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九十九話

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 ※ぬーん……(´-ω-)
 なーんかねぇ……うーん(´-ω-)









 フォーリスに案内される事十数分。
 水の都というだけあって所々に水路が走り、その流れを利用した移動手段も確立されていた。
 環状線のような形の水路もあり、どういう仕組みなのかは分からないが登りであっても緩やかに重力に反して流れている。
 何かしらの魔法的な力でも働いているのだろうか。
 しかも底が見えるほどに綺麗だ。
 流石に汚れが全くないなんて事はないが、普段からきちんと手入れをされているのがよく分かる。
 もとの世界の近所の川なんてまぁ酷い有り様だったからな。
 生活排水なんかで魚も住めないようなものだったし。
 ただ時代のお陰というか河口付近に浄水施設を作って海に流れていたのでその分海は多少綺麗ではあった。
 それでも汚れていたのは人が色々とゴミを捨てていたせいだな。

 「水路にゴミ一つ落ちていないのは凄いですね。 こういう言い方もなんですが、どれだけ説いても
ゴミを投げ捨てる輩はいそうですが……」

 「はははは。 一応は法で水路を汚す行為は罰則の対象となっていますからね。 それでも昔は誰も見ていないからと捨てる輩もいたので大変でしたが、長い慣習のお陰でなんとかなっています」

 「ふむふむ。 長い時間をかければ、とはいえここまで綺麗なのはこの都の民度の高さもあるかもしれませんね。 いい場所ですね。 …………滅ぼそうとした私が言うのもなんですけど」

 「……いやまぁ……なんとも言い難いところですが……戦争ですからね。 あ、着きましたよ。 こちらです」

 反応しづらい答えをしてしまったが、笑って返してくれたあたりフォーリス自身も自分のなかで色々と気持ちの整理をしているのだろう。
 昨日聞いたが、フォーリスは墜星符をぶちこんだ所にいたらしい。それはさぞトラウマになった事だろう。すまんな。

 案内されたドワーフさんのお店は一見小洒落た雰囲気の店…………と言いたかったが、そんな事はなかった。
 ここは美脚専門だ!とでも言わんばかりの艶かしい足が看板の上に立ち、その下に『ファッションとは戦いだ!』と書かれている。
 そこそこに大きい二階建てで、奥行きが結構ある。
 普通の家なら二件分はありそうだ。
 突っ込みたい所は色々あるが、まず一番に言いたい。

 「あの看板の上の脚の造型が素晴らしいですね。 脚線美に作者の並々ならぬ熱意を感じます」

 「いやいやいやいや! ゼットさんもっとほかにも色々ありませんか!?
ファッションは戦いだとかあるでしょ!? なんでそっちにいったんですか!?」

 「いえ、あまりに見事な美脚だったのでつい」

 「…………たまにゼット様と似たような反応をされる方もいらっしゃるんですよね。 そういう魅力があるのでしょう。 では中へどうぞ」

 フォーリスに促され中へと進む。
 後ろでエルレイアとリリアが嫌な予感がするとか、セインが美脚なら俺を誘惑出来るのかしらとか色々言っているが取りあえず無視だ。

 中に入ると思った以上に乾燥した爽やかな空気が流れてきた。服に湿気を持たせないためだろうか。
 水の都というだけあって、外は気候的にはいいが確かに湿気が多い。カビなんて生えたら大変だしな。
 
 綺麗に陳列された衣類のセンスは店主に負けも劣らぬ素晴らしい作品ばかりだ。
 この店は男物よりも女性物にかなり力を入れているようで、正直店の一角にしか男物は存在しない。かなり扱いが酷いと思う。

 「いらっしゃーい。 って言ってもここは卸売りの業者に売るだけで、直接は売ってないよー」

 抑揚の少ないところがちょっとミソラに似ているなと思い、声の主の方を見て首を傾げる。

 「えーっと……ドワーフさん?」

 「それはヒトにヒトですかって聞いてるようなもの。 失礼」

 「おっと失礼。 私が知っているドワーフのイメージとはかけ離れていたもので」

 「んー、それなら仕方ない。 んで、用は?」

 出てきたのは新雪のように真っ白な髪に病的に白い肌。
 真紅の瞳に淡い桜色の唇が妙に目立つ美少女。
 初めて会うヒト誰もがきっと見惚れるであろう少女だ。
 年の頃はリリアと変わらない程度だろうか。
 取り敢えず言わせてほしい。
 
 美少女キターーーーーーーーーーー!

 アルビノみたいなヒトは初めて見たから興奮するな!
 あ、いや性的にとかじゃないのでご安心を。
 リリアがいるのにそんな考える訳ないじゃないですかー。
 

 「で、では私は外で待っていますので……」

 「……す、すまないゼクト殿。 私も外で待っている」

 突然よそよそしい感じで店から出るフォーリスとエルレイア。このドワーフ娘を見た瞬間に出ていったけど、なにかあるのだろうか。

 「……嫌われるというのも大変。 おっと、愚痴ってしまった。 で、用は?」

 「聞きたい事は色々ありますが……一番気になるのは、貴女のスカートです!」

 店に入って一番気になる衣類。
 それは間違いなく店員さん……じゃなくて、その身に付けているスカートだ。

 「……変態? 通報したほうがいい?」

 「ゼットさん!? いきなりそれはマズイですよ!?」

 「うふふふふ。 スカートなら私がいくらでも楽しませて差し上げますのに」

 「ふぅ……別にドワーフ娘さん。 言いにくいなドワ娘さんが可愛いのは事実ですが、だからそのスカートを欲しがった訳ではありません! リリネア様もセイン様もドワ娘さんのスカートを御覧なさい! 前が短く、後ろが長い! 所謂フィッシュテールタイプです! これは前の丈を調節することで清楚にも扇情的にもなり、更にドレスタイプに仕上げれば後ろのスカート部分で色々な個性も出せるという優れものです! 分かりますかこの素晴らしい作品が! 私はリリネア様にこれで前は短くて後ろがヒラヒラとさせたドレスタイプのものを着せたい! そして恥じらうところを見たい!」

 ついつい熱く語ってしまった。
 リリアは完全に聞き流しており、セインはいい顔を微笑んでいるが、多分引いている。しかしそんな事で紳士は挫けんぞ!

