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十六話

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 暗い……暗くて冷たくて静かな場所で、誰かの声がする。
 一人じゃなくてもっとたくさんの人が啜り泣くような、諦めた溜め息のような、怒りを溜め込み歯軋りするような……色んな音がする。

「……ここは? あれ、私なんでこんなところに?」

 ズキズキと痛む頭が少しずつ意識をハッキリとさせてくれる。
 広い石室の牢屋に私だけじゃなくて、村で襲われた人達が何人も捕らわれていた。
 皆傷つけられ、力無く横たわっている人や絶望からか暗い顔をしている人、何かをブツブツと呟いている人……たくさんの村の人達が負の感情に支配されていた。
 私はなんでこんな所にいるんだっけ……?
 たしか冒険者組合でゾア様と別れて、宿に帰ろうとして……そこから記憶がない。
 後頭部が痛いから殴られたのかな。

「あんた……眼が覚めたんだね」

「えっ、えっと……はい。 あの、ここはどこなんでしょうか?」

 近くにいた村の人……顔は知っているけどあまり関わったことはないおばさんが声をかけてきた。
 こんな状況で皆捕らえられて訳が分からない。
 もしかしたら何か知っているかもしれない。

「こっちが知りたいくらいだよ! なんで私達がこんな目に遭ってるのさ! 何かあったらあんたが先に身体を差し出しなさいよ! この混ざり者!」

 シンとした静かな牢屋の中で彼女の言葉が強く響いた。
 ずっと言われ続けていたし今更気にもならないと思っていた。
 でもこんな状況でもそんな事を言われるとは思わなくて、いつもよりもその言葉が深く突き刺さった気がした。

「だいたいなんであんたが生きているのさ! 私の……私のエインが死んだのに……他にも大勢……」

 泣きながらくずおれ、近くにいた人がおばさんを支えた。
 皆私に同じような視線を向けてくる。
 やり場のない怒りや悲しみがあるのは分かるけどなんで私に……私ばっかり。
 私だって皆と同じ立場なのにどうして?

 やっぱり仲間じゃないから……魔族の血が流れているから?
 そんなの私が悪い訳じゃないのに。

 嫌だな。
 ゾア様に捧げられて最初は嫌だったのに、心地好くて優しくて私の事を誰よりも考えてくれてて。
 そうだ……私の事を大切にしてくれるのはゾア様だけだ。
 あんなに居心地が良い場所をくれて優しくしてくれて……だから今のこの状況が堪らなく嫌だ。



 牢屋に入れられて1日近くたった。
 私以外の人達はもっと前から捕まっているからか、精神的にもかなり切羽詰まってきているみたい。
 食事は最低限配られているけど、それ以外は本当に放置されていてトイレは牢屋の隅に作られた簡易な物を使うだけ。
 日の光は入らないし魔法を使おうにも天井と床に施された魔方陣のせいで使えなくなっている。
 なんの目的で捕らえられているのかも分からないから、皆目に見えて衰弱している。

「あんたのせいよ……」

「えっ?」

 昨日のおばさんが急に立ち上がって、ふらふらとした足取りでこちらに近づいてきた。
 視線も定まっていないし顔色もおかしい。
 明らかに普通の状態じゃないのが分かる。
 おばさんは私をまるで仇を見るような目で睨んでいる。

「私達が襲われたのも! エインが死んだのも!
 皆がこんな目に遭っているのも! みんなみんなみんなあんたみたいな混じり者が村にいるから! 死になさいよ! 死んで詫びなさいよ!」

 おばさんは錯乱したように私を殴りはじめた。
 大丈夫。私は慣れてる。いつも毎日たくさん殴られて蹴られてきた。
 だから大丈夫。少し我慢すればいいだけ。

「そうだ……お前だ。 魔族の血を村に置いてたのがいけないんだ。 魔族なんかやっぱり災いでしかない! きっと町の連中もお前の事に気付いたから!」

 いつもはただ見ているだけの人達の目が、目付きが変わっている。
 大人の男の人も加わって踞る私を蹴りはじめた。
 二人の怒りが他の人達にも伝播したのか、悪意みたいなものが私に集中しだしているのを肌で感じた。
 これは本当にまずいかもしれない。
 怖い……怖い怖い怖い怖い怖い。

 いつもはただ殴られて蹴られても我慢すれば終わってた。
 でもこれは違う。いつものに関係の無い怒りや憎しみが上乗せされてる。
 何人もの人が次々に悪意をぶつけてくる。

 痛い。
 ただ痛いだけじゃない。
 怖い。
 辛い。
 苦しい。
 逃げ場が無い。
 息を吸うだけでも痛い。
 息を吐くのも痛い。
 腕が変な形になってる。
 足が有り得ない方向に向いてる。
 お腹の中が火を突っ込んだみたいに熱い。
 頭の中が痛みと熱を帯びたみたいにどんどんかんがえがまとまらない。
 わたしは……わたしのなにがわるいの?
 わたしは、そんなにおこられてたたかれるほどにわるいの?

「おい、なんだこりゃ! 騒ぎがあるから来てみたら……ったく、静かにしやがれ!」

 誰かが何かを言っている。
 それだけで私の周りから人が離れていった。
 きっと見張りの人が止めてくれたのかな。

「あーあー……ったく、供物にしないといけないのにこんなにしやがって。 お前ら、これ以上暴れるなら飯を抜くからな」

「仲間内でこんなことやるなんて、本当に醜い奴等だね」

「まったくだ。 神の供物にするには汚ねー連中な気がするぞ」

 神の……供物?
 神ってなんだろ。
 凄いのかな?
 ゾア様よりも?

 ゾア様も神様みたいなものなのかななんて考えていると横たわる全身に鈍い衝撃が少しだけ響いてきた。

「なんだ? 上か?」

「誰か暴れてるのかな? ったく、牢屋でも大暴れ。 上でも大暴れ? 止めて欲しいよね本当。 僕働きたくないんだよ」

「まったくだな。 とは言えラハット司教に任された場所だ。 確認するぞ」

「はいはい」

 声が遠退いていく。
 周りにいた人達も私から離れていくのが分かる。
 さっきの人達が釘を刺してくれたからか、暴力が止まったから少しだけ安心出来る。
 けど、身体が大変なことになっているのが分かる。
 意識もだんだん遠退いて……きてる。

 ……最後はどうせならゾア様に食べられて死んでもよかったかなぁ。





※正直やりすぎた気がする!
でも次の話はもっとやりすぎた(*´∀`*)!
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