていると温泉の期待がどんどん高まっていく。
「ロズ、温泉楽しみだね!」
「ええ、カレン様と混浴するのが楽しみです」
「…………ふえっ?」
びっくりして鯉のぼりの目玉のように大きく瞳を見開いてロズの綺麗な顔を見つめる。
「カレン様、お背中をお流しいたしますよ」
ロズが口の端をくいとあげると艶やかに笑みを浮かべた。
「ひゃあ! む、むむむ、無理だから……っ!」
突風に吹かれた鯉のぼりみたいに、ぴょん、と心臓も身体も跳ね上がる。色鮮やかな赤い鯉のぼりのように染まったと確信できるくらい熱い顔を左右に振り続けていると。
「カレン様は仕方ないですね」
ロズにふわりと抱きよせられると真っ赤な頬を長い指であやすようになでている。
その仕草に、とくん、と胸が大きな音を立てる。
細い指が頬をつたい私の耳たぶのイヤリングに触れると、くすぐったくて思わず肩が揺れてしまうのをロズは満足そうに艶めいて微笑んだ。
「いつもより強力な結界を張ればカレン様だけで温泉に入っても大丈夫ですよ」
強力の部分を強めに言われて、かあ、と頬がほてるのがわかる。
まるで正解だというように細い指がするりと下りてきて唇を誘うようになぞるから、心臓がとくとくと早鐘を打ち続けていく。
「カレン様、ずっとこのままでいるつもりですか?」
繊細な指は唇の上をゆっくり往復するだけなのに、とびきり愛おしそうに見つめられて跳ね上がった心臓の音がロズに聞こえてしまいそう。
「ロズの意地悪……」
小さくつぶやいた言葉にロズが笑みをこぼす。
「カレン様にだけです――嫌いになった?」
しっとりした赤い瞳をやわらかく細めて、答えのわかっている質問をするロズにゆっくり首をふった――。
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