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第十四章

# to the world...(2)

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 返された答案用紙の裏側には、赤い花丸が大きく描かれている……。

 あたしはこう書いていた――。

 ① 年下でも、きちんとひとりの人として接する。
 ② 大人のひとを呼ぶ。大人のひとが来るまで、なるべくその子を安心させてあげる。
 ③ 外で遊ぶときなど、車や事故に注意してあげる。自分も注意する。

 どっ、どうしよう……。
 悩んでいると、安西先生がいった。
「椎名、②だけ読んでくれるか、一緒にいる小さい子がケガをしたらどうするか」
「おとっ、おー…大人のひとっを、よび、よよびーます。あと、あーと、なるべくその子をあんしっ……安心、させせせ…せてあげるように、し…しまっします」
 根本のからかう声が、今にも聞こえてくるんじゃないかってびくびくしてたけど、みんな黙ってきいていた。吃りなんかより、先生がどうしてあたしを当てたのかが気になったんだろう。
「うん、椎名ありがとう。『その子を安心させてあげる』と書いてたのはじつは椎名ひとりだった。これは先生感心したんだ」
 先生は、座るように目で合図をすると、みんなに向かって話す。
「ケガをしたら、もちろん手当てが必要だ。これが一番大事だな。みんなが共通して書いていたのは『誰かを呼びに行く』ということだった。でも、ケガした子をそこへ置き去りにはできないはずだ。もし近くに誰も大人がいなかったら、君たちだって途方にくれてしまうかもしれないってことだ。実際に去年、運動会の帰りに交通事故にあった男子生徒二人は、一人は無事だったがその場でただ泣き続けていたらしい」
 たしかにそんな事件があった。一人は骨折したと聞いた。人通りの少ない通りで、跳ねた車は逃げてしまい、一緒にいた男の子はパニックになって何もできなかったんだって、校長先生が朝礼で話していた。
 先生は席まで歩いてくると、あたしの答案を手に取り、①と③の答えについても読み上げた。
「①はそうだな、年下でも対等に。これはよく出てくるけど、正直いって大変道徳的な答えです。椎名は本をよく読んでいるから、そういう意味でも模範的回答を知ってるのかもしれないね」
 先生にほめられて少しはずかしくなる。
 いや、これってほめられてるのかな? ほめられてないのかな……。
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