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「謝罪は致しません。エリック殿下、この婚約破棄につきましてはメディケルト公爵家を通じて連絡させていただきます」

「まったく可愛げのない女だな! その野暮ったい眼鏡も、辛気臭い黒髪も、怪しげな薬ばかり作っているのも、すべて俺の隣に立つのに相応しくない。お前なんて国外追放だ!」

 国外追放する権限がないことも知らないエリック殿下に呆れ果て、立ち去る。エリック殿下とマチルダ様が後ろで騒いでいるのを無視して公爵家の馬車に乗り込んだ。


「私、これから自由なのね……」

 走り出した馬車に本音が落ちる。
 エリック殿下と婚約させられ叶わない夢だと諦めていたから、ずっと気持ちに蓋をしておこうと思っていた。


 私、魔法薬師になってもいいの?
 ううん、違う。私は魔法薬師になりたい……!


 メディケルト公爵家は魔法薬師の家系で、お父様もお兄様も薬草の聖地と呼ばれるクラウト王国に留学している。

 ドラゴンが創ったクラウト王国は、ドラゴンの加護により豊かな大地に恵まれる薬草大国。クラウト王国でしか育たない薬草がいくつもあり、精霊や獣人が住む自由でおおらかな風土だという。さらに世界中の薬草が集まるマーケットもあって憧れていた。


 私の心はクラウト王国に飛んでいたので、メディケルト公爵家に戻ると直ぐに執務室に向かう。

「お父様、お母様。……先ほど、エリック殿下に婚約の破棄を告げられました」

 エリック殿下からの言葉をそのまま伝える。お父様の顔がみるみる紅潮していき、お母様の扇子がみしりと音を立てた。

「なんだと……っ! 王家が懇願するから我が家は仕方なく婚約したというのに、あの小僧、アイリーンを蔑ろにするなど許せん……っ!」
「なんですって! アイリーンちゃんの自由を奪っておきながら傷つけるなんて絶対に許せないわ……!」

 怒られるかもしれないと思っていたら、エリック殿下と王家に対して私より怒ってくれている。私は、両親の優しさに触れて胸が熱くなった。

「エリック殿下に未練などはひとつもありません。それよりも、メディケルト公爵家の者としてクラウト王国に留学したいと思っております」

 エリック殿下に想いはないことを忘れずに伝えてから、留学したいことを告げると両親はにっこり笑う。

「アイリーンの好きなようにすればいい。こちらの後始末は全て任せておきなさい」
「そうね、アイリーンちゃんがこちらにいて婚約破棄をなかったことにされたら困るもの。クラウト王国には手続きしておくから安心していってらっしゃいね」


 両親からの心強い後押しもあり、クラウト王国の王立アカデミーに留学が決まった。
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