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第1章 目隠し皇女
第8話 ヒロインとの再会
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「はぁ……俺に娘の教師をやれだぁ……?」
俺は馬車に揺られながら、一人ため息を漏らしていた。
――結局グレイの申し出を断れなかった俺は、ハーフェンを皇国軍に任せて単身皇都へと向かっている。
「一体どんな気持ちで、昔惚れてた女の娘に魔術を教えろってんだよ……」
ハッキリ言って気分は憂鬱だ。
今からでも帰りたい。
もう帰るべき場所はないけど。
ハーフェン没収されちゃったし。
まあ幸いなことに、ハーフェンの後任領主はグレイお墨付きの中流貴族が引き継いでくれた。
疑わしい人物ではないし手腕も確からしいので、領民が不幸になることはないだろう。
というかそう信じる他ないが。
セルバンの爺やに関しては、これを機に執事業を引退することになった。
もう年齢が年齢だったからな。
後任の執事に引き継ぎを終えたら、ハーフェンに小さな家を建てて余生を過ごすと言っていた。
彼は俺を送り出すにあたり、
『クーロ様が過去の呪縛を断つには、これ以上の方法はありますまい』
『このご依頼は、必ずや貴方様を先へと歩ませてくれるでしょう』
『これで爺やも心置きなく引退できそうです』
と言って微笑みかけ、背中を押してくれた。
……そこまで言われちゃ、頑張るしかないよなぁ。
それに皇女殿下は、来春の『アルヴィオーネ魔導学園』への入学試験を目指すって話だしな。
来春というと今から精々三ヵ月程度――。
つまり三ヵ月間だけ、エステルとその娘の傍で教師役をすればいいワケで。
その日々を耐え抜けば、あとはお役御免。
報奨としてまた適当な領地を貰って、怠惰な日常に戻ればいい。
精神的に地獄の日々となりそうではあるが……ぐぅ、今から胃痛が……。
なんてことを思っている内に馬車は皇都への入り、大通りをどんどん進んでいく。
そして都の中央部にそびえ立つ、巨大な王宮へと辿り着いた。
「お待ちしておりました、クーロ・カラム様。謁見の間にて皇王様がお待ちです」
馬車から降りた俺を給仕が出迎え、広々とした王宮の中を案内していく。
ここに来るのも、もう十六年ぶりか――。
流石に戦後すぐだった当時と比べれば、だいぶ様変わりしたな。
さっき通って来た街並みもそうだったが、建物のほとんどが一新されて綺麗になってる。
『エクレウス皇国』がすっかり復興し、余裕が出てきている証拠だ。
懐かしさこそ薄れるが、良いことなのは間違いない。
とはいえ……昔からそうなんだが、こういう厳粛で無駄に広い場所って苦手なんだよな。
やっぱり俺は小さい屋敷で過ごすのが性に合ってるよ……。
やや気まずさを感じつつ歩いていると、謁見の間に到着。
玉座には正装をした皇王グレイ・エクレウスが座り、他にも数名の大臣たちの姿もあった。
俺は頭を垂れて片膝を床まで降ろし、
「――グレイ・エクレウス皇王陛下、この度は王宮へご招待頂き誠に恐悦至極。クーロ・カラム侯爵、ここに馳せ参じました」
「よく来てくれたね、クーロ。どうかそんなに畏まらないでくれ。ここが王宮だとしても、僕とキミは対等な友人なんだから」
「……フッ、無理矢理呼び出しといてよく言うよ」
俺は僅かに口元を吊り上げ、軽口を叩く。
そんな俺の態度に、どこかグレイも嬉しそうに笑う。
そして、そんな彼のすぐ傍には――
「……久しぶりだね、クーロ」
「……エステル」
皇后であるエステル――エステル・エクレウスが寄り添っていた。
昔は肩に付く程度の長さだった栗色の髪は、今は腰まで伸びている。
シワ一つない肌も瑞々しく、まるで老化を感じさせない。
彼女は俺と同じ年齢だったから、今は三十二歳のはず。
それなりにいい年齢のはずだが……十六年前と、あの頃となにも変わらぬほどに魅力的だ。
でも敢えて言うなら、昔より気品のようなモノが備わっただろうか?
