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第七章

はーい! せんせー。(1)

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 夏休みがすぐそこまで迫ってきてるって、セミの鳴き声が教えてくれそうな暑い日の朝、始業チャイムとともに教室に入ってきた安西先生の後ろに、男の子が立っていた。
「おーい、おまえたち座れー。まったく蝉にも負けないくらいうちのクラスは元気だな」
 先生はあたしたちを鎮めると、黒板に大きな字で、「古賀篤仁あつひと」と書いた。
 教室がざわつく。
「静かに! もうすぐ夏休みだけどな、このクラスに新しい仲間が入ることになった。コガアツヒトくんだ、みんな仲良くしてやってくれな」
 紹介された古賀くんは、いかにも田舎のガキ大将って感じの体格の良い丸坊主頭で、ほっぺたが少し赤らんでるのが印象的な男の子だった。
「ぼくは古賀篤仁です。博多はよかとこばい、なんでも聞いてください。ぼくは体が大きかたい、みんなよりご飯ばがば食べるけん、給食ば大盛りにしてください」
 転校生がどうどうと話し終わると、教室が大爆笑の渦に包まれていく。笑い声の理由が、大盛りにしてくださいっていうセリフじゃないってことにすぐに気づいた。
 彼の方言やイントネーションはまるで馴染みのないものばかり。
 テレビで聞いたことがあるのと、実際に目の前でなまった言葉を聞くのは全然違う。それがよくわかった。とにかく彼の話し方は衝撃そのもので、教室が湧いた。
「ほら、ほら静かに! 博多ってのは日本男児の町だー。先生は古賀の博多弁は男らしくてかっこいいと思うぞ! みんなも教えてもらえー」
 先生のフォローも空しく、好奇の笑いが収まらない。古賀くんは表情を強張らせ、真っ赤な顔で先生に指示された机へと向かった。
 古賀くんの背中を見ながら、同じ言葉に壁を感じる者として、彼のこれからに同情する。きっと彼も同じに、このクラスになじめずに無口になっていくんだ。

 Re.ハローワールド
『朱里、ただいま!
 今日はなんとうちのクラスに、博多から転校生がやって来たよ!
 同じ日本でもこんなに話し方が違うなんてびっくりだよ。』

 ポロン♭

『おかえり、茜!
 博多からの転校生なんだ!
 地域によっては話し言葉はすごく違うから、
 聞きとる側も、話す側も、しばらくは大変だろうね。
 仲良くできるといいね。』

 Re.ハローワールド
『ハローワールドにも方言ってあるの?
 こうしてメールでやり取りしてるだけだとわからないよね。』

 純粋な興味だ。

 ポロン♭

『そこはここよりもずっと離れた場所で、ものすごく近くにある場所。
 行きたくても行けない場所で、いつの間にかたどり着いてる場所。
 いろいろな言葉を話す人たちがいるわ。
 茜も、いつか必ずここへたどり着くと思うわ。』

 朱里ったらまた謎かけだ。一休和尚さんみたい。
 でも、あたしもいつかハローワールドに行けるのかな?
 そしたら、朱里にも会える?
 あたしの胸は期待でふくらんでいた。
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