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百七話

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 ※今回はゼクトールさんウキウキ大はしゃぎです(*´∀`*)w



 
 少しずつ雨足を強め始めたレーゲンスファル周辺。
 もちろん都にも雨は降り続いているが、都の外側と比べると雨量は少ない。
 理由は一つ。
 レーゲンスファル上空で激しい戦闘が行われ、降り注ぐ雨を吹き飛ばしていたからだ。
 
 片方は仮面をつけた魔神。
 優雅に宙を舞い、圧倒的な魔力を見せつける破壊者。
 
 もう片方は魔法で足場を作り、それを踏み台にすることで空中での移動を可能にしている銀髪の少女。双剣を手に仮面をつけた魔神に剣線を閃かせている。

 魔法と魔法。
 
 力と力のぶつかり合いがレーゲンスファルの上空で行われており、都に住む人々はその戦いをただひたすら仰ぎ見ている。
 その戦いの行く末にレーゲンスファルの未来がかかっていると言っても過言ではないからだ。

 『エアステップも完全にマスターしているようで素晴らしい限りだ。 思っていたより動けるじゃないか』

 「これでもアカネさんに褒められる程度には頑張ってるんです! せいやぁ!」

 複雑な軌道を取りながらゼクトールに立ち向かうリリア。
 通常なら目を回してもおかしくない軌道でゼクトールを翻弄しようと動き、双剣を振るう。
 死角をついてこようとするリリアの攻撃を笑いながら、簡単に避けてみせるゼクトール。
 端から見ればかなり高度なやり取りで互角の闘いにも見えるが、実際は違う。

 (これだけ攻撃してるのに掠りもしないなんて!)

 数秒の間に百近い回数の攻撃を試みているリリアの一振りもゼクトールに当たってはいなかった。
 目で追ってもいないはずの攻撃すらも避けてみせるゼクトールに驚きしかないリリア。それでも攻撃の手は緩めない。
 今のリリアに出来る事は愚直に前に出て攻撃するしかないからだ。

 『いい剣筋だが……エアステップの弱点を教えてやろう』

 リリアの体重を乗せた刺突をあっさりかわし、そのまま腕を掴んで身体を吹き飛ばす。
 痛みはそれほどないが、それでもかなりの衝撃に思わずリリアは足を止める。

 『エアステップは空中での軌道変化など撹乱には向くが、進む方向が限定される。 動きが読みやすいのだよ。 だから』

 言葉を続けるゼクトールに再度向かうリリア。
 次の瞬間目の前に硬い壁のようなものが作り出され激突する。

 『こうしたカウンターも取りやすい』

 「いったぁ……」

 鼻をぶつけて若干涙目になるリリア。 
 普段のゼクトならここで笑いながら、手を差し出してくれるがゼクトールは仮面で顔が隠れており表情が分からない。
 手を差し出してくるような事もない。
 
 「……悪役馴染みすぎです」

 『おや、誉め言葉かな? 嬉しい限りだ。 では悪役らしくこう言うのは如何かな?』

 ゼクトールが手を合わせ、ゆっくりと開く。
 赤い光が槍を象り、ゼクトールの前に現れた。
 リリアは気付く。仮面の下の顔が今間違いなく悪い笑みを浮かべていると。

 『避けたら後ろの都が吹き飛ぶかもしれませんね』

 ゼクトールは一瞬にしてリリアの更に上に移動し槍を落とす。

 「ちょっ!? ゼクトさん!?」

 『違いますゼクトさんです。 あ、違うゼクトールだ!』

 軽い声とは裏腹に投げられた槍は凄まじい威力を持ち、受け止めたリリアの腕が悲鳴を上げ始める。
 このまま受け流す事は出きるかもしれないが、それをやると都の何処かに槍が落ちる。
 そうすれば間違いなくその一角は消滅する。
 そんな槍を軽い感じで投げたゼクトールにリリアは信じられない思いを抱くが、中身を思い出してやりそうだと考え直す。

 「んぬぬぬぬ! こんな時こそ!」

 右手の剣を腰に戻し、背中から一振りの武器を取り出す。
 左手で支えていた魔力障壁を解除して、槍を逸らし槍を横合いからキンゾ・クバットで吹き飛ばす。
 絶妙な技を見せつけたリリア。
 一歩間違えば大惨事になるその曲芸染みた動きを見てゼクトールを思わず拍手を送る。