 「ドワーフの伝統衣装でそんなに熱く語ったのは貴方が初めて。 きもい。 あとドワ娘じゃなくてボクの名前はカータシア」

 初対面にキモいと言わせてしまうとは。
 紳士レベルが足りなかった……あ、いや取り乱したせいだな。久しぶりのフィッシュテールに興奮してしまった。
 いやしかし、膝上が見えるくらいで後ろは膝下まで隠れているフィッシュテールはいいなぁ。
 この子、カータシアの全身が薄い色合いに合わせているのかは分からないが燈色のTシャツに同色のスカートがよく映える。

 「これは失礼しました、カータシアさん。 あまりにも素晴らしい衣類でしたので感動してしまいました。 カータシアさんも美しい御容姿に御召し物の色も相まって非常に綺麗ですね」

 「あら、リリネアさん。 ゼットさんナンパしてますよ?」

 「ゼットさーん……あんまり変なことすると、私もご主人様権限で絶対服従のあれやこれや使っちゃいますからねー?」

 「あ、はい。 失礼しました!」

 別にナンパはしてないけど、後ろからの殺気が凄かった。
 久しぶりに生命の危機を感じた気がする。

 「あなた……ゼットさん、だっけ。 ボクのこの色が何か知らないの?」

 「え!? 色が分からないと思われるほどにバカにされてる!?」

 「違う! 調子狂うなぁ……この色の意味」

 ちょっととぼけてみたらいい反応するなぁ。
 この子もおもちゃ……げふんげふん。
 からかったりするのは楽しそうだ。
 しかし、色の意味?カータシアさんが自分の髪や肌を指差しているが……なんぞ?

 「いえ、意味ということでしたら存じ上げませんが」

 「あーそっか。 そっちの二人は知ってる?」

 「あ、はい。 私は知ってます」

 「存じ上げてますわ。 貴女も色々大変でしょうね」

 リリアもセインも同情したような視線を向けている。
 いったいどういう事なのかさっぱり分かりません。
 ただ、あまりよろしくない……あ、そう言えば大昔にアルビノに対する迫害とかあった気がするな。
 まさか、こっちの世界でも似たような感じなのか?
 だとしたら部屋から出ていったフォーリスとエルレイアはそれが原因でそそくさと出ていったのか。

 「別に慣れてる。 でも……ふふっ、知らないとはいえ可愛いとか美しい御容姿なんて初めて言われたよ。 ありがと」

 「いえいえ、事実ですので。 あ、それはそれとしてこの店の衣類のデザインは何方が? 実に見事な出来なのでお話を聞きたいと思ったのですが」

 「それはボク。 デザインしたものを他の業者にまとめて売ってる。 私はこの通り“白禍はっか”だから。 直接的な商売は無理」

 白禍とな?全く見たことも聞いたこともありせんが。
 んー……リリネアさんは大切なとこでポンコツだったりするのでここはセイン先生に聞くべきか。

 「セイン様。 白禍ってなんですか?」

 「本当に御存知なかったのね。 ヒトの間でもたまに産まれるのですが、髪も肌も雪のように白く、目は血のように赤い突然変異の者達をそう呼びますの。 根も葉もない噂、迷信ではあるのですけど白禍と絆の深まった相手には不幸が訪れる……というものがありまして。 それが所謂……イジメや嫌がらせに繋がることはあります」

 はー……どの世界であってもヒトのやる事なんて変わらないもんだなぁ。そういやどこの国だったかいまだにアルビノに対して魔術がどうとかいって供物にしようとする奴等もいるって聞いたことあるな。
 そんなのじゃないだけまだ……いやわからんな。
 しかし……。

 「だとするとカータシアさんは凄いですね!」

 「……は?」

 「リリネア様の言う通り確かに凄いです。 そんな迷信に負けずにここで立派に商売をなされているのです。 しかもこんな素晴らしい作品まで! 私は貴女を尊敬しますよ」

 「フォームランドであっても偏見などの視線は辛いものですわね。 私も諸事情ありますからカータシアさんの気持ちも分かりますわ」

 「え、えっと……あ、ありが……とう」

 顔を背けて恥ずかしそうにお礼をいうカータシアさん。
 きっと今まで生きてきたなかで色々と経験しただろうが、その逆境にも負けずにこうして店まで構えることが出来るほどに成功しているのなら、それは本当に凄い努力だと思う。

 「よし、と言うわけでカータシアさん。 是非リリネア様に似合いそうなエロいのから可愛いのまで見繕ってください!」

 「そういうのならまぁ……任せて」

 「えっ!? この流れでそれですか!? え、えっちなのは無しでお願いします!」

 「じゃあ私はエッチなのでお願いしますね!」

 
 バタバタと暴れる迷惑な客になってしまったが、この時のカータシアさんを見ていると少し楽しそうで、来て良かったと心から思う。

 ……どうせならリクシアかレムナント、いやヴィスコールにでも引き抜きたいな。
 








 ※もっとサクサク進める予定だったのに思いの外進まなくてワロタ(*´ノ∀`*)w 
 ドワーフだからといってみんなガチムチさんを想像しただろう( *・ω・)!残念だったな( *・ω・)!w
 使い魔さん初のボクっ娘だ(*´∀`*)!
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