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八十九話

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 ※今回は下に大事かもしれないお知らせがあるよん(*´∀`*)



 ゼクトと分かれたリリアとレイブンは、西に向かい移動するダークエルフの集団に追い付く為に自分達も移動を開始していた。
 レイブンの転移でどこでもという訳にはいかない為、途中からは走る必要がある。

 「ここまで離れると熱も少し減りますね」

 「そうですね。 生温い程度になりましたが、ゼクト様から頂いたものが無ければ大変な事になる所でした。 しかし、ヒトの世界にもあれほどの規模の魔法を使える者がいたとは。 我々魔族は個体能力の高さで負けることはないと思っていましたが、少し調子に乗っていたかもしれません」

 「そう言えば魔族の方々って強い方が多いですよね。 レイブンさんやオリヴィアさんは……ミソラさんのせいでここにいる状態ですけど、元々は支配階級だったんですよね?」

 「私は仕える側でしたが、オリヴィア様などはそうですね。 実際私が使えていた方を含め、将来の魔王候補ではあったと思います。 ……ゼクト様達を知ったあとでは、私達が魔王など片腹痛い話ですね」

 「あははは……どっちかと言うとゼクトさん達の方が魔王つぽいですね」

 「そうなのです! ……あ、失礼しました。 私としてはあのお三方のどなたかにでも魔王の座について欲しいと思うしだいです。 ……個人的にはゼクト様が一番お優しいというかその……お仕えしやすいのでゼクト様にお願いしたいものです」

 力説するレイブンの様子に思わず苦笑するリリア。
 そしてレイブンの言う魔王ゼクトを想像してみる。
 漆黒の衣服に威厳を感じさせるマントを羽織り、居丈高に玉座に座るゼクト。
 ふてぶてしいその様子を想像したリリアは……。

 「あ、普通にしっくりきちゃうかも」

 なんの違和感もない事に驚き、正直少し良いかもとすら思ったリリア。
 魔王、という存在はヒトの間では伝承の存在として語り継がれてきた大昔のものである。
 遥かな昔にヒトと魔族が今よりも更にいがみ合っていた時期に、魔族を率いる者として最強とも云われていた伝説の存在。
 魔族の間では魔王を名乗るというのは、畏れ多い事でもし徒にその名を騙ろうものなら問答無用で殺される事もあるという。
 
 「しっくり……きますね。 ……おっと見えてきましたね」

 「あ、本当ですね」

 二人が魔王ゼクトについて語っている間に、目的としていたダークエルフの集団に追い付いた。
 集団は年若いものや、怪我をしたもの、老齢な者など到底戦いに耐えうるものではない者達が集まっており、それを護っているダークエルフが数人程度であった。

 「良かった! あの、ちょっと待ってくだってぇぇぇ!?」

 追い付いた事に安堵し、集団の後方に位置する者達に声をかけた瞬間。
 一人の年若いダークエルフがリリアに向けて矢を放った。
 突然の凶行にも関わらず、しっかりと避けきったリリア。
 伊達にレベルは高くはないという所をしっかりと見せつける。

 「貴様……いまのが数ミリでも当たっていれば私にとっての致命傷になる所だったぞ……」

 ダークエルフからすれば全く意味の分からない怒りの言葉だったが、リリアはそのレイブンの言葉になるべく怪我だけは気をつけようと心に誓った。 

 「お前達はあの悪魔の仲間だろう! 僕達を追ってきたっていう事は皆を殺したんだな!」

 「え、いや、私達は違いますよ! 私達はリクシアから助けに来たんです!」

 「嘘をつくな! 悪魔が来てからまだそんなに経っていないんだぞ! リクシアに情報があるはずがないだろ!」

 「あちゃー……聞く耳持たずな感じですね……どうしましょうか? ってレイブンさん? どうしたんですか変な顔して」

 怒っていた筈なのに黙っているレイブンにリリアが目を向けると、そこには唖然とした表情を浮かべるレイブンがいた。
 あまりの驚きの表情に年若いダークエルフもそちらに目を向けるが、なにもない。
 そちらはダークエルフの谷の方向で、先程まで彼等がいた場所である。

