時間泥棒【完結】

虹乃ノラン

文字の大きさ
上 下
4 / 79
第一章

動かない猫(4)

しおりを挟む
「おーい! そこの三バカ!」教室の隅から紅葉が声をかけてくる。「ミチルも誘って一時間後にライオン公園に集合してよ! あたしも、部活に少し顔出してから行くから!」
「冗談じゃないぞ! 俺たちだって暇じゃないんだ!」
 一方的な要求にジョージが不満そうに返すと、紅葉は黙って睨みつけた。
 その無言の圧力にジョージはこんな風だ。
「オ、オゥわかったよ! 一時間後にライオン公園な!」
 誰もジョージの掌の返しようを責めたりなんてしない。だって紅葉は怖いんだもの。
「じゃあ頼んだわよ」
 紅葉が言い残して教室を後にすると、ジョージが肩をすぼめた。
「千斗、すまねえ……」
 いや、むしろ一度でも紅葉に言い返せるなんて、勇気のある方だよ……。
「それにしても、紅葉ちゃんは、なんでボクたちをライオン公園に集めるのかな?」
「大丈夫、マルコが心配するようなことじゃなくて、きっと来週の実習のことだよ」
 僕がそういうと、マルコは笑顔を取り戻した。
「よかったー。ボク、ほっとしたよ」
「しかし、ミチルはどこにいるんだ? あいつはどこでなにしてるのか、さっぱりだぜ」
 教室内に、すでにミチルの姿はない。でも机には、まだ手提げカバンが残っている。
「ひょっとしたら図書室かも?」
 僕がそう言うと、マルコが首を振った。
「違うよ。ミチルちゃんはたぶん花園にいるよ。ほら? 校舎の裏に園芸部の花壇があるでしょ? 放課後は、いつもそこで絵を描いてるよ」
 花壇は裏門の手前にある。地域住民にも公開されていて、出入りは自由。見晴らしがいいので〝花園〟と呼ばれ、人気のあるスポットだった。僕とジョージは顔を見合わせた。
「マルコ、君、ミチルと仲良いの?」
「うん。だってボク、六年間ずっと、ミチルちゃんと同じクラスだからね」
「ええ⁉ そうなのか⁉」
「そうだよ、でもそれ、そんなに驚くこと?」
「いや、まあ? それほどクレイジーでもないけどよ?」
「花園かあ。とりあえず行ってみよう」
 全体が一望できる丘の上でミチルは絵を描いていた。座って木に寄りかかり、画板と風景を真剣な目つきで交互に見つめる。よほど集中しているのか、まったく気づかない。
「ミチルちゃんにはすごい感性があるんだ! きっと有名な芸術家になると思うな!」
 声をかけようとすると、マルコが唇に指を当てて、僕たちを止めた。
「ミチルちゃんが気づくまで待とうよ。邪魔しちゃ悪いしね」
「それもそうだな」と、ジョージも賛成する。僕たちはその場で待つことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

処理中です...