3 / 14
3
しおりを挟む
◇
今日からクラウト王国の王立アカデミーで魔法薬師の勉強がはじまる。新しい制服に袖を通し眼鏡をかけた私は、浮き立つ気持ちでアカデミーの門をくぐった。
「まあ、素晴らしいわ……っ」
華やかに咲きほこるロンダンの花に息を呑む。ドラゴンの胆のうという意味を持つロンダンは、クラウト王国のみに咲く銀色と青色のバイカラー咲きの薬草である。
美しすぎるロンダンに見惚れていたら、足音がして振り向いた。
「まさか隣国にいたとはな。どうりで探しても見つからないはずだ……」
「あの、どうかしましたか……?」
学園の制服を着た長身の青年に怖いくらいに見つめられていたので、思わず声をかける。
「いや、なんでもないよ。君は、今日からやってきた留学生だろう? よかったらアカデミーの校舎を案内しよう──俺は、レオナード・クラウトだ」
クラウト王族の象徴である銀髪に青色の瞳。私は、王太子であるレオナード様に淑女の礼を取る。
「サルーテ国のアイリーン・メディケルトと申します。本日より王立アカデミーで学ばせていただきます」
「ああ。困ったことがあれば、俺になんでも相談してくれ」
大きな手を差し出されて握手を交わすと、レオナード殿下が柔らかく微笑んだ。
畏れ多くもレオナード殿下にアカデミーを案内してもらうことになり、温室に到着した。
「わあ、ドラゴーネ草にロンドラーク! 本物を初めて見たわ……っ!」
書物で知っている薬草が目の前にあることに感動してしまう。薬草に駆け寄り観察をはじめる。
「あなたに気に入ってもらえて、とても嬉しい」
「っ! で、殿下……申し訳ありません」
珍しい薬草に夢中になって、誰に案内されていたのか忘れていた。
「駄目だな」
レオナード殿下は言葉を切ると、私の顔を不安になるくらい凝視する。魔法薬師になる夢を叶えようと留学してきたのに、サルーテ国に戻されたら困ってしまう。
「殿下ではなくレオナードと呼んでほしい。あなたには名前で呼ばれたいんだ」
「えっ……と、それは……」
私が公爵令嬢と言っても、大国のクラウト王国の王太子とはあまりに立場が違いすぎる。
「どうしても駄目だろうか……?」
あからさまにしょんぼりする姿に、罪悪感が芽生える。このまま固辞を続ける方が失礼なのかもしれないと悩んでしまう。
「あの、では、レオナード様……?」
私が名前で呼ぶと、レオナード様が嬉しそうに目を細めた。
今日からクラウト王国の王立アカデミーで魔法薬師の勉強がはじまる。新しい制服に袖を通し眼鏡をかけた私は、浮き立つ気持ちでアカデミーの門をくぐった。
「まあ、素晴らしいわ……っ」
華やかに咲きほこるロンダンの花に息を呑む。ドラゴンの胆のうという意味を持つロンダンは、クラウト王国のみに咲く銀色と青色のバイカラー咲きの薬草である。
美しすぎるロンダンに見惚れていたら、足音がして振り向いた。
「まさか隣国にいたとはな。どうりで探しても見つからないはずだ……」
「あの、どうかしましたか……?」
学園の制服を着た長身の青年に怖いくらいに見つめられていたので、思わず声をかける。
「いや、なんでもないよ。君は、今日からやってきた留学生だろう? よかったらアカデミーの校舎を案内しよう──俺は、レオナード・クラウトだ」
クラウト王族の象徴である銀髪に青色の瞳。私は、王太子であるレオナード様に淑女の礼を取る。
「サルーテ国のアイリーン・メディケルトと申します。本日より王立アカデミーで学ばせていただきます」
「ああ。困ったことがあれば、俺になんでも相談してくれ」
大きな手を差し出されて握手を交わすと、レオナード殿下が柔らかく微笑んだ。
畏れ多くもレオナード殿下にアカデミーを案内してもらうことになり、温室に到着した。
「わあ、ドラゴーネ草にロンドラーク! 本物を初めて見たわ……っ!」
書物で知っている薬草が目の前にあることに感動してしまう。薬草に駆け寄り観察をはじめる。
「あなたに気に入ってもらえて、とても嬉しい」
「っ! で、殿下……申し訳ありません」
珍しい薬草に夢中になって、誰に案内されていたのか忘れていた。
「駄目だな」
レオナード殿下は言葉を切ると、私の顔を不安になるくらい凝視する。魔法薬師になる夢を叶えようと留学してきたのに、サルーテ国に戻されたら困ってしまう。
「殿下ではなくレオナードと呼んでほしい。あなたには名前で呼ばれたいんだ」
「えっ……と、それは……」
私が公爵令嬢と言っても、大国のクラウト王国の王太子とはあまりに立場が違いすぎる。
「どうしても駄目だろうか……?」
あからさまにしょんぼりする姿に、罪悪感が芽生える。このまま固辞を続ける方が失礼なのかもしれないと悩んでしまう。