 「り、リリア様? ぜ、ゼクト様も……ヒトを生き返らせる事がで、出来るのですか!?」

 「え!? き、急にどうしたんですか!? た、たぶん……それらしい事を言っていたような……言ってなかったような」

 「な、なんの話だお前達!? 何を言っている!?」

 「ダークエルフの谷で……滝が出来て……ダークエルフ達が……大量に生き返り……ました」

 「……ん? えーと……よく分かりませんけど、滝が出来て生き返……あ、いえ良いです。 考えても無駄なんでやめましょう! とりあえず死んじゃったダークエルフさん達が生き返ったんですね!」

 意味の分からない単語の並びに突っ込もうとしたリリアだが、すぐに思い直す。
 色々と引き出しが多すぎて全容が全く把握出来ないゼクトの事を考えても無駄だと悟っているからだ。
 滝が出来る時点で意味不明な上に、そこから生き返るなんていう意味不明な事もゼクトならきっとあるのだとリリアは無理矢理納得する。
 
 「い、生き返るってなんだ!? 皆、死んでないのか!? 生きてるのか?」

 「……良かったな小僧。 ゼクト様やリリア様が貴様達に味方したおかげで仲間が死んだという絶望が覆ったのだ。 こんなところに来て汚れてしまったリリア様のお靴をなめて綺麗にするくらいしたらどうだ」

 「いえ、純粋になめられるのは嫌です」

 レイブンの発言にわりとドン引きしているリリア。
 彼もまたミソラやアカネに洗脳されすぎているんじゃなかろうかと心配になってきていた。
 普段レイブンと関わることの少ないリリアとしては、実は他のヒトもこんな風に洗脳されているんじゃなかろうかと心配になり始めていた。

 「……信じた訳じゃない……」

 「あー……取りあえず私達はまた谷の方に向かってみますので、皆さんどうするか話し合ってみてください」  

 「……わかった。 ……もしこれが嘘だったら……」

 「さっきから煩わしい奴だな……別に貴様なぞ」

 「はいはいはいはい! レイブンさん! 行きますよ!」

 若いダークエルフの態度にイライラが募ってきたのか爆発五秒前といった様子のレイブン。
 それを宥めるリリアだが、普段とはまた違う役回りのため若干疲れていた。
 
 レイブンを無理矢理動かし、転移で最初のダークエルフの谷の近くに向かうと、タイミングが良いと言うべきか四つの影が近づいてきていた。

 「アレは……大会に出ていたダークエルフ達ですね。 この短時間でここまで戻ってくるとは……あの魔力を帯びた装備のお陰でしょうね」

 「そうですね。 でもこのタイミングで戻ってきてくれて良かったです。 こういう状況で合流するのは難しいですから」

 そんな事を話しているうちに四人、ガーチやカーラ、キリネア達がリリア達を認め、進行を停止した。
 四人ともリリア達が先に到着していることに驚いている。

 「なんであんた達が先に来てるんだい? まさかあんた達の仕業だってんじゃないだろうね」

 状況が分からず気が立っているカーラ。
 あまりお互いの事を知らない状況でもあった為、威圧的になっていた。

 「違いますよ。 リクシアを襲ったベルトラントの狙いがここだったと言うことが分かったので、レイブンさんの転移でゼクトさんと一緒に来たんです。 ここも凄く燃え盛っていたんですけど、たぶんゼクトさんが消火したみたいですね。 いまは普通に過ごせるようになってますから。 それに殺されたヒト達もゼクトさんが蘇生させたみたいですよ。 ほら、谷の下の方でいらっしゃる方々です。 逃げてたヒト達ももうすぐ戻ると思いますよ」