 『いや、素晴らしい。 意外と近接戦闘のセンスがありますね。 ……あるじゃないか』

 「もうそろそろ終わりません?」

 『折角レーゲンスファルで英雄の御披露目が出来るのです。
 英雄譚に悪役は必須。 どうせならド派手な英雄譚の方が面白いでしょう?』

 「いやぁ……そろそろ私限界……」

 『今回はミソラもいるのでハードモードです。 ちゃんと凌いでくださいね』

 そう言ってゼクトールは指を鳴らす。
 先程の赤い槍が今度は十本、同時に出現した。
 その数を見てリリアは我知らず表情が無と化していた。

 「えー……」

 『はははははははははは! 愉しいなぁ英雄よ! これは防げるかな?』

 「む、無理ぃ!」

 容赦なく槍を落とすゼクトール。
 エアステップで何とか踏み台を作り三本程は打ち落とすも、数が多い上に有り得ない程の速度で落とされたソレに追い付ける筈もなく、リリアは止められなかった事で起きる惨事から目を背けようとする。

 が、しかし爆発や衝撃は無い。
 
 下で救助を終えたミソラがすべて触手で打ち払っていた。

 「ミソラさん! よかった!」

 『う、うぬぅ。 思ったより早く戻ってきたな』

 ミソラもまたゼクトと同じように浮き上がり、リリアの隣に位置取る。
 
 『下から見ていましたが、リリア様意外とやるぅ』

 「本当ですわね。 というか速すぎてついていける自信がありませんわ」

 グッとサムズアップを見せるミソラ。
 先程までのゼクトールとの戦いを観戦しながら、救護という名の回復魔法ばら蒔きを行っていた。
 ゼクトールが壊した範囲が実際はそれほど広くなかった為、早い段階で戦線に参加出来たのだ。
 同時にセインも血で作り出した翼で参戦し、これで三対一の構図である。

 『エルレイアは参戦出来ないであろうから、実質これでメンバーは揃ったか。 ふふふふふ……ははははははは! ではここからが本番だ! 凌いで見せるがいい!』

 ちょくちょく素に戻るゼクトールに毒気を抜かれていたリリアだが、三人揃った事で先程以上の威圧感が三人を襲う。
 予想以上に本気だと分かり、ミソラもセインも表情を引き締める。

 『トリプルスペル・ファーストトリガー! エクセキュースブレード!』

 空間が裂け、三本の闇の刃が姿を覗かせる。
 リリアとセインは見たこともない魔法だが、その危険性を知るミソラは慌てて防御魔法を展開する。

 『い、いきなり本気すぎる! マギアプロテクション!』

 青く淡い光が三人を覆うとほぼ同時に刃が三人を襲う。
 三方向からの同時斬撃を淡い光が刃を完全に受け止めるが、全体に一瞬にして亀裂が走り受け止めた衝撃波が空を揺らす。

 「ゼクトさん、こっちを殺しに来てません!? もうっ! 契約に従い、深淵より来たれ破滅の王! 汝の力を持って刃向かう愚者を赤より紅く染め上げよ! ブラッドベイン!」

 本気で来ているゼクトールに対しセインもまた本気で向かわねば倒されると瞬時に判断し、殺す勢いで自身の最強の魔法を初手から発動させる。
 四つのドロリとした血液の塊が出現し、ゼクトールに一気に襲いかかる。

 『吸魔族の固有魔法か。 久し振りに見たな』

 襲い来る血液の奔流をかわし、避けても尚追尾してくるその魔法を前に余裕を崩さないゼクトール。
 
 『トリプルスペル・セカンドトリガー・エクスプロージョン』
 
 向かってくる血液の奔流が追尾性能が分かるや否や、ゼクトールはセットしていた二つ目の魔法を発動させる。
 中身が分かるミソラは更に魔法障壁に魔力を込めて障壁を再構築させる。
 次の瞬間、レーゲンスファルに一瞬太陽が生まれたのではと錯覚する程の眩い閃光が輝き、次いで凄まじい爆風がレーゲンスファルを襲う。
 ミソラの障壁の中にいた二人は何とかダメージは負わずに済んだが、その分恐ろしい光景を目にする。

 爆風が都を襲い、高さのある建物は衝撃の余波で倒壊しセインの魔法も同様に吹き飛ばされる。
 冷たい雨を降らせていた雲は消し飛び、レーゲンスファルの上空だけが晴れるという異常事態を生み出していた。

 「……冗談……ですわよね?」

 「本気っぽいです」

 『アレでも手加減してるほう。 本当に本気ならこの距離で受け止めきれない』

 都の状況を見て、続くミソラの言葉に戦慄せざるを得ない二人。
 セインに至っては敵を追尾し、触れた者から魔力を吸い上げて溶解させる最強の魔法であったものを一発で消し飛ばされているのだ。
 自信喪失甚だしい問題である。