「あの、では、レオナード様……?」
私が名前で呼ぶと、レオナード様が嬉しそうに目を細めた。
376
お気に入りに追加
517
あなたにおすすめの小説
婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった
有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。
何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。
諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。
婚約解消と婚約破棄から始まって~義兄候補が婚約者に?!~
琴葉悠
恋愛
ディラック伯爵家の令嬢アイリーンは、ある日父から婚約が相手の不義理で解消になったと告げられる。
婚約者の行動からなんとなく理解していたアイリーンはそれに納得する。
アイリーンは、婚約解消を聞きつけた友人から夜会に誘われ参加すると、義兄となるはずだったウィルコックス侯爵家の嫡男レックスが、婚約者に対し不倫が原因の婚約破棄を言い渡している場面に出くわす。
そして夜会から数日後、アイリーンは父からレックスが新しい婚約者になったと告げられる──
公爵令嬢は悪役令嬢未満
四折 柊
恋愛
公爵令嬢イザベルは王太子カルリトスの婚約者として品行方正に過ごしていた。ところが気付けば学園内で一部の学生から「悪役令嬢」と囁かれるようになる。全く心当たりはないのだが、原因は最近流行している小説にあった。そしてその小説を模倣してイザベルを悪役に仕立てカルリトスに近づこうとする者が現れた。
(気分転換に書いた浅~いお話です。短いです)
辺境伯は王女から婚約破棄される
高坂ナツキ
恋愛
「ハリス・ワイマール、貴男との婚約をここに破棄いたしますわ」
会場中にラライザ王国第一王女であるエリス・ラライザの宣言が響く。
王宮の大ホールで行われている高等学校の卒業記念パーティーには高等学校の卒業生やその婚約者、あるいは既に在学中に婚姻を済ませている伴侶が集まっていた。
彼らの大半はこれから領地に戻ったり王宮に仕官する見習いのために爵位を継いではいない状態、つまりは親の癪の優劣以外にはまだ地位の上下が明確にはなっていないものばかりだ。
だからこそ、第一王女という絶大な権力を有するエリスを止められるものはいなかった。
婚約破棄の宣言から始まる物語。
ただし、婚約の破棄を宣言したのは王子ではなく王女。
辺境伯領の田舎者とは結婚したくないと相手を罵る。
だが、辺境伯側にも言い分はあって……。
男性側からの婚約破棄物はよく目にするが、女性側からのはあまり見ない。
それだけを原動力にした作品。
性悪な友人に嘘を吹き込まれ、イケメン婚約者と婚約破棄することになりました。
ほったげな
恋愛
私は伯爵令息のマクシムと婚約した。しかし、性悪な友人のユリアが婚約者に私にいじめられたという嘘を言い、婚約破棄に……。
悪女の私を愛さないと言ったのはあなたでしょう?今さら口説かれても困るので、さっさと離縁して頂けますか?
輝く魔法
恋愛
システィーナ・エヴァンスは王太子のキース・ジルベルトの婚約者として日々王妃教育に勤しみ努力していた。だがある日、妹のリリーナに嵌められ身に覚えの無い罪で婚約破棄を申し込まれる。だが、あまりにも無能な王太子のおかげで(?)冤罪は晴れ、正式に婚約も破棄される。そんな時隣国の皇太子、ユージン・ステライトから縁談が申し込まれる。もしかしたら彼に愛されるかもしれないー。そんな淡い期待を抱いて嫁いだが、ユージンもシスティーナの悪い噂を信じているようでー?
「今さら口説かれても困るんですけど…。」
後半はがっつり口説いてくる皇太子ですが結ばれません⭐︎でも一応恋愛要素はあります!ざまぁメインのラブコメって感じかなぁ。そういうのはちょっと…とか嫌だなって人はブラウザバックをお願いします(o^^o)更新も遅めかもなので続きが気になるって方は気長に待っててください。なお、これが初作品ですエヘヘ(о´∀`о)
優しい感想待ってます♪
【完結/短編】いつか分かってもらえる、などと、思わないでくださいね?
雲井咲穂(くもいさほ)
恋愛
宮廷の夜会で婚約者候補から外されたアルフェニア。不勉強で怠惰な第三王子のジークフリードの冷たい言葉にも彼女は微動だにせず、冷静に反論を展開する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる