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二年目
家族がそろう上機嫌の朝 2
しおりを挟む「味方は多いほうがいいと思ったんだ。俺一人じゃ不安だったから。月子ちゃんのお父さんが動いてくれるかどうかは、賭けだったけどね」
月子の盗撮写真を純がSNSで見かけた日から、平山が社長を訪ねるまでの期間。純はさまざまなことを調べつくし、さまざまなことに手を打った。
月子の行動を分析し、平山の言動を分析し、社長への根回しを着々と進めておいた。ここ最近で一番、自身の能力と頭を使ったかもしれない。
「純、覚えてる?」
妃が純によく似た笑みを浮かべ、話に入る。
「去年、一緒に舞台を見にいったでしょ? 月子ちゃんの。その監督が、渡辺さんなのよ」
「うん。それを知ってから、送ろうって決めたんだ」
もちろん、直接会ったわけではないため、人物像はわからない。親子関係がどういったものかもわからない。
が、少なくとも、女優の渡辺月子を使うくらいには娘のことを認めているはずだ。月子からも、父親への嫌悪を感じ取ったことはない。
父性の強い人物であれば、当然月子を守るだろう。
仮に娘を人形のように扱っていたとしても、娘の惨めな情報が出回るのは演出家として許せないはずだ。演技力に定評のある娘を今後も使うために、手を打ってくる。
「月子ちゃんのお父さんって、ちょっと特殊な人だよね。独立してる立場だからテレビ局にも芸能事務所にも縛られてない。だからこそ信頼している人は多いし、そのぶん敵に回すと厄介でしょ?」
当然、渡辺蓮に関する情報も、ネットにのっていることくらいは調べきっていた。
純の笑みは妖しく、冷ややかなものになる。
「個人事務所が自宅の住所と違ってたから、そっちに送るほうが月子ちゃんの目に止まらなくていいかなあって」
恵と妃は再び顔を見合わせる。恵は苦笑し、妃は眉尻を下げてため息をついた。
「ほんと、わが子ながら恐ろしいわ。一番敵に回しちゃいけないのは純みたいなタイプね」
「俺なんて、全然だよ」
純は機嫌よく笑いながら「ほら見て」とテレビに顔を向ける。
テレビでは、いまだに月子に起こったことを詳細に説明していた。
「渡辺蓮の名前を出してまで、わざわざテレビで報道させたんだ。本当に月子ちゃんが大事で、相手を絶対に許すつもりがないんだよ。やられたら、徹底的にたたきのめす人なんだろうね」
テレビを見る純の目は、堂々としている。
「もしかしたらこれから、芸能人だから我慢すべきだとか、ここまでするなんて親バカだって外野がたたくかもしれない。でもきっと、大丈夫」
純は大口を開けてトーストをかじる。
咀嚼しながら、報道のされ方とコメンテーターの反応を頭の中で分析し、未来を構築していく。
目をつむれば、まぶたの裏に、はっきりと視えた。
「世の半分以上は月子ちゃんたちの味方になるし、いずれはこの戦い方が正しかったんだってみんな気づく。月子ちゃんは、お父さんに似たね。今回の件を糧にして、これからも結果を残し続けるよ」
妃が純のようすをじっと見つめ、純と同じ切れ長の目を細める。
「あら~純ったらもしかして……」
目を開けた純は、不快気な表情で妃を見る。
「ちがうからね」
「まだ何も言ってないでしょ」
「言わなくてもわかる。月子ちゃんとはそういう関係じゃないし、この先もそういう関係にはならない、絶対に」
「でも、向こうは違うんじゃないかしら」
「それもない。だって月子ちゃんは、下心のある男性は軽蔑する人だから」
「そうなの? それは、残念だったわねぇ」
「……いや、ふられた人を見るような顔しないでよ」
妃はやれやれと肩をすくめる。
「でも、純が自分の力を使いたいって思うくらいには、大事な子なんでしょ?」
「それはもちろん」
純は特定の人にしか見せない満面の笑みを浮かべる。その全身から、周囲を癒やすほどの清らかな空気を放っていた。
「パパやママと同じくらい優しくて強い、友達だからね!」
テレビでは、まだ月子に関する報道が続いていた。
「――また、この件で拡散された写真の中に、アイドルグループ『arcana secret』のメンバーが撮影したと疑われるものもあり、事務所は事実確認をしたのちに処分を下すことを検討しています」
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