 一息になんとか状況を説明しきったリリア。
 ガーチやキリネアはリリアの人となりを理解している為、彼女の言葉に安堵し同胞の無事に喜ぶ。
 カーラもまた剥き出しにしていま敵意を納め、ぼりぼりと頭をかいて、リリアに頭を下げる。

 「すまないね。 谷が襲われたって気付いたもんだから、気が立ってた。 じゃあ小難しい事は置いておいて、私はこんな事をやらかした連中を殺しに行けばいいんだね?」

 犬歯を剥き出しにして獰猛な笑みを浮かべるカーラ。
 やられっぱなしで気のすむ質ではない彼女はやり返さなければ気がすまない。
 早速敵はどこかと意気込もうとした時。


 南の空の天が割れ、極大の閃光が雷鳴と共に堕ちた。
 それも一瞬などではなく断続的に長々と。
 そのあまりにも衝撃的な光景に、誰もが息を呑む。

 閃光が弱まり、やがて終わりかと思われたその時。

 世界が震えた。

 そう錯覚するほどに空気が変質したのを誰もが感じ取っていた。
 まるで死が隣にあるかのような、絶望的な気配。
 歴戦の勇であるカーラやガーチですら額に汗を滲ませ、震えを抑えられないでいる。

 「なん……なんだ!」

 「たぶん……ゼクトさんが何かをしようとしているんだと思います。 あぁぁぁ……やっぱりいいなぁ……ゼクトさん」

 この場、この死の雰囲気のなかにおいてあまりにも場にそぐわない色気と狂喜を孕んだような声を出すリリア。
 彼女もまたヒトとして逸脱し始めているのでは、と誰もが思っていた。

 次の瞬間、おぞましい程に高まった死の気配は天に開いていた黒いなにかが閉じることで一瞬にして収まっていった。


 「英雄に……その使い魔……か。 思っていた以上にヤバイ奴等だったんだね。 今後のつきあい方を考えないといけないね」

 「あ、いえ。 ヤバイのは私じゃないので! だいたいゼクトさん達だけですから!」

 「はっ! 本人は気づいてないのがなんともねぇ……。 まぁいい。 あんた達のおかげでどうにかなったんだろうし、今回は素直に礼をいうよ。 ありがとう。 今は無理だけど、近いうちに必ず礼はするよ」

 「あっ、えっとはい! その時はよろしくお願いします」

 カーラに手をだすリリア。カーラはニヤリと笑い、その手を掴んで引き寄せる。

 「あっえっ!?」

 カーラはリリアの耳元に口を寄せて悪戯心全開でつつき始めた。

 (あの男を落とすならいっそ裸でアプローチでもしてみたらどうだい? あんたがやらないなら、うちのキリネアを送り込ませるからね)

 (な、ななななななななな何をいってるんですかぁぁぁぁぁぁぁ!)

 顔を真っ赤にして抗議するリリアを豪快に笑い飛ばすカーラ。
 負けっぱなしなのが悔しくてやった嫌がらせである。
 実に子供じみた嫌がらせであるが、リリアにはクリティカルヒットであった。
 
 ゼクトが敵を連れて戻ってくるまでの間、しばらくここは妙な雰囲気の修羅場となるのであった。






 ※カクヨム様でドラゴンノベルズに応募してみたいと思います( ・`ω・´)!
 正直、書籍化も夢ですが、何よりゼクトさんやリリアさんやアカネさんやミソラさんにイラストという名の肉体をもって欲しいというのがぺすさんの夢です( ・`ω・´)!
 というわけでカクヨムさんで挑戦してみたいと思いますー(*´∀`*)!

 ……向こうのシステムは全然知らないけど、応援してくれてもいいのよ(/ω・\)チラッw

 ちなみに次の話は多分6/22くらいになるかなぁと思ってます(*´∀`*)小話でふざけ倒す予定でっすヽ(=゚ω゚)人(゚ω゚=)ノ
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