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第五章

復讐のらせん(3)

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 次の瞬間、地面でもだえていたカニバルが、甲高い声で笑いはじめた。
「ど、どうして笑ってるんだ!?」
 あまりの異様な光景に、みんなじりじりと後ずさった。笑い声が収まったかと思うと、また苦痛の叫び声をあげはじめる。
「な、何なんだ? 狂ってる!?」
 カニバルの奇っ怪な行動に、みんなは動けなくなった。カニバルの視点は定まらず、ブツブツと何かをつぶやいては、突然甲高い声で笑いはじめたり、苦痛の叫び声をあげたりをくり返す。一向に襲いかかる気配を見せない。とにかくぞっとするほど気味が悪い。
「い、今のうちにここから立ち去ろう」
「いや! だめだ!」
 一度抵抗をやめておとなしくなっていたモヒが、去ろうと言われてまた暴れはじめた。落とした木刀を拾いあげ、カニバルに向かってふりかざす。タテガミがその右腕に抱き着くようにしてその動きをとめ、暴れるモヒを引っ張った。ノアもモヒの体にしがみつく。みんなは暴れるモヒを引っ張り、丘を転がりおりるようにその場からはなれた。
 丘の上のカニバルは叫び続けたままだ。追ってくる気配はない。ぐずるモヒを引きずりながら林の中を走っていくと、ネジ式が突然その足を止めた。
 彼らの目の前に群れのボスがいた。ひときわ大きなカニバルが、別のカニバルの頭をつかんで引きずりながら歩いていたのだ。
 わしづかみにされたカニバルは、ひきつるような高い笑い声をあげている。先ほどのカニバルと同じだ。よだれを垂らして、その視点は定まっていない。
 群れのボスであるカニバルは、ノアたちに気づくとその牙をむき出した。真っ赤な瞳の瞳孔は大きく開かれ、低い唸り声が空気をふるわせる。背筋が凍るほどの緊張がその場に走った。身構えるひまもない。
 カニバルは仲間を呼ぶような雄叫びをあげた。その声に呼応するかのようにあちこちでカニバルの雄叫びがあがる。
 群れのボスのカニバルが、わしづかみにしていた別のカニバルをこちらに向かって投げつけるのを間一髪でかわしたが、みんなは体勢をくずし倒れこんだ。その圧倒的な力と威圧感に、身動きひとつとれない。
 このままでは、殺される! 極度の緊張と恐怖が支配する。その状況に絶望を感じた矢先、群れのボスのカニバルがいよいよ飛びかかってきた。その真っ赤な獣の目は、まっすぐに、傷を負って弱っているタテガミに向けられていた。
 次の瞬間、ネジ式が大音量で警告音を鳴らし、頭を回転させながら目を赤くチカチカと点滅させた。それにおどろいた群れのボスは身の危険を感じたのか、タテガミを襲いかけた体を強引に止めると、ノアたちから少し距離をとって構える。
 一瞬の出来事で、何が起こったのかわからなかった。
「さあ! 今のうちに!」
 ネジ式の声ではっと我に返る。心臓の音だけがばくばくと鳴っている。全速力で林の中をかけぬけていく。ふり返る余裕もない。どこに誰がいるのか、バラバラにはぐれてしまっているのかもわからない。自分からもれる激しい呼吸しか聞こえない……。
「立ち止まらず逃げるんだ!」
 タテガミの声がした。ノアたちの後ろからは群れのボスのカニバルの咆哮が迫っている。
 ノアは木の根に足を取られ、目の前にある下り坂を転げ落ちた。ノアの目に、地面と空がめまぐるしく交互に映る。痛みを感じる余裕なんてノアにはなかった。『殺される』『死にたくない』その感情だけが、かわるがわる頭に浮かぶ。長い下り坂を転げ落ち、そのままものすごい衝撃で木にたたきつけられる。
「うっ!」
 転げ落ちた先には、ものすごい異臭がただよっていた。体の痛みよりも、その激しい臭いで、息も吸いこむことができないほどに苦しい。手に黒い泥がぬめっとついている。ひりひりと焼けるように痛い。目の前には沼が広がっていた。沼底からはボコボコとガスが浮かび、水面で水泡を弾けさせている。
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