パンツのうた

ももちよろづ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

パンツのうた

しおりを挟む
「はい、かおる君、新しいパンツ」

「はぁ……」


「ここに、着替えと一緒に、置いとくからね」

年上の彼女、かおりさんと、同棲を始めてから、一ヶ月。

最近、彼女が、頻繁に、俺に新しいパンツを買って来る。

てゆうか、明らかに、俺のパンツが無くなっている。

何だ?

この界隈に、熟女の下着ドロでも、出没してるのか?



「香さん……。

 最近、俺のパンツ、減ってませんか?」

「えっ!?

 そ、そう?」

「いや、毎日、香さんが洗濯してくれてるんだから、気付いてるでしょ?」

「さぁ……?数えてなかったなぁ?」



何か、反応が白々しいな。



「薫君、洗濯物あったら、出しといてね」

「はい……」

香さんは、家事全般が得意だけど、

洗濯する時は、特に楽しそうだ。

何でだろう?



「ん~……」


或る日の夕飯の後、リビングで二人でDVDを見乍ら寛いでいると、

香さんが、俺の首元に顔を寄せて来た。


スン、スン


「……何?」

「ん~、薫君、いい匂いするから……」

香さんは、初め、脇の辺りを嗅いでいたが、その内、

胸、腹と下って、股間でピタッと止まった。


スン、スン


「ちょ、何処を嗅いでるんですか!」

「ここが、一番、匂いが濃くて、いい感じ……♡」

香さんは、俺の股に顔を埋め、匂いを嗅ぎ続けている。

てか、そんな所に顔を近付けられたら、元気になってしまうんだけども。

「あれ、薫君、元気になってる」

「そりゃ、そんな所に、香さんの顔があったら……。

 責任取って?」

「しょーが無いなぁ……」



「ふぅ……気持ち良かった。

 風呂、入って来ます」

俺は、風呂に入ろうと立ち上がった。

「お風呂、入るの……?」

「? 入りますよ」

香さんは、口元を拭い乍ら、

信じられない、と言った顔で、俺を見ている。

「体洗ったら、匂いが落ちちゃう!」

「いや、俺、人前に出る仕事なんだから、

 エチケットとして、当たり前でしょ!」

「はぁい……」

香さんは、しゅんとして、俺の脱いだ服の匂いを嗅ぎ続けていた。

「スーハー、スーハー」

「………………」

愛されてるのは嬉しいけど、普通に引く。



「只今ー、今日は、疲れました~……

 って、あれ?」


いつも、俺の方が後に帰ると、パタパタ走って来る香さんが、

今日は出迎えてくれない。

どうしたんだろう?



コン、コン


「香さん?居るんでしょ?」

香さんが、リビングにも、ダイニングにも居なかったので、

彼女の部屋のドアをノックする。

「あっ、薫君、お帰り」

中から、香さんの声がした。

「どうしたんですか?部屋に篭っちゃって」

「! 駄目!入っちゃ!」

何だか、焦っている様だ。

「……入りますよ?」

「あっ!」

俺は、意を決して、ガチャリとドアノブを回した。



「……………………」


ドアを開けると、異様な光景が広がっていた。

洗濯カゴ一杯に積み上げられた、俺のパンツ(脱いだ奴)。

カゴを抱き締めて、パンツの山に顔を埋める香さん。


『薫君!薫君!
 うわぁあああああああん!!!
 あっあっー!
 薫君薫君薫君
 ぅううぁわぁああああ!!!
 あぁクンカクンカ!
 クンカクンカ!
 スーハースーハー!
 スーハースーハー!
 いい匂いだなぁ……くんくん
 んはぁっ!薫君のパンツを
 クンカクンカしたいぉ!
 クンカクンカ!あぁあ!!』


と、ル●ズたんのコピペを当てたくなる様な、香さんが居た。



何してんの、この人。

同棲してる恋人でも、流石にドン引きっすわ。

「香さん……。

 俺のパンツ、返して下さい」

「嫌だぁぁああ!!!

 洗ったら、匂いが落ちちゃう!」

何の執着だよ。

大丈夫か、この人。

「……じゃあ、こうしましょう。

 その日、脱いだ、最新のパンツを、アンタに貸してあげます。

 だから、他のは、返して下さい」

「本当……?」

正直、引いてるけど、パンツ一枚で、毎日、機嫌良くしててくれるなら、安いモンだ。

「約束します。だから、ね?」

「うん……」

香さんは、名残惜しそうに、パンツの束を差し出した。

どんだけ、俺の股の匂い、好きなんだよ……。



「薫君、お帰り!」

「只今ー」


先に帰っていた香さんは、いつも通り、

笑顔で、パタパタ走って来る。

「良い子にしてましたか?」

「うん!

 だ、だから、今日の分……♡」

「はい、はい」

俺は、脱衣場で、楽なスエットに着替えると、

履き替えて、脱いだパンツを、彼女に渡した。

「……!」

彼女の顔が、パァッと輝く。



正直、内心、滅茶苦茶引いてる。

引いてる、けど。

「えへへ……♡」

この、とても良い笑顔を見ていると、今更、止めてとも言えない。



うん。

愛の形は、千差万別。

一つ位。

一つ位、こんな愛の形があっても、良いんじゃないかな?


「薫君、ご飯、出来てるよ!」

「はーい!」


俺を呼ぶ彼女の声に答え乍ら、


俺は、そんな事を考えていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...