 「セインさん! 魔法戦だと勝ち目ゼロです! 接近戦で何とかしましょう! ミソラさんサポートを!」

 「了解! ちょっと悔しいですし、一発お見舞いして差し上げますわ!」

 『任せて。 勇敢なる者達に闘う力を! その魂に祝福あれ! ブレッシングライト!』

 リリアの言葉にセインが頷き、ミソラが最大の補助魔法を発動させる。
 魔法によって強化されたリリアとセインは同時に飛び出し、ゼクトールへ向かう。
 強化された二人の動きは常人に捉えられるものではなく、まだ空気の焼けた臭いの残るゼクトールとの間合いを一瞬にしてゼロにする。

 「はぁぁぁぁ!」

 「せいっ!」

 キンゾ・クバットの一撃、そしてセインの血の爪による乱撃。
 強化されたその攻撃をゼクトールは悉くかわしていく。
 
 『トリプルスペル・ファイナルトリガー』

 「させませんわ!」

 かわしながらセットしていた魔法を発動しようとするゼクトールに気付き、血を風呂敷のように広く展開し逃げ場を無くす。
 それに合わせてリリアがキンゾ・クバットの一撃を叩き込む。
 間違いなく避けることの出来ないタイミングだった。

 『開け……デモンズゲイト』

 ゼクトールは何の躊躇もなくキンゾ・クバットの一撃を受け、血に包まれ皮膚を焼かれながら魔法を発動させた。
 
 『マスター!? さすがにそれはやり過ぎ!』

 ブレッシングライトによって反応速度なども軒並み上昇していた二人は慌てたミソラの声に危機感を覚え一瞬にして離脱する。
 ミソラは同時に最大のマギアプロテクションを発動させ備える。
 
 ゼクトールの背後の空間が大きく開き、混沌としたその場所から腕が現れ、入り口を更に大きく引き裂くように無理矢理開いた。
 そこから現れたのは正しく化物だった。
 口は大きく裂け涎を垂らし、獲物を探すように八つの目がギョロギョロとせわしなく動いている。
 漆黒の肌が生物らしさを失わせており、見たものに恐怖を植え付けるソレはミソラ達を捉える。

 「ひっ!? こ、怖すぎですよアレ!?」

 『衝撃に備えて! 来るよ!』

  ミソラの言葉が聞こえた瞬間。

 化物が咆哮を上げ、口を大きく開く。
 背後の空間の混沌とした色彩をそのまま映したかのような光弾が現れ魔力が集まり始める。
 魔力の収束から臨界点に達するまでは一秒もかからず完成し化物は目を細め、嗤った。

 臨界点を超えた魔力がそのまま撃ち出されミソラ達を襲う。
 天を、大地を消し飛ばすのではと思われる程の一撃。
 現代的な言葉を使うなら差し詰めレーザー兵器とでも称するべき一撃がたった三人の少女に向けられる。
 
 全魔力を振り絞ったミソラの障壁の一部が破壊され受け止めていたミソラの腕が圧力に押され血が滲み始めていた。
 耐える側としては延々と続いているようにも感じられた時間は実際に二秒にも満たない時間ではあったが、それでもミソラは何とかゼクトールの魔法を乗り越えた。

 『さ、さすがにアレを撃ったあとはマスターも魔力が残ってないはず。 チャンスは今』

 「はい! ありがとうございますミソラさん!」

 「しっかり休んでくださいな!」

 魔力切れでゆっくり落ちていくミソラ。
 そのミソラの頑張りを無駄にしない為に二人はゼクトールに向けて飛んだ。
 仮面をつけている為、全く表情の読み取れないゼクトール。
 だが、飛行がやや不安定になっているのを二人は見逃さなかった。

 「これで終わりですよゼクトさん!」

 リリアのキンゾ・クバットの一撃を両手で防ぐゼクトール。
 リリアの一撃を受け止めた瞬間、セインの血が腕と身体に纏わりつき凝固する。
 固まった血は鉄の硬度を遥かに超え、ゼクトールの自由を奪う。

 『ぬぅ……やりますね。 しかし! あっ……』

 この程度!と叫ぼうとした瞬間、ゼクトールの目に地上で一瞬何かが光るのを捉えた。
 二人はゼクトールが何を見つけたのかと思った次の瞬間。
 
 地上から飛来した螺旋回転式破壊槍がゼクトの腹部を貫き、空の彼方まで吹き飛ばしていった。

 予想外の一撃と展開にリリアもセインも空の彼方に飛んでいったゼクトールを見守るしか無かった。


 「全く……はしゃぎすぎだ」


 槍を投擲したあと、ふんすと鼻息荒くお怒りを見せるエルレイア。
 彼女からのお怒りの声をゼクトールが知るのは暫く経った後の事になる。





 レーゲンスファルを襲った未曾有の大災厄と英雄リリア達の戦いは永い間後世に語り継がれる事になる。
 フォームランドを救った英雄譚として。





 ※星になったゼクトールさんに敬礼(*`・ω・)ゞw


 
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