上 下
87 / 99
二年目

家族がそろう上機嫌の朝 2

しおりを挟む


「味方は多いほうがいいと思ったんだ。俺一人じゃ不安だったから。月子ちゃんのお父さんが動いてくれるかどうかは、賭けだったけどね」

 月子の盗撮写真を純がSNSで見かけた日から、平山が社長を訪ねるまでの期間。純はさまざまなことを調べつくし、さまざまなことに手を打った。

 月子の行動を分析し、平山の言動を分析し、社長への根回しを着々と進めておいた。ここ最近で一番、自身の能力と頭を使ったかもしれない。

「純、覚えてる?」

 妃が純によく似た笑みを浮かべ、話に入る。

「去年、一緒に舞台を見にいったでしょ? 月子ちゃんの。その監督が、渡辺さんなのよ」

「うん。それを知ってから、送ろうって決めたんだ」

 もちろん、直接会ったわけではないため、人物像はわからない。親子関係がどういったものかもわからない。

 が、少なくとも、女優の渡辺月子を使うくらいには娘のことを認めているはずだ。月子からも、父親への嫌悪を感じ取ったことはない。

 父性の強い人物であれば、当然月子を守るだろう。
 仮に娘を人形のように扱っていたとしても、娘の惨めな情報が出回るのは演出家として許せないはずだ。演技力に定評のある娘を今後も使うために、手を打ってくる。

「月子ちゃんのお父さんって、ちょっと特殊な人だよね。独立してる立場だからテレビ局にも芸能事務所にも縛られてない。だからこそ信頼している人は多いし、そのぶん敵に回すと厄介でしょ?」

 当然、渡辺蓮に関する情報も、ネットにのっていることくらいは調べきっていた。

 純の笑みは妖しく、冷ややかなものになる。

「個人事務所が自宅の住所と違ってたから、そっちに送るほうが月子ちゃんの目に止まらなくていいかなあって」

 恵と妃は再び顔を見合わせる。恵は苦笑し、妃は眉尻を下げてため息をついた。

「ほんと、わが子ながら恐ろしいわ。一番敵に回しちゃいけないのは純みたいなタイプね」

「俺なんて、全然だよ」

 純は機嫌よく笑いながら「ほら見て」とテレビに顔を向ける。

 テレビでは、いまだに月子に起こったことを詳細に説明していた。

「渡辺蓮の名前を出してまで、わざわざテレビで報道させたんだ。本当に月子ちゃんが大事で、相手を絶対に許すつもりがないんだよ。やられたら、徹底的にたたきのめす人なんだろうね」

 テレビを見る純の目は、堂々としている。

「もしかしたらこれから、芸能人だから我慢すべきだとか、ここまでするなんて親バカだって外野がたたくかもしれない。でもきっと、大丈夫」

 純は大口を開けてトーストをかじる。

 咀嚼しながら、報道のされ方とコメンテーターの反応を頭の中で分析し、未来を構築していく。

 目をつむれば、まぶたの裏に、はっきりと視えた。

「世の半分以上は月子ちゃんたちの味方になるし、いずれはこの戦い方が正しかったんだってみんな気づく。月子ちゃんは、お父さんに似たね。今回の件を糧にして、これからも結果を残し続けるよ」

 妃が純のようすをじっと見つめ、純と同じ切れ長の目を細める。

「あら~純ったらもしかして……」

 目を開けた純は、不快気な表情で妃を見る。

「ちがうからね」
 
「まだ何も言ってないでしょ」

「言わなくてもわかる。月子ちゃんとはそういう関係じゃないし、この先もそういう関係にはならない、絶対に」

「でも、向こうは違うんじゃないかしら」

「それもない。だって月子ちゃんは、下心のある男性は軽蔑する人だから」

「そうなの? それは、残念だったわねぇ」

「……いや、ふられた人を見るような顔しないでよ」

 妃はやれやれと肩をすくめる。

「でも、純が自分の力を使いたいって思うくらいには、大事な子なんでしょ?」

「それはもちろん」

 純は特定の人にしか見せない満面の笑みを浮かべる。その全身から、周囲を癒やすほどの清らかな空気を放っていた。

「パパやママと同じくらい優しくて強い、友達だからね!」

 テレビでは、まだ月子に関する報道が続いていた。

「――また、この件で拡散された写真の中に、アイドルグループ『arcana secretアルカナ シークレット』のメンバーが撮影したと疑われるものもあり、事務所は事実確認をしたのちに処分を下すことを検討しています」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

先輩に振られた。でも、いとこと幼馴染が結婚したいという想いを伝えてくる。俺を振った先輩は、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。

のんびりとゆっくり
青春
俺、海春夢海(うみはるゆめうみ)。俺は高校一年生の時、先輩に振られた。高校二年生の始業式の日、俺は、いとこの春島紗緒里(はるしまさおり)ちゃんと再会を果たす。彼女は、幼い頃もかわいかったが、より一層かわいくなっていた。彼女は、俺に恋している。そして、婚約して結婚したい、と言ってきている。戸惑いながらも、彼女の熱い想いに、次第に彼女に傾いていく俺の心。そして、かわいい子で幼馴染の夏森寿々子(なつもりすずこ)ちゃんも、俺と婚約して結婚してほしい、という気持ちを伝えてきた。先輩は、その後、付き合ってほしいと言ってきたが、間に合わない。俺のデレデレ、甘々でラブラブな青春が、今始まろうとしている。この作品は、「小説家になろう」様「カクヨム」様にも投稿しています。「小説家になろう」様「カクヨム」様への投稿は、「先輩に振られた俺。でも、その後、いとこと幼馴染が婚約して結婚したい、という想いを一生懸命伝えてくる。俺を振った先輩が付き合ってほしいと言ってきても、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。」という題名でしています。

処理中です...