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第1章 目隠し皇女

第6話 教師をやってほしいんだ

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「…………なんだって?」

「”娘”の教師をやってほしい、と言った」

「いや、そうではなく……」

「ああすまない、言葉が足りなかったな。正確には娘の魔術の先生をしてやってほしいんだ」

 いや、そういうことではなく……。
 それがお忍びで来てまで打ち明ける内容なのか……?

 グレイの娘――っていうと、つまり皇女殿下だよな?

 ……一応、グレイとエステルが一児を儲けたことは知っている。
 終戦の一年後に生まれて、当時は国中で話題になったからな。

 だが俺は、その子と直に会ったことはない。
 俺は二人が結婚式を挙げたのを見届けた後、すぐにハーフェンへ向かったからな。
 それに皇都へ戻ったり、グレイやエステルと連絡を取るのをできるだけ避けていたのもある。

 だから詳しくは知らない――というか、皇女殿下のことを詳しく知る者なんて極少数ではなかろうか。

 何故なら皇女殿下は、これまでほとんど公の場に姿を現したことがないからだ。
 俺は参加しなかったので詳細は不明だが、戦後十周年の記念パレードでも姿を見せなかったらしい。
 なんでも身体が病弱で、王宮の中から出られない――なんて話を風の噂で聞いた。

 真偽のほどは知らないが…………正直、知りたいとも思わない。

「娘は今年で十五歳になる。彼女は『アルヴィオーネ魔導学園』への入学を目指していてね」

「――! アルヴィオーネに……?」

「ああ、懐かしいとは思わないか? 僕たちが青春を過ごした、あの学園だよ」

 ……懐かしくないワケがない。
 十六年前、まだ十代だった俺たちが共に学び、共に汗を流し、共に国を守るために立ち上がった、かけがえのない学び舎。

 ――『アルヴィオーネ魔導学園』。

 『エクレウス皇国』の公立学校であり、何世紀にも渡って優秀な人材を輩出してきた由緒ある魔導学園。

 名前に魔導とあるように基本は魔術を教えているが、同時に皇国を守る士官を育成する場所であるため、魔術以外にも剣や弓など様々な武術も教えている。

 この学園に通うことは皇国の民にとって最大の名誉であり、主人公ヒロインであるエステルや攻略対象メインヒーローである俺たちも通っていた。

 ――メタなことを言ってしまえば、ここが”戦ラプ”の物語の舞台なのだ。
 広々とした学園で、魔術とファンタジーがあって、若者たちの青春の場で――。

 如何にも乙女ゲームの設定に使いやすい場所、それが『アルヴィオーネ魔導学園』。

 ……俺が初めてエステルと出会ったのも、学園の中だったよ。
 今でも……よく覚えてる。

「来春には入学試験が控えていてね。これまでは僕とエステルが魔術を教えていたんだが、この度専属の教師を雇うことに決めたんだ」

 ああ……なるほど?

 アルヴィオーネは世界でも最高峰の魔術学校。
 そのレベルは非常に高く、入学の難しさが群を抜いていることでも知られている。

 一次試験である筆記テストの時点で、その倍率なんと200倍。

 加えて国内が平和になった現在、優れた学問を学びに世界中から入学希望者が殺到しているようで、さらに年々倍率が上がっているなんて話もある。

 もはやエリートの中のエリートしか入学を許されない超難関。
 そこを目指すとなれば、グレイが娘に教師を付けようと考えるのも頷けるが――

 グレイもエステルも、立派なアルヴィオーネの卒業生。
 つまりエリート。

 俺なんかに頼らずとも、充分に教師役が務まるはずなんだけど……。
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