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二十一話
しおりを挟む「ここがイシュタルか。 サリドルドも活気のある町だったがここはなんというか荒くれ者の町といった感じだな。 活気の種類が違う」
「………………そーですね」
「あのバカには心地良い場所なのだろう。 此処彼処で野蛮な気配がするな」
「………………そーですね」
日が傾きかけた頃。
予定よりも少し遅くイシュタルの町に到着した。
周囲を荒野や山脈、少し離れた場所には海もある資源に溢れた町で風に少し潮の香りが混ざっているのがなんとも新鮮だ。
未知なる場所に来ると少し心が弾むような感覚があるのだが、レーティアはぐったりとしている。
今回はなるべく負荷のかからないように優しく運んできたのだが、それでもやはり空を高速で移動するというのは慣れないらしい。
目が死んでいる。
「ゾア様……今度から飛んでの移動は無しにしませんか? 怖すぎます」
「むぅ? そもそも何が怖いんだ?」
「速すぎです。 足元に何もないのも怖いです。 あと高すぎて下腹がひゅんってしてとても怖いのです!」
実に切実なレーティアの訴え。
移動はさっさと終わらせたいのだが、ここまで切実に訴えられては仕方無いか。
彼女を幸せにすると決めた以上彼女の望まないことを強行する訳にはいかない。
「……むぅ、分かった。 善処しよう」
「絶対ですからね! 絶対ですからね!」
必死な様子のレーティア。
そんなに怖かったのか。
人間にとって空とはそんなにも恐ろしいものなのか。
今度組合の連中か族長辺りで試してみるか。
他の人間も同様の反応なのか気になる。
「ふぅ……それにしても何だかその、騒がしい町ですね」
「そうだな。 サリドルドの町は清々しい活気のある町という印象だったが、ここは喧騒という言葉が近いな」
「村はいつも静かでしたから、なんというか別の世界みたいです」
「それを言われれば私など森の中だったからな。 これ程人の気配があるとついつい減らしたくなるよ」
「えっ!?」
「冗談さ……半分は」
「半分は本気なんですか!?」
おっかなびっくりといった様子のレーティア。
最近気付いたのだがレーティアをからかうとその表情の変化が面白い。
キッドの記憶ではレーティアの表情は凍りついたように変化の少ないものばかりだったが、今の彼女はとても豊かな気がする。
人間の感情というものは判別が難しいと思っていたが、表情というものは意外とその感情を表している気がする。
「む、どうしたシロ?」
町の様子を見ているとシロがくいと服の袖を引っ張ってきた。
発語がないからこうやって動きで意思表示をしてくるのだが、シロが門の外に指を向けて何かを訴えている。
指の指し示す方向に目を向けると、そこではなにやら大騒ぎしている者達がいた。
集まっているのは兵士や冒険者といった武装した集団。
彼等が争っているのかと一瞬思ったが、どうも違うようだ。
両者ともにお互いに鼓舞するかのように気炎をあげて士気を上げているように見える。
まるで今から何か大きな戦いに挑むかのような様子だ。
「うわぁ……なんだか怖いですね」
「あそこまで戦意を上げる理由はなんなんだろうか。 それでシロ。 あれがどうした?」
シロは自分があそこに行くというような様子を見せているが……なぜ?
「え? シロさん本気ですか!?」
「え? シロが何を言いたいのか分かるのか?」
「え!? 私、ゾア様は分かってると思ってましたけど……なんとなくは分かります」
……おかしい。造ったのは私なのにシロの言葉が分からない。
そして何故レーティアには伝わっているのだろうか。
シロはまさか私にだけコミュニケーションを図る気が無い訳ではないだろうな。
「それでシロはなんと?」
「えっと……あそこの人達が盛り上がっている理由が門の外にいる魔物のせいで……え? あ、はい。 えっと私にちょっとでも害が及びそうなので排除してくる……かな?」
「そ、そんなに事細かく……いいだろう。 好きにしろ」
そんなに語りかけていたとは。
気付けない私は悪くはないと思うが、もう少し分かりやすくしてほしいものだ。私には通じていないぞ。
シロに許可を出すとのんびりした歩調で兵士達の元へ歩いていった。
しかし、兵士や冒険者があんなに集まって倒そうとしている魔物は何だろうか?
来る途中でもそれほど強い魔物の気配など無かったが……?
「あ、えと……シロさん一人で大丈夫なんですか?」
「おそらく大丈夫だ。 あれには私の力を分けてある。 白銀等級クラスでもない限りは負けんだろう……多分」
「白銀等級って物凄く強い人達ですよね。 シロさんってそんなに強いんですか?」
「魔法は使えないが、その分フィジカルに全てを注いでいるから……そうだな。 手応えの感じだと肉体性能はオーガの上位種にも負けないだろうな」
以前キングオーガなるものが森に攻めこんできた事があったが、アレは肉体性能だけは非常に高かった記憶がある。
触手の前に為す術なく殺られていたが、二メートル近い体躯で全身筋肉なのかと思うほどに絞られた肉体から繰り出される拳や蹴りは、私の通常形態の肉体でも魔力を通さなければちょっと傷が出来る程度の威力はあった。
アレよりも強い肉体にしてあるからそうそう負ける事はないだろう。
シロが集団に突っ込んでいくとどよめきが起こり、続いてざわめきが広がっていく。
そのまま様子を見ていると普通に跳躍して門の外に向かっていき、集まっていた兵士や冒険者達が慌ててそれを追いかけ始めた。
「だ、大丈夫ですかねシロさん……怪我しないといいですけど」
「そうだな。 あいつが負けるなら私の出番だな」
取り敢えず様子を見ていると門の外から何か大きなものが地面に叩きつけられるような音と地響きが広がり次の瞬間、肉を強い力で打ち抜いたようなぐじゃりという少し小気味良い音が響き、静寂の後に喝采が聞こえ始めた。
どうやら門のすぐ側に兵士達が戦くような魔物がいたようだが、シロの手によって一捻りだったようだ。
いや、一殴りと言うべきか。
「……シロさんも危ない人なんですね」
「も、という言い方に引っ掛かるが、人間の基準に当て嵌めたらあれも強い部類だろうさ」
若干諦めたような、呆れたような様子のレーティア。
も、の中に私も含まれているんだろう。
これから会う人物も大概な奴だと分かるとレーティアはどう思うのだろうか。
彼女の驚く顔を思い、今から少し楽しみになってきたな。
※BLEACHが面白いし作画が良すぎてヤバいですね(*´∀`*)!
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もれなく兵器化、失敗したら焼却( ゚ー゚)
お熱下がった?妖精さんになってない?
忙しいタイミングの濃厚接触は背徳な休み
イジるだけイジって焼却なんてまったく悪い奴ですなー(*ノд`*)
コロコロちゃんでは無さそうでした!
とりあえずスポドリ飲んで寝てますヽ(*´∀`*)ノ
スライム美少女じゃなくて触手(軟体?)イケメンw
女にもなれるので美少女も間違いじゃないよ\(゚∀゚)/!
まあ今のゾア様はまだ人間性が足りないから性欲も無いし、作者と一緒で紳士みたいなものだよ(ノ´∀`*)
この主人公はぺすさんがまいにち3時間ごとに更新を1年続けるぐらいの理不尽さかなー?
そこまでの理不尽ではないかなー(*゜д゜*)
ハイパーモードぺすなら多分そのぐらい余裕なんだけど、今は尻を壊したぺすだから難しいかなぁ(*´ω`*)