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第四章

最高の友だち(1)

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[夏休みまで一週間――]

 あたしと朱里はすぐに仲良くなれた。
 これはひとえに朱里のおかげ。とにかく朱里はなにかを聞き出すことがうまい。そしてどんどん話をさせる。聞き上手というのはこういうことをいうんだろうな。
 たとえば好きな食べ物。朱里があたしに好きな食べ物はなに? と質問してくる。『オムレツ』と答えると次には、どんな固さのオムレツが好き? どこで食べたオムレツが一番おいしかった? マヨネーズはかける? 牛乳は入れる? と続ける。
 お父さんの失敗談を話したときは盛り上がった。朝ごはんを作るときにわちゃわちゃしていることとか、オムレツはこげてるかやぶれてるかで全然完璧にならないってことを伝えたときは、朱里も笑ってくれたと思う。
 調子に乗ってどんどん返すから、ひとつ話題が出るだけで受信フォルダにたくさん数字が並ぶ。
 返事がくるのにはちょっとかかるから、あっという間に時間がすぎる。でも全然眠くなんてならないし、むしろ寝る時間を削ってしかられたとしても、ずっと話していたいくらい楽しい。

 通院から帰った夜、あたしはご飯を食べてすぐに部屋に戻ると、「はじめまして」のメールを書いた。

 たしか内容はこんな感じ。

『はじめまして、朱里さん。
 メールありがとう。
 とてもうれしかったです。
 あたしの名前は茜っていいます。
 毎日暑くて、セミの鳴き声がうるさいです。
 学校へいくのも大変だけど、がんばって通っています。
 朱里さんは学校生活はどうですか?
 あたしでよければ、よろこんでお友だちになります。
 これからもよろしくね。』

 送信を終えると、十分もしないうちに返信メールが届いた。

『朱里でいいよ。
 茜ってとてもいい名前ね。
 茜は、自分の名前の由来を聞いたことはある?』

 ――名前の由来?

 そういえば『茜』の意味なんて考えたことない。当然、由来のことも知らない。部屋を出て下へおりると、洗濯物をたたんでいたお父さんがちょっとだけ驚いた顔で振り返った。
「茜の名前の由来かい?」
「うん、わぁ、あっ…あたっあたしのの、なーなっ名前のいっ意味って聞い…たことがっ、なかったから……」
「大切な娘に、名前の由来も教えてなかったなんて、ぼくはダメなお父さんだね」
 目を細めて懐かしそうにする。反省してるというよりも、うれしそうにみえた。
「その名前はね、茜が生まれるずっと前からお母さんとふたりで決めていた名前なんだ。……茜、ここへおいで」洗濯物をどかして床をさす。
「話したことがあるかもしれないけど、お父さんはね、大学図書館でアルバイトしているときにお母さんに出会ったんだ。図書館っていっても、生徒が借りるための本と、大学の先生たちが使う本は別にあってね。お父さんはそっちの、普段は誰も入ってこない倉庫で分厚い本を整理してたんだよ」
「う、うんっ…」
 ふたりが同じ大学に通ってたことは知っていたけど、図書館で出会ったという話は初めてだった。お父さんの横に座る。
 プールで使っている青いタオルが、そろそろ色あせていた。
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