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本編

今日、嫁ぐ日に ~母と娘~ 1

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 国一番の白亜の大聖堂での結婚式となった。騎士団員の結婚式は参列者が多いので大聖堂を使うことも多いのだと聞いた。

 ただ今回は王族も多数参列するため、大聖堂以外の選択肢はなかったそうだ。しかし、互いの親戚と騎士団関係者及び警備の者が多数そろったため大聖堂でもいっぱいになってしまった。



(お天気が良くて良かったわ)



 よく晴れて雲一つない快晴だ。風も季節のわりに温かい。

 式後に聖堂から出たところでフラワーシャワーを先輩お姉さまたちが企画してくれているのだと聞いたので、晴れたことが嬉しい。

 また、子供たちがフラワーガールやトレーンガールなどしてくれるため、温かい方がいい。マティアスの娘とエリーゼの息子がトレーンガール・トレーンボーイをしてくれるため挨拶に来てくれた。

 皆に思い切り祝ってもらえるのだと思うととても嬉しくてありがたいことなのだとアマーリエは思えた。

 花嫁になるための苦労はそのための努力と思うことにした。

 ギュンターの式の時に朝から風呂に入って隅々まで磨かれて、頭から磨かれた爪の先まで香油を塗られて……という作業の何倍も時間と熱意を込めて準備をしてくれた。



(フリードリッヒさまの隣に立つためだもの)



 容姿麗しいフリードリッヒの隣に並び立つには努力が必要なのだと己に言い聞かせて耐えた。

 式の七日前から刃物と乗馬禁止を申しつけられ、何時間もかけて肌を磨かれてきた。顔と首はもちろん、指と腕にも絶対に傷を作るなと言われてきた。

 イルムヒルデの執念に押されてアマーリエも大体大人しく従ったが、アンナや先輩お姉さまたちが来てくれて女性だけのパーティーを行ったので退屈も寂しさも感じることはなかった。

 嫁ぐ日のドレスはイルムヒルデと一緒に選んだ。Aラインのトレーンが長いタイプだ。トレーンはレースをふんだんに使った繊細かつ優美な仕上がりだった。潜入捜査をしていたときもAラインかもう少しスカートをふんわりさせたプリンセスラインだったりエンパイアドレスだったりといろんなタイプを着てきたが、トレーンが長いタイプを着たのは初めてで少し重い。

 袖は季節的に寒かったらいけないと五分丈にしており、透け感のあるグローブをつけることにした。

 胸元のレースは特に繊細で、全体として精緻にして優美な出来にアマーリエはうっとりしてしまった。

 ただ、それよりも感動したのはロングベールの精緻な刺繍はイルムヒルデによるものだったからだ。娘の嫁入りに備えて十年ほど前からコツコツ刺繍した大作であり、アマーリエに対する愛情の深さが窺えてアマーリエはしんみりとしてしまった。

 朝早くから準備して何とか予定通りに準備ができてほっとして、まずイルムヒルデに姿を見てもらった。



「どう? お母さま」

「ええ、とても綺麗よ。アマーリエ、いい? お嫁に行ったら、夫婦は仲良くしなさい。あちらのお舅さまとお姑さまのいうことを聞くこと。ただし、あんまり我慢しないのよ。私は我慢しすぎて駄目になってしまったわ」

「あ、お爺さまと喧嘩して別居したのよね」

「ええ。男三人に悪戯を教え込んでも、親から言われた「お舅さまのご意向も含むように」との言葉を守ってきたけど、お前にまで悪戯を教え込まれて、お前を連れて実家に帰ろうかと思いました」



 その時の気持ちを思い出したのか、いささか嫌そうな顔をした。



「だから、喧嘩して冷却期間おきたいとか、どうしても無理と思ったら大事になる前に帰って来なさい。お前の部屋くらいすぐに用意してやります」

「ふふ……大丈夫よ。私はお父さまとお母さまみたいな夫婦になるのが夢だもの。フリードリッヒさまと頑張るわ」

「張り切りすぎないようにね」



 そういったあと少し困ったように眉根を寄せて、アマーリエを見つめて呟く。



「まだまだ教えたいことがたくさんあるわ。こんなに早くお嫁に出すつもりはなかったのよ」

「そうなの? 二十歳の年には婚約者を見つけるって言ってたから、早めに結婚させて落ち着かせたいのかと思ったわ」

「政略結婚をさせる気は私にも伯にもなかったわ。結婚は相性よ。ちゃんと誠実な男性としてほしいと思っていたのですよ。でもね、お前は騎士になりたいってそればかり夢見てたし、伯も男三人もお前の好きにさせたいとそればかり言ってたから、絶対騎士の活動ばかりで社交もせず彼氏の一人も作らなさそうだったから、そう言ったまでのこと。そうでなければ言いませんよ」

「……返す言葉もないわ……。結婚相手を見つけやすいように若手ばかりの部隊にいれたのかと思っていたわ」



 さすがに母親だけあってアマーリエをよく知っている。カルーフや兄三人の前で言ったのも叱りつけられる四人を見るのが辛くなって了承するだろうことを計算していたのだろう。了承した以上、守ろうとすることもきちんと把握したうえでの行動だったのだろう。

 母親の観察力と愛情の深さを知って、胸にじんと感動が広がる。



「別に私は上の部隊でも良かったのですよ。元々お前の希望だったし、うんと年上を好きになることがあってもいいし、きちんとした人なら結婚したいならさせてもいいと思ったし、子ども扱いされて失恋することもいい経験だと思っていました」

「そんな風に思っていてくれたのね」

「ええ、失恋も経験です。新しい恋を見つければいいだけですもの。結婚してから失恋なんて体験しないでしょう」

「お母さまも失恋したの?」

「ええ」

「え?! 初耳だわ」



 イルムヒルデが恋愛推奨派だったとは思わなかった。何となく聞いてみたことを肯定されてアマーリエは驚いた。


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