18 / 36
第五章
復讐のらせん(3)
しおりを挟む
次の瞬間、地面でもだえていたカニバルが、甲高い声で笑いはじめた。
「ど、どうして笑ってるんだ!?」
あまりの異様な光景に、みんなじりじりと後ずさった。笑い声が収まったかと思うと、また苦痛の叫び声をあげはじめる。
「な、何なんだ? 狂ってる!?」
カニバルの奇っ怪な行動に、みんなは動けなくなった。カニバルの視点は定まらず、ブツブツと何かをつぶやいては、突然甲高い声で笑いはじめたり、苦痛の叫び声をあげたりをくり返す。一向に襲いかかる気配を見せない。とにかくぞっとするほど気味が悪い。
「い、今のうちにここから立ち去ろう」
「いや! だめだ!」
一度抵抗をやめておとなしくなっていたモヒが、去ろうと言われてまた暴れはじめた。落とした木刀を拾いあげ、カニバルに向かってふりかざす。タテガミがその右腕に抱き着くようにしてその動きをとめ、暴れるモヒを引っ張った。ノアもモヒの体にしがみつく。みんなは暴れるモヒを引っ張り、丘を転がりおりるようにその場からはなれた。
丘の上のカニバルは叫び続けたままだ。追ってくる気配はない。ぐずるモヒを引きずりながら林の中を走っていくと、ネジ式が突然その足を止めた。
彼らの目の前に群れのボスがいた。ひときわ大きなカニバルが、別のカニバルの頭をつかんで引きずりながら歩いていたのだ。
わしづかみにされたカニバルは、ひきつるような高い笑い声をあげている。先ほどのカニバルと同じだ。よだれを垂らして、その視点は定まっていない。
群れのボスであるカニバルは、ノアたちに気づくとその牙をむき出した。真っ赤な瞳の瞳孔は大きく開かれ、低い唸り声が空気をふるわせる。背筋が凍るほどの緊張がその場に走った。身構えるひまもない。
カニバルは仲間を呼ぶような雄叫びをあげた。その声に呼応するかのようにあちこちでカニバルの雄叫びがあがる。
群れのボスのカニバルが、わしづかみにしていた別のカニバルをこちらに向かって投げつけるのを間一髪でかわしたが、みんなは体勢をくずし倒れこんだ。その圧倒的な力と威圧感に、身動きひとつとれない。
このままでは、殺される! 極度の緊張と恐怖が支配する。その状況に絶望を感じた矢先、群れのボスのカニバルがいよいよ飛びかかってきた。その真っ赤な獣の目は、まっすぐに、傷を負って弱っているタテガミに向けられていた。
次の瞬間、ネジ式が大音量で警告音を鳴らし、頭を回転させながら目を赤くチカチカと点滅させた。それにおどろいた群れのボスは身の危険を感じたのか、タテガミを襲いかけた体を強引に止めると、ノアたちから少し距離をとって構える。
一瞬の出来事で、何が起こったのかわからなかった。
「さあ! 今のうちに!」
ネジ式の声ではっと我に返る。心臓の音だけがばくばくと鳴っている。全速力で林の中をかけぬけていく。ふり返る余裕もない。どこに誰がいるのか、バラバラにはぐれてしまっているのかもわからない。自分からもれる激しい呼吸しか聞こえない……。
「立ち止まらず逃げるんだ!」
タテガミの声がした。ノアたちの後ろからは群れのボスのカニバルの咆哮が迫っている。
ノアは木の根に足を取られ、目の前にある下り坂を転げ落ちた。ノアの目に、地面と空がめまぐるしく交互に映る。痛みを感じる余裕なんてノアにはなかった。『殺される』『死にたくない』その感情だけが、かわるがわる頭に浮かぶ。長い下り坂を転げ落ち、そのままものすごい衝撃で木にたたきつけられる。
「うっ!」
転げ落ちた先には、ものすごい異臭がただよっていた。体の痛みよりも、その激しい臭いで、息も吸いこむことができないほどに苦しい。手に黒い泥がぬめっとついている。ひりひりと焼けるように痛い。目の前には沼が広がっていた。沼底からはボコボコとガスが浮かび、水面で水泡を弾けさせている。
「ど、どうして笑ってるんだ!?」
あまりの異様な光景に、みんなじりじりと後ずさった。笑い声が収まったかと思うと、また苦痛の叫び声をあげはじめる。
「な、何なんだ? 狂ってる!?」
カニバルの奇っ怪な行動に、みんなは動けなくなった。カニバルの視点は定まらず、ブツブツと何かをつぶやいては、突然甲高い声で笑いはじめたり、苦痛の叫び声をあげたりをくり返す。一向に襲いかかる気配を見せない。とにかくぞっとするほど気味が悪い。
「い、今のうちにここから立ち去ろう」
「いや! だめだ!」
一度抵抗をやめておとなしくなっていたモヒが、去ろうと言われてまた暴れはじめた。落とした木刀を拾いあげ、カニバルに向かってふりかざす。タテガミがその右腕に抱き着くようにしてその動きをとめ、暴れるモヒを引っ張った。ノアもモヒの体にしがみつく。みんなは暴れるモヒを引っ張り、丘を転がりおりるようにその場からはなれた。
