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11.お揃い

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 気づいたら右耳のイヤリングに手が伸びている。
 左につけたイヤリングはジェラール様に最初につけてもらったもの。右につけたイヤリングは、僕とジェラール様の瞳の色が連なっていて美しい紫の雫型の宝石がついている。ジェラール様はピンク色の宝石が雫型になっていて色違いのお揃い。
 
 寂しくなると雫の宝石に触れるのが僕の癖になってしまった。もう既にジェラール様と一緒にハーブティーが飲みたくなっている。僕の中でどんどんジェラール様への気持ちが膨らんでいくから、大きなため息で少し膨らみを抜く。気持ちの問題だけど。

 

「はあ……」

 ジェラール様がドラゴン討伐に出かけて一週間。国境に近い深い森の奥にまだたどり着いていないとわかっているのに、気持ちがそぞろになってしまう。
 人差し指でちょん、と唇に触れれば甘やかなキスを鮮やかに思い出して頬がほてる。僕のファーストキス。ジェラール様からキスしてくれたんだ──うう、好きって自覚したら離れていることも切なくて、早く会いたくてたまらない。

「だ、だめだ……っ! 僕だってちゃんと仕事しなくちゃだめだ!」

 ぶんぶんと脳内に浮かんだ桃色な空気を外に追い出す。恋にかまけてジェラール様のハーブティーの為に育てているハーブガーデンの管理を怠るなんてありえない。いつも以上に丁寧に雑草や水やり、剪定をこなしていく。

「もうやることないよ…………」

 元々の仕事が多いわけじゃないから、あっという間にハーブガーデンのお手入れが終わってしまった。構えばいいというものでもないから、持て余した時間にため息をこぼす。兄上のところに行こうかな?と悩みながら屋上の風景に目を向けた。



「あ……っ! そうだ……!」

 ジェラール様にリクエストされたピンク色の蝶は僕の代わり。今も蝶はジェラール様と一緒にいてくれる。僕もジェラール様色の蝶の刺繍のハンカチを持っていたい。お揃いのピアスがあるだけで離れていても心を癒す──…。

 折角ならハーブガーデンの隣にある魔術工房を刺繍にいれよう。図案を描くためのスケッチブックをめくり、ジェラール様に贈った図案を見つめる。


 あれ?
 上手く配置すれば絵が繋がるかも?
 僕とジェラール様のハンカチを並べたら一枚の絵になるような刺繍にしたらお揃いの半分こになる……?

 ああ、だめだ──想像したら他の図案が思い浮かばない。僕は夢中で手を動かして、ジェラール様の魔術工房と温室、それから紫の蝶を描き込んでいった。


 ◇◇◇


 ジェラール様がドラゴン討伐に出立して一ヶ月。毎日少しずつ刺繍を進めていた。寂しくないといったら嘘になるけど、刺繍を刺す時間はジェラール様の無事をただ祈っている。

 刺繍と並行してドラゴンハーブを育てるための準備もはじめた。ドラゴンが住む場所に生育する珍しいドラゴンハーブ。僕はドラゴンハーブを育てる土をどの配合で作るか悩んでいた。
 
 土はとても大事。
 多湿な環境が苦手なハーブであれば、水はけのよい土を選ぶことが大切。他にも肥料を多く必要とするハーブであれば肥料切れをしないような土に改良を行う。ドラゴンハーブは、魔力の豊富なドラゴンの近くに育つため魔力の多い土を好むとされている。
 でも、ドラゴンの生体も詳しくわかっていない部分が多く、ドラゴンハーブについて調べるために今日も図書館へ通う。

 毎日のように通う内に顔馴染みになった司書のおじいさんに話しかける。
 

「あの、『ドラゴンの歴史~あたらしいドラゴンハーブ療法』と『ウィリアム博士のドラゴンハーブ育成学~上級編』を借りたいのですが」
「ああ。その本はどっちもな、騎士団の資料庫に置いてあるんじゃよ」
「そうなんですね! 貸し出しって可能ですか?」
「今は資料庫にあるみたいだし騎士団に請求すれば可能じゃな──ここで受け取るなら明日の午後になってしまうのお。今から取りに行くなら連絡しておくぞい?」

 司書の言葉に一瞬迷う。
 騎士団にはアンナとスティーブがいる──でも、騎士団には沢山の騎士がいて、会う確率はものすごく低い。読みたい本が届くのは明日の午後。今から向かえば、すぐに読めるわけで──。

 
「──エリオット殿、どうするかの?」
「えっと、特に用事もないですし、今から取りに行きます」
「うむ、では本鳥ブックバードを飛ばしておくぞい」
「お願いします」

 司書のおじいちゃんがカウンターのとまり木に止まっている本鳥を一羽手に乗せる。こつり、と魔術杖で頭をたたくとキラリと金色に光り、本物の鳥のように目覚めてはばたく。本鳥は、魔道具のひとつで広大な王城で図書館や図書室、資料庫を繋ぐ役割を担っている。
 魔術師の兄上は、魔道具ではなく魔術で作った伝言鳥のフクロウを飛ばす。ジェラール様の伝言鳥はなんだろう? 帰ってきたら見せてもらえたらいいなあ──なんでもジェラール様に結びつけてしまうなと心の中で苦笑いを浮かべてしまう。
 僕がジェラール様について考えいる間に、本鳥は煌めきながら騎士団塔に向かって羽ばたいていった。

 
「うむ、これで大丈夫じゃ」
「ありがとうございます! 早速取りに行ってきます」

 
 司書のおじいさんにお礼を言うと、僕は足取り軽く騎士団塔に歩きはじめた──。
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