上 下
79 / 99
二年目

妹と兄のひと悶着、再び 2

しおりを挟む



「そういうところに問題があるんだろ! 星乃はおまえのこと心配して声をかけただけなのに、八つ当たりしてんじゃねえよ!」

「はあ?」

 月子は負けることなく言い返す。

「関係ないところで死ねって言ってきた人に言われたくないんですけど! 記者がいるからって救急車呼ぶのためらってましたよねぇ?」

 その一言で、メンバーの視線が千晶に向く。

「な……ちがっ……おまえ、それ語弊があるだろ!」

「語弊? どこが? 事実でしょ?」

 事実だ。純にはわかる。月子は先ほど純に向けていた感情とは違うものを千晶に向けていた。

 本気で、千晶を叩きのめそうとしている。高慢に、見下すような笑みを浮かべながら。

「ようやく売れ出したからって調子に乗るな! あんたがいいのは顔だけだから! 演技力もトーク力もない! そのうち飽きて捨てられるわ!」

 千晶は言い返せず、顔をゆがませる。コンプレックスに感じている部分を、月子は的確についていた。

「あんたに顔がなくなったら何が残るの! 腕を傷つけても仕事が来る私と一緒だと思うな! あんたの演技なんて私から見れば大根よ!」

 状況に収拾がつかなくなったころ、ようやく迎えの車が月子のそばに停まる。平山が月子を抱きかかえ、迎えの車に無理やり押し込んだ。

 抵抗しながら、月子はまだ吠える。

「イノセンスギフトなんてポッと出のアイドルにしか過ぎないから! せいぜい今のうちに仕事楽しんどけばぁ?」

「月子ちゃんやめて! わかった! わかったから!」

 暴れる月子をなんとか乗せ、ドアを閉める。ため息をつきながら純にむきなおった。

「……お騒がせして、申し訳ありませんでした」

 乱れたスーツもそのままに、平山は純に向かって頭を下げた。純は悲哀を帯びた目で見すえる。

「気にしないでください。俺は、大丈夫ですから、こちらこそ、刺激してしまってすみません」

 純の後ろから、イノセンスギフトと一緒にいた熊沢が、わざとらしく声を放った。

「あーあ、大丈夫か星乃。災難だったなぁ。ああいうヒステリックな女子中学生が担当じゃなくてほんとうによかったよ」

 純に限らず、平山にもちゃんと聞こえている声量だ。

「本当に申し訳……」

「本当に気にしてないので大丈夫です」

 純は平山に対し、すべてを包み込むような笑みを見せる。頭を上げた平山は、悲壮感を漂わせていた。

「……あのとき、星乃くんが言っていたとおりになりましたね」

「ねえ。残念ながら」

「……僕、もう、どうしたらいいかわからないんです」

 顔を伏せた平山から、今にも泣きそうな声が漏れる。

「僕は、月子が仕事の多さに苦しまないでほしくて……。ついこの間まで、良い関係を築けていると、思ってたのに……。なにがだめだったのか考えてみたけど、それも、わからなくて……」

「とりあえず今は、マネージャーの仕事だけをしていたらいいんじゃないですか?」

 純にしては、突き放すような口調だった。

 わかっている。平山が悪いわけではない。月子に対して思いやる気持ちも、心配する気持ちも本物だ。それが月子の気持ちと噛み合わないだけ。

 今ならきっと、平山も純の言葉をしっかり聞いてくれるだ。純は冷静に続ける。

「平山さんは、月子ちゃんの地雷を踏んじゃったんでしょうね。だから、それまでの信頼も何もかも、月子ちゃんの中で吹き飛んじゃったんじゃないかな」

「でも、僕は……」

「わかってます。平山さんがちゃんと、月子ちゃんのことを大事に思ってるってことは。だからこそ、なにが地雷かわからない状況で、余計なことをすべきじゃないんです」

 純は一歩、近づいた。顔を寄せ、手で口元を隠し、平山にしか聞こえないほどの声を出す。

「だって、月子ちゃんは、平山さんにマネージャーとしての仕事以外は、求めていなかったでしょ? それが、すべてなんです」

 平山の顔はますますバツの悪いものへと変わっていく。

「……今はつらいでしょうけど耐えてください。俺は、平山さんを絶対に辞めさせたりしません」

「えっ」

 純は少し離れ、人当たりのいい笑みで続けた。

「ごめんなさい、引き止めちゃって。月子ちゃん、まだまだ不安定な時期だから、平山さんがそばにいてあげてくださいね。ただ、それだけでいいんです」

 平山は真剣な顔をして、もう一度頭を下げる。背を向けて、月子が乗った車に乗り込んだ。

 発進した車を見届ける純のもとに、背後から爽太と空が駆け寄る。

「ねえ、大丈夫? なにに首つっこんでんだよ」

「渡辺月子になにしてんだよおまえは~! 見てるこっちがヒヤヒヤしたんだからな!」

 二人は本気で純のことを心配していた。月子の怒声が強烈だったのか、月子が去った今も顔を青ざめている。

「大丈夫だよ、友達だもん」

 にこやかに言い切った純は、二人と一緒に事務所の中に入ろうとした。が、視線に気づき、立ち止まる。

 純を見すえていたのは千晶だ。憎々し気にゆがんだ顔でにらんでいる。端正に整った顔だからこその迫力があった。

 千晶のほうから目をそらし、先に事務所へと入っていく。純のとなりにいた爽太が、鼻を鳴らしてつぶやいた。

「妹が妹なら、兄も兄だな」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

深海の星空

柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」  ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。  少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。 やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。 世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。

SING!!

雪白楽
青春
キミの音を奏でるために、私は生まれてきたんだ―― 指先から零れるメロディーが、かけがえのない出会いを紡ぐ。 さあ、もう一度……音楽を、はじめよう。 第12回ドリーム小説大賞 奨励賞 受賞作品

【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】

猫都299
青春
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。 「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」 秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。 ※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記) ※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記) ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベルに投稿しています。

イルカノスミカ

よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。 弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。 敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。

本当の春

あおなゆみ
青春
僕たちは、自分を何と呼べば良いのかも分からない曖昧な存在で、それでも、出会いたいと願う一人がいて、それなのに、出会ってしまえば臆病になって手放す始末だーーー 高校入学に合わせて東京から引っ越してきた西山くんと、クラスに馴染めない浅田さんは、お互いの優しさを頼りに親しくなる。 北海道の本当の春の中、自然と始まった二人の下校時間は、穏やかで、優しい時間だった。 でも、恋とか友情だと断定しない、曖昧な関係を続ける二人には、当たり前のように噂が流れ始めてしまう。 本当の自分が何なのかも分からない不安定さは、穏やかな青春さえも奪ってゆく。

青空

雪水
青春
青空にはどんな思い出がありますか?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

LIFE ~にじいろのうた~

左藤 友大
青春
2088年6月。第三次世界大戦が終戦してから2年経った日本の経済は回復し徐々に復興していた。人々は大きな悲しみを乗り越え生きる為、そして新しい未来を目指す為に戦争が終わった平和を噛みしめていた。 羽藤虹は、母の故郷 宮古島で祖父母と暮らしている小学五年生の少年。虹は、3年前に帰ることができない戦地へ行った兄の願望によって宮古島に来た。しかし、両親を失ったうえ最愛の兄を亡くしたショックで大好きだった音楽と歌が嫌いになる。そんなある日、近所に静岡から引っ越してきた中学生 藤目神馬と出会う─ 家族と兄の死を乗り越え、自由に生き人々に幸せを与える羽藤虹が歩んでいく人生の物語

処理中です...