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本編
後悔 2●
しおりを挟む扉の前に見えた姿に「夢か」と思った。
夢かと思いつつもふらりと引き寄せられて、目の前の戸惑うアマーリエの姿になんとか己を律しようとしていた。
ふと香った霊香に導かれるように口付けた。
アマーリエのあまり厚くない唇は柔らかく、適度な弾力があった。
(ああ、これだ。これが欲しかった)
以前にしたキスは、ふわりと落ちてきた瞬間に溶けて消える春の雪のような淡いキスだった。
ずっとこれを欲していたのだとフリードリッヒは自覚した。
満たされた渇望に歓喜する体が欲するままにアマーリエの唇を味わった。何度も何度も口付けて、呼気ごと吸うような深い口付けをした。
途中で止めないといけないと思ったが、体がいうことを聞かなかった。
アマーリエは瞳を驚きと戸惑いに見開いてフリードリッヒを見つめていた。嫌悪するどころか、アマーリエは白い頬を薄っすらと染めて空色の瞳を次第に熱く潤ませた。
(勘違いしてしまう)
初心な娘の初心な反応にうぬぼれて自分の欲望をぶつけてしまいそうになった。
マティアスに引き離されてやっと止まれたが、アマーリエに申し訳なさを感じていた。だが同時にもっと味わいたかったという未練が綯い混ざった。
のろのろとした動作で薬を飲んだ。眼に頬を染めたアマーリエの顔が焼き付いたようだ。今も目の前にまだアマーリエがいるように感じられた。
アマーリエが再び訪ねてきて部屋に飛び込んできた。アマーリエの姿は闇夜にもはっきりと美しく見える。先ほどの口づけを思い浮かべてしまう。
「団長、私を抱いてください」
(アマーリエ……何を……)
思ってもみなかった言葉に理性が擦りきれたそうになった。消えそうな理性を手繰り寄せて諭す言葉も辛うじて言葉になった程度の弱々しいものだった。
「私はヴェッケンベルグの女です。覚悟を決めてきました」
(愛しい……抱きたい……いけない……アマーリエを……)
言い募る健気なアマーリエを愛しいと思いつつも、欲望のまま抱き潰したいという汚らわしい気持ちがせめぎあっていた。
「団長になら……いいんです」
フリードリッヒを伺うように、気遣うように上目に見つめて静かに告げた。
その言葉を重ねて否定することはできなかった。ただ「済まない」と心から詫びることしかできなかった。詫びながらもほのかな喜びが心の奥から滲んできてだんだんと心を侵食する。求めていたものに触れた喜びに罪悪感が塗りつぶされてしまう。
夫でもない男の欲望を鎮めるためにこんなところで抱かれていい女性ではない。せめて優しく抱きたいと思っていても、時に荒々しく触れてしまって忸怩たる思いに胸が痛むが、精一杯優しく触れていった。
恥じらうアマーリエも、愛撫に感じてあえかに喘ぐアマーリエも、すべてが愛しくてたまらない。
「い、痛いというより苦しいです。私の中、団長でいっぱいです」
素直な感想なのだろうが、煽られたようにも感じられた。中はとても気持ちよくて中を掻き回したくてたまらなかったが、理性が千切れそうになったのをなんとか堪えた。
「もしかして、痛いですか? ごめんなさい、団長。痛みをやわらげてあげられなくて」
少し泣きそうな困り顔で詫びられた。男は狭い中に入っても特に痛みは感じない。締め付けられても気持ちいいばかりだ。
痛みならアマーリエのほうが痛いだろうに、フリードリッヒを気遣ってくれる。
(ああ、可愛い)
こみあげる思いに頬が緩んでしまう。そっと指先で乱れた前髪を横に流してやってアマーリエを抱きしめる。
(愛してる、アマーリエ。こんな時にも私を思い遣ってくれる、可愛い君が好きだよ)
愛しく思う気持ちで胸がいっぱいだった。薔薇の雫のもたらす蝕むような嫌な熱のことも束の間忘れてしまった。
「動き出したら……やめてあげられない」
しかし、すぐに嫌な熱が体を苛むだろう。動き始めはゆっくり動けたが、段々夢中になりアマーリエを貪った。
終わったあと、体を拭いて服を着せてやって身を横たえたアマーリエの姿にもそそられてアマーリエが欲しくて堪らなくなった。アマーリエの唇や体にキスをしながらしばらく戯れるようにしてできるだけ負担をかけないようにしていた。
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