丘の上のカニバルは叫び続けたままだ。追ってくる気配はない。ぐずるモヒを引きずりながら林の中を走っていくと、ネジ式が突然その足を止めた。
彼らの目の前に群れのボスがいた。ひときわ大きなカニバルが、別のカニバルの頭をつかんで引きずりながら歩いていたのだ。
わしづかみにされたカニバルは、ひきつるような高い笑い声をあげている。先ほどのカニバルと同じだ。よだれを垂らして、その視点は定まっていない。
群れのボスであるカニバルは、ノアたちに気づくとその牙をむき出した。真っ赤な瞳の瞳孔は大きく開かれ、低い唸り声が空気をふるわせる。背筋が凍るほどの緊張がその場に走った。身構えるひまもない。
カニバルは仲間を呼ぶような雄叫びをあげた。その声に呼応するかのようにあちこちでカニバルの雄叫びがあがる。
群れのボスのカニバルが、わしづかみにしていた別のカニバルをこちらに向かって投げつけるのを間一髪でかわしたが、みんなは体勢をくずし倒れこんだ。その圧倒的な力と威圧感に、身動きひとつとれない。
このままでは、殺される! 極度の緊張と恐怖が支配する。その状況に絶望を感じた矢先、群れのボスのカニバルがいよいよ飛びかかってきた。その真っ赤な獣の目は、まっすぐに、傷を負って弱っているタテガミに向けられていた。
次の瞬間、ネジ式が大音量で警告音を鳴らし、頭を回転させながら目を赤くチカチカと点滅させた。それにおどろいた群れのボスは身の危険を感じたのか、タテガミを襲いかけた体を強引に止めると、ノアたちから少し距離をとって構える。
一瞬の出来事で、何が起こったのかわからなかった。
「さあ! 今のうちに!」
ネジ式の声ではっと我に返る。心臓の音だけがばくばくと鳴っている。全速力で林の中をかけぬけていく。ふり返る余裕もない。どこに誰がいるのか、バラバラにはぐれてしまっているのかもわからない。自分からもれる激しい呼吸しか聞こえない……。
「立ち止まらず逃げるんだ!」
タテガミの声がした。ノアたちの後ろからは群れのボスのカニバルの咆哮が迫っている。
ノアは木の根に足を取られ、目の前にある下り坂を転げ落ちた。ノアの目に、地面と空がめまぐるしく交互に映る。痛みを感じる余裕なんてノアにはなかった。『殺される』『死にたくない』その感情だけが、かわるがわる頭に浮かぶ。長い下り坂を転げ落ち、そのままものすごい衝撃で木にたたきつけられる。
「うっ!」
転げ落ちた先には、ものすごい異臭がただよっていた。体の痛みよりも、その激しい臭いで、息も吸いこむことができないほどに苦しい。手に黒い泥がぬめっとついている。ひりひりと焼けるように痛い。目の前には沼が広がっていた。沼底からはボコボコとガスが浮かび、水面で水泡を弾けさせている。
10
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
烈火の大東亜
シャルリアちゃんねる
SF
現代に生きる男女2人の学生が、大東亜戦争[太平洋戦争]の開戦直後の日本にタイムスリップする。
2人はその世界で出会い、そして共に、日本の未来を変えようと決意し、
各海戦に参加し、活躍していく物語。その時代の日本そして世界はどうなるのかを描いた話。
史実を背景にした物語です。
本作はチャットノベル形式で書かせて頂きましたので、凝った小説らしさというより
漫画の様な読みやすさがあると思いますので是非楽しんでください。
それと、YOUTUBE動画作製を始めたことをお知らせします。
名前は シャリアちゃんねる です。
シャリアちゃんねる でぐぐってもらうと出てくると思います。
URLは https://www.youtube.com/channel/UC95-W7FV1iEDGNZsltw-hHQ/videos?view=0&sort=dd&shelf_id=0 です。
皆さん、結構ご存じかと思っていましたが、意外と知られていなかった、第一話の真珠湾攻撃の真実等がお勧めです。
良かったらこちらもご覧ください。
主に政治系歴史系の動画を、アップしています。
小説とYOUTUBEの両方を、ごひいきにして頂いたら嬉しく思います。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
エルフだったの忘れてた……
ころキャベ
SF
80歳の青山アリアは、ボランティアとして草むしり中に突然意識を失う。目覚めると、彼女はエルフの姿となって異世界。そこは彼女が80年間過ごした世界ではなく、現実の世界だった。以前いた世界が作られた世界だったと知る。アリアに寄り添うのは、かつてのロボット同僚である紗夜。紗夜から魔力を授かり、アリアは新たな冒険に向けて魔法を学びを始める。彼女の現実生活は、果たしてどんな展開を迎えるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる