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第十二章
お父さんの恋人(5)
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…………。
――ねえ、おかあさん? あたしもジュースのみたい……。
カタカタ、カタカタカタ……部屋の中を無機質な音が響く。
「なぁに? ジュースなら冷蔵庫に入ってるでしょ?」
おかあさんはパソコンに向かったまま、振り向こうともせずにいった。あたしは口をとがらせたまま、仁王立ちでおかあさんをにらみつける。
カタカタ、カタカタカタ……キーボードを叩く音が響いている。
おかあさんはパソコンの画面とにらめっこ。
――きっとおかあさんはパソコンの方が好きなんだ! あたしがこんなにも口をとがらせて、腕まで組んで怒ってるのに、まるで気づかないんだもん!
「あっ! 茜ぇ? お母さんにも……」
キッチンに目をやったお母さんは、すぐそばで怒っているあたしが仁王立ちしているのにようやく気がついた。驚いて目を丸くし、吹き出すように笑い出す。
それをみたあたしの機嫌はますます悪くなる。
――あたしは、こんなにも怒ってるのに!
お母さんは笑いながらいった。
「どうしたの? 茜、ジュース飲むんじゃなかったの?」
ますますふて腐れたあたしは、さらに口をとがらせて、これみよがしに、自分は怒っているんだってことをお母さんに見せつけた。
「茜、あなたもう五歳になったんでしょ? そろそろ、冷蔵庫にある飲み物くらい、自分で入れられるようになってもいいんじゃない?」
あたしはなにもいわず、ただ自分の怒りだけを態度であらわした。
――おかあさんが、あたしをイナイイナイにしてるのに、あたしははらをたててるの!
お母さんは、やれやれといったふうに立ちあがり、キッチンへ歩く。
「そうでちゅねぇ、茜ちゃんは、まだ赤ちゃんでちゅもんねぇ」
「んんんー‼」
赤ちゃん呼ばわりしたお母さんに怒りを爆発させると、あたしは顔を真っ赤にして地団太を踏み、お母さんの大きなお尻を突き飛ばした。
「痛ぁーい! なにするの! 茜がお母さんのこといじめるなら、お母さん、茜を置いてお家を出ていくわよ?」
「んんー! いやだぁー! ごめんなさい!」
真に受けたあたしは不安になって、泣きながらお母さんの大きなお尻にしがみついた。
あたしを置いて出てくなんておどすなんてずるい。
「ごめん、ごめん、嘘よ、茜を置いて、どこかへなんて絶対に行かないわ」
やさしく笑いながら、お母さんはあたしの頭を撫でる。
「ほんとう?」
「本当よ」
「ぜったい?」
「絶対よ」
まだぐずるあたしに、お母さんはあたしの目線まで姿勢を落として、ほっぺたをやさしくつねりながらいった。
「茜! 観覧車に行こう」
――ねえ、おかあさん? あたしもジュースのみたい……。
カタカタ、カタカタカタ……部屋の中を無機質な音が響く。
「なぁに? ジュースなら冷蔵庫に入ってるでしょ?」
おかあさんはパソコンに向かったまま、振り向こうともせずにいった。あたしは口をとがらせたまま、仁王立ちでおかあさんをにらみつける。
カタカタ、カタカタカタ……キーボードを叩く音が響いている。
おかあさんはパソコンの画面とにらめっこ。
――きっとおかあさんはパソコンの方が好きなんだ! あたしがこんなにも口をとがらせて、腕まで組んで怒ってるのに、まるで気づかないんだもん!
「あっ! 茜ぇ? お母さんにも……」
キッチンに目をやったお母さんは、すぐそばで怒っているあたしが仁王立ちしているのにようやく気がついた。驚いて目を丸くし、吹き出すように笑い出す。
それをみたあたしの機嫌はますます悪くなる。
――あたしは、こんなにも怒ってるのに!
お母さんは笑いながらいった。
「どうしたの? 茜、ジュース飲むんじゃなかったの?」
ますますふて腐れたあたしは、さらに口をとがらせて、これみよがしに、自分は怒っているんだってことをお母さんに見せつけた。
「茜、あなたもう五歳になったんでしょ? そろそろ、冷蔵庫にある飲み物くらい、自分で入れられるようになってもいいんじゃない?」
あたしはなにもいわず、ただ自分の怒りだけを態度であらわした。
――おかあさんが、あたしをイナイイナイにしてるのに、あたしははらをたててるの!
お母さんは、やれやれといったふうに立ちあがり、キッチンへ歩く。
「そうでちゅねぇ、茜ちゃんは、まだ赤ちゃんでちゅもんねぇ」
「んんんー‼」
赤ちゃん呼ばわりしたお母さんに怒りを爆発させると、あたしは顔を真っ赤にして地団太を踏み、お母さんの大きなお尻を突き飛ばした。
「痛ぁーい! なにするの! 茜がお母さんのこといじめるなら、お母さん、茜を置いてお家を出ていくわよ?」
「んんー! いやだぁー! ごめんなさい!」
真に受けたあたしは不安になって、泣きながらお母さんの大きなお尻にしがみついた。
あたしを置いて出てくなんておどすなんてずるい。
「ごめん、ごめん、嘘よ、茜を置いて、どこかへなんて絶対に行かないわ」
やさしく笑いながら、お母さんはあたしの頭を撫でる。
「ほんとう?」
「本当よ」
「ぜったい?」
「絶対よ」
まだぐずるあたしに、お母さんはあたしの目線まで姿勢を落として、ほっぺたをやさしくつねりながらいった。
「茜! 観覧車に行こう」
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