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四章
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建物の入り口、アーチの上には盾の前で十字に組まれた二本の長剣のレリーフが掲げられており、それが冒険者ギルドの共通マークなのだとメイディ氏は言う。
メイディ氏に手を引かれるまま、スイングドアを押し開いて建物の中に足を踏み入れると、そこは質素な酒場のような雰囲気だった。
少し入ったところに簡素なテーブルと椅子のセットが三つ。左手の石壁には掲示板が取り付けられており、その前を数人の男たちが囲んでいる。右側の石壁には正に酒場のカウンターがあり、飲み物や軽食を提供しているようだ。
正面にはそれとは違ったしっかりとしたカウンターが立ち、その内側ではきっちりとした制服に身を包んだ女性が数人、書類棚の前を行ったり来たりして作業をしている。
「あっ、メイディさん、こんにちは」
カウンターのそばで作業していた女性の一人がこちらに気が付き、柔らかな笑みを浮かべて挨拶をしてきた。
「ご無沙汰しています。 お元気でしたか?」
「ええ、近年は森も落ち着いてますから」
女性に挨拶を返しながら、カウンターまで距離を詰めていく。どうやらメイディ氏はギルドの顔馴染みらしく、彼を知る職員は数人存在しているようだった。
「それで、今日はどうされました?」
女性職員───ミリー嬢はカウンターに届かない僕用に木箱の踏み台を用意しながら、メイディ氏にちらと視線を向けた。その目には職員としての業務用の口上半分、警戒半分、といったやや怪訝そうな色を滲ませている。
「嫌ですねぇ、私だって面倒ごとを起こしたくて起こしている訳じゃ無いんですから」
メイディ氏はそれを気にも留めず爽やかに笑い飛ばし、木箱のおかげでやや目線の高くなった僕の頭にそっと手を乗せた。僕が顔を上げると、こちらを見ていたミリー嬢と目が合った。
「その子は? 見たところ奴隷のようですが」
ミリー嬢の視線が僕の喉元───奴隷の証である首輪を捉える。メイディ氏はそれを受けてにっこり微笑みながら僕のマントの首周りを寛がせ、そこに下がるレリーフを中から引っ張り出した。豪奢なレリーフは見る分には重そうな装飾をしているのだが、羽のように軽く、存在自体を忘れてしまいそうになるほどである。
「先日、ロードが拾われたそうです。 はぐれ魔族だそうで」
ミリー嬢は僕に失礼、と小さく断りを入れてメイディ氏の手からレリーフを受け取り、そのレリーフをまじまじと眺めている。主人はこの街で幅を利かせていると言っていたので、この紋章の意味するところを確認しているのだろう。
「本物のようですね、隷属の証も確認できました。 坊や、ありがとうね」
ミリー嬢がたっぷりレリーフをいじってから手を離した。メイディ氏に向ける怪訝な視線とは違って柔らかで暖かな視線が僕には注がれる。そこからメイディ氏とミリー嬢がいくつか言葉を交わしていたが、僕に内容は理解できなかった。
メイディ氏に手を引かれるまま、スイングドアを押し開いて建物の中に足を踏み入れると、そこは質素な酒場のような雰囲気だった。
少し入ったところに簡素なテーブルと椅子のセットが三つ。左手の石壁には掲示板が取り付けられており、その前を数人の男たちが囲んでいる。右側の石壁には正に酒場のカウンターがあり、飲み物や軽食を提供しているようだ。
正面にはそれとは違ったしっかりとしたカウンターが立ち、その内側ではきっちりとした制服に身を包んだ女性が数人、書類棚の前を行ったり来たりして作業をしている。
「あっ、メイディさん、こんにちは」
カウンターのそばで作業していた女性の一人がこちらに気が付き、柔らかな笑みを浮かべて挨拶をしてきた。
「ご無沙汰しています。 お元気でしたか?」
「ええ、近年は森も落ち着いてますから」
女性に挨拶を返しながら、カウンターまで距離を詰めていく。どうやらメイディ氏はギルドの顔馴染みらしく、彼を知る職員は数人存在しているようだった。
「それで、今日はどうされました?」
女性職員───ミリー嬢はカウンターに届かない僕用に木箱の踏み台を用意しながら、メイディ氏にちらと視線を向けた。その目には職員としての業務用の口上半分、警戒半分、といったやや怪訝そうな色を滲ませている。
「嫌ですねぇ、私だって面倒ごとを起こしたくて起こしている訳じゃ無いんですから」
メイディ氏はそれを気にも留めず爽やかに笑い飛ばし、木箱のおかげでやや目線の高くなった僕の頭にそっと手を乗せた。僕が顔を上げると、こちらを見ていたミリー嬢と目が合った。
「その子は? 見たところ奴隷のようですが」
ミリー嬢の視線が僕の喉元───奴隷の証である首輪を捉える。メイディ氏はそれを受けてにっこり微笑みながら僕のマントの首周りを寛がせ、そこに下がるレリーフを中から引っ張り出した。豪奢なレリーフは見る分には重そうな装飾をしているのだが、羽のように軽く、存在自体を忘れてしまいそうになるほどである。
「先日、ロードが拾われたそうです。 はぐれ魔族だそうで」
ミリー嬢は僕に失礼、と小さく断りを入れてメイディ氏の手からレリーフを受け取り、そのレリーフをまじまじと眺めている。主人はこの街で幅を利かせていると言っていたので、この紋章の意味するところを確認しているのだろう。
「本物のようですね、隷属の証も確認できました。 坊や、ありがとうね」
ミリー嬢がたっぷりレリーフをいじってから手を離した。メイディ氏に向ける怪訝な視線とは違って柔らかで暖かな視線が僕には注がれる。そこからメイディ氏とミリー嬢がいくつか言葉を交わしていたが、僕に内容は理解できなかった。
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