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1、5歳で全てを思い出す!

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 さて、先程の記述から、さも生まれてすぐ前世の記憶を思い出しているものと皆様方は判断されたと思う。それは半分正解で、半分間違いである。私、キャサリン・アーチボルトは確かに前世の記憶を持って生まれたが、それは物心つくまで自分で判断ができなかったのだ。朧げに遠い世界の記憶を持っており、それが前世の記憶だと理解したのは、大凡2歳くらい。眠る時に乳母がベッドでお話ししてくれた物語で言葉を覚えた私の前世の記憶は段々と鮮明になり、そこから3年の月日をかけ、5歳の誕生日を過ぎ、家庭教師から国のあらまし、国のトップの名前を聞いたときに、やっとこの世界と、原作の小説が結び付いた。
 毎日鏡で向かい合っていた、父親似の燃えるような赤毛と紅の瞳。現時点で美少女と言え、成長すれば母親似のキツい顔の美女になるだろう容姿だが、小説では悪役令嬢の幼少期など一切記述されていなかったので全く思い至れなかった、と言い訳しておこう。なんせ悪役令嬢キャサリンは小説のカバーイラスト、ピンナップに辛うじて小さく載ってはいるものの、本編のモノクロ挿絵では当然のように黒ベタで塗り潰された髪の、険しい表情をした少女なのである。視覚情報としても、幼い私の面影は殆ど無いように思える。いつかこのもちもちの眉間にいかつい皺が刻まれてしまうのだろうか。

 それはそれとして、前世を思い出してからの私は、寝る間も惜しんでノートいっぱいに原作の小説の内容を書き出した。家庭教師の前では子どもらしくノートの罫線を無視した前衛的で大きな文字を披露するが、義務教育に大学卒業までクリアしている私は人目を盗むときは細かな罫線に従ってびっしりと文字を書き込んでいる。そのほうが経済的だし、効率的だからね。
 小説のあらすじは、ごくごくありふれた、ヒロインが逆境を跳ね除け王子様と恋におちる学園もののラブストーリー。逆境というのは、ヒロインの出自が平民で、貴族の多い学院に馴染めなかったり、その学院で逆ハーレム並みに見目麗しい貴族の男子生徒に言い寄られたり、彼らの婚約者やファンたちから嫌がらせを受けたり、というもの。そして、最後の嫌がらせに加担、というか主導者的な存在が、王子様の婚約者であるキャサリン・アーチボルト、即ち私である。
 小説のキャサリンはヒロインに嫉妬し、陰口を言う、悪い噂を流す、制服を汚す、持ち物を破損する……などなど、様々な手段に打って出る。そして卒業式、全ての罪を暴かれたキャサリンはその場で婚約破棄され、断罪される。悪役令嬢の断首を待って、王子様と新たな婚約者となったヒロインはめでたく結婚するのでした。

 まあ何と言うか、こんな未来は普通に御免である。
 とにかく自分が悪役令嬢キャサリン・アーチボルトであると理解した私は、そこから未来に向けての投資を始めることにした。変に原作の内容が変わってしまい制御ができなくなると困るので、程よく悪役令嬢を全うし、断首ではなく国外追放辺りを目標にすることにした。
 この手の転生悪役令嬢ものでは、悪役令嬢がバッドエンドを回避しようと行動すると、なぜかそれが悉く裏目に出て攻略対象から溺愛される、という流れがお決まりだ。メイン攻略対象の王子をはじめ、見目麗しい男子に興味のない私は上記の溺愛コースも遠慮したいので、嫌われ者の婚約者という立ち位置は崩したくない。その辺りをしっかり研究し、行動に移すべく、御年5歳と数週間のキャサリン・アーチボルトは奮闘を開始するのであった。
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