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第九章「幽霊はヤンデレ気質?」

35.なついあつを乗り切るために

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 夏。熱い太陽がさんさんと照りつけ、気温が最も高くなる季節。その季節はこの世界に今年もやって来た。


 「暑い~~ふざけんな~~暑いよ~~」
 「暑い暑い言うな。こっちも暑くなるわ」
 「そうですよ、暑すぎて実践修行無くして今読書に専念しようってのに」
 「おいこらサボるな」
 「そんなこと言われましてもね……」
いつもの図書館の一言。屋敷内にいるショコラや弟子達と共に読書をしていたハルだったが、その暑さに体力もメンタルもやられる寸前になっていた。前世も夏はかなり暑かったが、恐らくここはそれ以上だろうとハルは思っていた。


 「ここにクーラーとか扇風機とかないの~~?」
 「何だ、そのクーラーとか扇風機とか言う奴は」
 「ないんですねーー知ってましたよーー」
 電気機器など全く発展していないこの世界ではクーラーや扇風機は当然無いだろうと知っていたハルは机に突っ伏して駄々をこねる。
そして、他の4人はハルを少し冷たい目で見ていた。


 「あの……ハル、そのクーラーって何だ?」
 「涼しい風を送り込む機械ですーー。夏はこれと本があれば割と快適に過ごせます……」
 「じゃあ魔法で何とかするか……」
 「お、そうしよう!」
と言い、ショコラとハルが共同で魔法を唱える。しかし、威力が強すぎたせいか図書館は一気に吹雪になった。


 「いや、これは寒い……」
 「凍りますね……確実に」
 「早く炎魔法を!」
 「手がかじかむ~!」
 「あー……暑くて疲れた……ってなんだこの吹雪は!?」
いきなり氷点下になったことに驚く住民達とショコラに押しつけられた作業を終えて図書館にやって来たルチアは驚いた。

 
 「あ、ルチアさん。暑かったので」
 「キミ達さては自分たちがどれくらい凄い魔女なのか自覚してないだろ……リリィ達凍え死ぬよ……?」
 「ちょっと強すぎたなぁ」
 「ちょっとはいらない」
ルチアはそう言うと二人が起こした魔法を消した。弟子達はほっとしたものの、ハルはルチアに文句を言った。


 「ちょっとヒドいんじゃ無いんですか!? さらに暑くしてどうするんですか!」
 「それはこっちのセリフだ。人が危うく死ぬところだというのに……」 
 「あなたに正論言われると何か腹立ちます」
 「え?」 
 「落ち着けハル。今回ばかりはルチアが正しいぞ」
 「今回ばかりは?」
褒められてるのか貶されているのか分からないルチアは困惑した顔になる。
ルチアは少し考えてからとあることを提案した。

 「ところで皆海いかない? 涼しくなるし、水着の美少女も」
 「却下します」
 「即答かい!?」
 「だって海なんて暑いし、人たくさんいるし、潮風で本はダメになるし、あと……」
 「キミ、海に恨みでもあるのかい?」
ルチアの提案に目を輝かせた4人だが、ハルは即座に否定する。ハルの前世海に殺されたぐらいの言葉にルチアはため息をつくしか無かった。


 「はぁ~……キミは何だったらいいんだ?」
 「快適に本を読みたいただそれだけよ」
 「そう言えば読書の塊だったな……」
 「あーー! 暑い! 暑い! とにかく暑いよ~~!」
 「……と言われてもね」
机に突っ伏して足をジタバタさせたハルを呆れた目で見る他の住民。しかし、急に止まりハルはこんなことを言い出した。


 「そうだ、肝試ししよう」
 「肝試し?」
 「うん。お墓とか暗そうなところ行って度胸試しするの。こういうところって何か出そうでしょ」
 「要は野生のお化け屋敷……」
 「そう言うこと。それに肝が冷えて涼しくなるじゃない!」
 「えー……」
 「怖そう……」 
ハルの唐突の案に怖じ気づく3人。しかし、ショコラとルチアは目を輝かせた。


 「なんだそれ、楽しそうだな!」
 「じゃあ、あそこの森でやろうじゃ無いか!」
 「おいおいルチア、変なこと起こすなよ」
 「大丈夫だって!」
 「なあ、オマエらも参加するよな!?」
 「え……あ……はい……」
楽しそうな師匠と上級魔女に3人は何も言えず引き攣った顔で頷くしか無かった。しかし、そんな3人をもっと恐怖のどん底に落とすことをハルが言った。


 「そう言えば、噂で聞きましたけどあの森最近、何か出るって噂なんですよね」
 「モンスターか?」
 「いえ、幽霊とかお化けとかです」
 「え!? まさか私の前の住居に住んでるわけ無いわよね……?」
 「まぁ……それまでは分かりませんけど……」
 「イヤーー! やめてーーー! 出ていってーーー!」
 「ここで叫ばれてもねぇ……」
 クロエは絶叫するが、今更引くわけにもいかず、結局参加することになった。気落ちしている弟子達をよそにハル達はウキウキで計画を進めることにしたのだ。
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