皇后として長く過ごし、ややお転婆だった部分が鳴りを潜めたのかもしれない。
「貴方はあの頃のままだわ。本当に十六年も経ったなんて思えない」
「なに言ってんだよ。そっちこそあの頃のままだろ」
「私はすっかりおばさんになっちゃった。近頃は肌のお手入れも大変なんだよ?」
「よくわかる。俺も白髪を気にする日々だからな」
「ウフフ、それじゃ私たちは皆おじさんおばさんだね」
「ハハ…………ああ、そうだな」
――懐かしい。
彼女とこんな他愛のない話をするのが、本当に。
でも……やっぱしんどいな。
……もう、グレイに寄り添う彼女を見てられない。
こうして話していても――やはりエステルと会うべきじゃなかったと感じる。
俺は馬車に揺られながら、一人ため息を漏らしていた。
――結局グレイの申し出を断れなかった俺は、ハーフェンを皇国軍に任せて単身皇都へと向かっている。
「一体どんな気持ちで、昔惚れてた女の娘に魔術を教えろってんだよ……」
ハッキリ言って気分は憂鬱だ。
今からでも帰りたい。
もう帰るべき場所はないけど。
ハーフェン没収されちゃったし。
まあ幸いなことに、ハーフェンの後任領主はグレイお墨付きの中流貴族が引き継いでくれた。
疑わしい人物ではないし手腕も確からしいので、領民が不幸になることはないだろう。
というかそう信じる他ないが。
セルバンの爺やに関しては、これを機に執事業を引退することになった。
もう年齢が年齢だったからな。
後任の執事に引き継ぎを終えたら、ハーフェンに小さな家を建てて余生を過ごすと言っていた。
彼は俺を送り出すにあたり、
『クーロ様が過去の呪縛を断つには、これ以上の方法はありますまい』
『このご依頼は、必ずや貴方様を先へと歩ませてくれるでしょう』
『これで爺やも心置きなく引退できそうです』
と言って微笑みかけ、背中を押してくれた。
……そこまで言われちゃ、頑張るしかないよなぁ。
それに皇女殿下は、来春の『アルヴィオーネ魔導学園』への入学試験を目指すって話だしな。
来春というと今から精々三ヵ月程度――。
つまり三ヵ月間だけ、エステルとその娘の傍で教師役をすればいいワケで。
その日々を耐え抜けば、あとはお役御免。
報奨としてまた適当な領地を貰って、怠惰な日常に戻ればいい。
精神的に地獄の日々となりそうではあるが……ぐぅ、今から胃痛が……。
なんてことを思っている内に馬車は皇都への入り、大通りをどんどん進んでいく。
そして都の中央部にそびえ立つ、巨大な王宮へと辿り着いた。
「お待ちしておりました、クーロ・カラム様。謁見の間にて皇王様がお待ちです」
馬車から降りた俺を給仕が出迎え、広々とした王宮の中を案内していく。
ここに来るのも、もう十六年ぶりか――。
流石に戦後すぐだった当時と比べれば、だいぶ様変わりしたな。
さっき通って来た街並みもそうだったが、建物のほとんどが一新されて綺麗になってる。
『エクレウス皇国』がすっかり復興し、余裕が出てきている証拠だ。
懐かしさこそ薄れるが、良いことなのは間違いない。
とはいえ……昔からそうなんだが、こういう厳粛で無駄に広い場所って苦手なんだよな。
やっぱり俺は小さい屋敷で過ごすのが性に合ってるよ……。
やや気まずさを感じつつ歩いていると、謁見の間に到着。
玉座には正装をした皇王グレイ・エクレウスが座り、他にも数名の大臣たちの姿もあった。
俺は頭を垂れて片膝を床まで降ろし、
「――グレイ・エクレウス皇王陛下、この度は王宮へご招待頂き誠に恐悦至極。クーロ・カラム侯爵、ここに馳せ参じました」
「よく来てくれたね、クーロ。どうかそんなに畏まらないでくれ。ここが王宮だとしても、僕とキミは対等な友人なんだから」
「……フッ、無理矢理呼び出しといてよく言うよ」
俺は僅かに口元を吊り上げ、軽口を叩く。
そんな俺の態度に、どこかグレイも嬉しそうに笑う。
そして、そんな彼のすぐ傍には――
「……久しぶりだね、クーロ」
「……エステル」
皇后であるエステル――エステル・エクレウスが寄り添っていた。
昔は肩に付く程度の長さだった栗色の髪は、今は腰まで伸びている。
シワ一つない肌も瑞々しく、まるで老化を感じさせない。
彼女は俺と同じ年齢だったから、今は三十二歳のはず。
それなりにいい年齢のはずだが……十六年前と、あの頃となにも変わらぬほどに魅力的だ。
でも敢えて言うなら、昔より気品のようなモノが備わっただろうか?
皇后として長く過ごし、ややお転婆だった部分が鳴りを潜めたのかもしれない。
「貴方はあの頃のままだわ。本当に十六年も経ったなんて思えない」
「なに言ってんだよ。そっちこそあの頃のままだろ」
「私はすっかりおばさんになっちゃった。近頃は肌のお手入れも大変なんだよ?」
「よくわかる。俺も白髪を気にする日々だからな」
「ウフフ、それじゃ私たちは皆おじさんおばさんだね」
「ハハ…………ああ、そうだな」
――懐かしい。
彼女とこんな他愛のない話をするのが、本当に。
でも……やっぱしんどいな。
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