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「あ……ご、ごめん、今の忘れ、」
「俺もエリサを愛してる! エリサ、結婚しよう」
「…………へ?」
「エリサは恋や結婚に興味ないんだと思ってたから、少しずつ逃げられな、いや、ゆっくりエリサの気持ちを育てていこうと思ってたのに……両想いだったなら、今すぐ結婚しよう!」
「ええっ?」

 ヒューゴからのまさかなプロポーズに頭が真っ白になった。

「エリサ、好き。ずっとずっと好きなんだ。初めて会った時から毎日、毎秒、今だってどんどん好きになってる。エリサも俺と同じ気持ちでいてくれたなんて……夢みたいに嬉しい!」

 ヒューゴの頭が肩に乗せられて、ぐりぐり擦り付けられる。

「えっ、あの、ちょっと待って。頭がついていけてない」

 好きだって言ったけど、恋に気づいたばかりの私の好きと、ヒューゴの好きは同じなのかな? 好きが恋の好きなら同じってことなの?
 
「ごめん、エリサ。いきなりすぎて驚いたよね?」
「うん……」

 ぺたんと耳を下げながらヒューゴに見つめられる。

「俺、本当は不安なんだ……。いきなり勇者だって言われて、今日中に王都に発つって言われて頭が真っ白になってて──それに、もしかしたら死んじゃうかもしれない……」

 ヒューゴの震える声に胸がキュッと締め付けられた。ヒューゴはきっと私の何倍、ううん、何億倍も怖いに決まってる。両腕を広すぎる背中に回して優しくさすれば、また耳を擦り付けられた。

「ねえ、エリサ……俺、エリサと結婚できたら魔王討伐を頑張れると思うんだ。だから、俺と結婚してくれないかな?」

 私は頷く。これから命をかけるヒューゴのお願いを断るなんて選択肢はなかった。ぶんぶん風を揺らす尻尾の音が聞こえたと思ったら、頬に手を添えられた。


「エリサ」


 聞いたことがない程に甘く私の名前を囁く。青色の瞳は甘さがにじみ、頬に触れる手のひらから伝わるヒューゴの体温。ヒューゴのひとつひとつに私の心臓が反応して、爆発してもおかしくないくらい鼓動が速くなる。

 ヒューゴの顔が近づいて、肌の匂いがしたと思ったら、私の唇にやわらかな唇が触れた。胸に広がる甘酸っぱい気持ちに心が嬉しくて震えてしまう。





「……っ!?」

 大きな手で後頭部を押さえられ、ぬるりとしたものが唇を割って入ってくる。驚きすぎてヒューゴから離れようとしても、頭も身体も固定されてびくともしない。

「んんっ、ひゅー、ん……っ」

 ヒューゴに話しかけようと思っても、言葉は全部呑み込まれてしまう。好きな人としか絶対できないことをされて、ヒューゴの熱で私の吐息も甘く染まっていく。胸板を押していたはずの腕は、縋るように添えているだけになっていた。

 ようやく、ようやーくヒューゴの唇が離れて、鼻にキスが落とされる。

「エリサを補充できた!」
「もう……っ! ヒューゴのばか、オオカミのケダモノ! 外なのに、みんな見てるのに……っ、もう……、ばかばか!」

 息の上がったままヒューゴをじとりと見つめて、胸を叩いて文句を言う。初めてだったのに! ばか!

「え、なに……罵りも可愛すぎるとか。俺の嫁、かわいい……っ!」
「っ! そ、それ! ヒューゴ、私達まだ十六歳だから結婚できないんじゃないかな?」
「エリサと結婚できないなら勇者やめる」
「え!?」

 目を丸くする私に、大神官猊下の声が掛けられた。

「勇者様が憂いなく魔王討伐に向かえるようにするのが我々の使命です。お二人の愛なら神もお許しくださるかと」
「話の分かる大神官猊下で助かるよ」
「今から勇者様の婚姻の儀を執り行い、それから発ちましょう」

 

 
 急遽、大神官猊下にヒューゴと私の婚姻の儀を執り行ってもらうことになった。

「エリサ、俺と結婚してください」

 ヒューゴはそう言うと跪き、私の指にヒューゴの瞳と同じ色の宝石がついた指輪を指にはめた。サイズがぴったりの指輪。

「……どうして指輪があるの?」
「エリサの誕生日が来たら、プロポーズするつもりだったから肌身離さず持ってた。俺だと思って、今からエリサに身につけててほしい」
「ありがとう」
「寝る前と起きた時に挨拶して。嬉しいことがあったら教えてほしいし、楽しいことがあったらキスして、それから寂しいときは話しかけてほしい」
「ふふっ、うん、ヒューゴだと思うね……!」

 ヒューゴの優しさが胸に広がっていく。大神官猊下に促されて二人で並ぶ。


「勇者ヒューゴ・ウルーフ、エリサ・センプリチが夫婦となったことを宣言する」

 大神官猊下の言葉で、足もとで虹色の光が浮かび上がる。私とヒューゴを包み込むように虹色の輪が煌めいた。



「エリサ、すぐに魔王を倒して帰ってくるから。行ってきます──奥さん」

 ちゅ、と鼻にキスを落として、ヒューゴは魔王討伐に発った。
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