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 あれから数年が経過して学校へ通う十三歳になっても、狼改めヒューゴは毎日のように屋敷を抜け出して遊びにやってくる。領主の息子のヒューゴは家庭教師に教わっているから学校には通っていない。

 ヒューゴ・ウルーフは、領主の息子で狼獣人。幼い頃は獣の姿と獣人の姿が安定せず、私と出会ったときは狼の姿だったと知った。
 この国には獣人と呼ばれる種族が存在している。人より獣人のほうが能力が優れていて、王族や貴族の多くは獣人。稀に平民の中に先祖返りで獣人に生まれる人もいて、そういう人は貴族の養子になったり、王都の学園に特待生として迎えられる。獣人は、尊敬と憧れの対象のはずだけど──


「エリサ、今日も薬草採りに行くの?」
「うん! 頭痛に効くヘディークの花が咲いてるかなって思って。ヒューゴも一緒にいく?」
「もちろんエリサと行く!」
「ヒューゴも薬草好きなんだね……っ! みんなを薬草採取に誘っても来てくれないんだよね。前は来てくれてたのになあ。なんでだと思う?」
「なんでだろう? ねえエリサ……?」

 ヒューゴは、背が高くて黙っていれば凛々しいのに。それなのに、こてりと首を傾げて私を見つめてくる仕草は可愛らしくて思わず頬が緩んでしまう。

「もう、しょうがないなあ」
「ありがとう、エリサ」

 手を繋がないと、また迷子になるかもしれないと心配するヒューゴに両手を広げた。すぐにヒューゴが覆いかぶさるように、背中に腕が回されて抱きしめられる。

「エリサ、いつもごめんね……」
「っ、大丈夫。それよりヒューゴ、そこで話されるとくすぐったい……っ」
「ん、ごめん」

 迷子から助けた私の匂いを嗅ぐと、ものすごーく安心するというヒューゴ。出会った頃から今日まで森に出かけようとするたびに、髪の毛と首筋に顔埋めて、すんすん匂いを嗅いでいる。
 一度だけ「恥ずかしいから、やめて」って伝えたけど、涙ぐむヒューゴにそれ以上は言えなくなってしまい今の関係が続いていた。

「はあ、今日もエリサを補充できた」

 満足そうに笑いながら、鼻にキスをされる。これが薬草採取に行く前のルーティン。迷子になりたくないヒューゴに手を絡めるように、ぎゅっと繋がれて歩きはじめる。
 すごい心配性で甘えん坊のヒューゴを見ていると、きっと獣人にも色々いるんだろうなって思う。

「あっ、エリサ。ヘディークの花があっちに咲いてるよ。行こう?」
「うん!」

 しばらく歩いているとヒューゴが教えてくれた。狼獣人のヒューゴは鼻が効くから頼りになる。手を引かれて行くと岩陰に隠れるようにヘディークの白い花が一面に咲いていた。

「わあ……っ! こんなにヘディークの花が咲いてるなんて凄い。誰にも見つけられてないんじゃないかな?」
「エリサ、嬉しい?」
「うん! もちろん! ヒューゴありがとう」
「ご褒美くれる?」

 ヒューゴを見上げてお礼をいうと、ケモ耳が近づいてくる。もふもふのケモ耳を撫でてあげると、肩に頭を預けられた。両手で耳の付け根や髪をしばらく撫でてから「おしまい」と告げる。おしまいを告げないと、ずうっっっと際限なく撫でなくちゃいけなくなっちゃうから。

「もう終わり……?」
「ヒューゴは甘えん坊さんだなあ。あと少しだけね」
「ん、エリサにだけ」

 おでこをぐりぐり擦りつけるヒューゴが満足するまで撫で続けた後、私はヘディークの花を夢中になって摘んだ。

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