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4話  分かりました俺が行きますよ。

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「な、なんだこれは…」




王都親衛隊の騎士フリューゲルはその光景に言葉を失った。

魔物の出現とそれに付随して行方不明者の救出の為に身を買って出たフリューゲルだったが駆けつけたときには既に魔物は始末されたあとだった。

フリューゲルは魔物の頭を鷲掴みにしのぞいた。

頭には穴が開いており綺麗に貫通していた。

この世界でこんな芸当ができる武器なんてのはそうあるわけがない。



「風の魔法。ウィンドバレットなら或いは」


ウィンドバレットは風魔法の一種。
圧縮した風を弾丸のように弾き相手に風穴を開ける魔法。

しかし


「傷痕が綺麗だ。ウィンドバレットだとすれば間違いなく傷が見るに耐えないものになる」


鷲掴みにした頭を放し、ゆっくりと立ち上がるフリューゲル。


「遺体を運べ! 研究機関にまわす。出発だ!」

馬の嘶きがこだまする。
すぐさまにフリューゲルは馬にまたがり部下たちが出発の準備が完了したことを確認すると手綱を強く持ち馬を走らす。


「これは良からぬことが起きているに違いない。それも王都が感知し得ない場所で!」

それは、嵐を予感していた。


    *


俺は彼女たちに招かれた自宅で手作りの料理を振る舞われていた。

俺は食レポなんてのをしたことがないからわからないけど、この鶏といくらかの実を炒った料理なんて香辛料がよく効いていてたまにくるピリッとした味わいが食欲をそそる。

食べたことがない、聞いたことがない名前の食材や料理だったけど食べてみればそれは現実世界でどこかで口にした感覚、味と同じだったために然程気にはならなかった。

「で、さっきの話なんだけど」
「さっき? あ、ああ魔物を倒したって話ですよね?」
「どこで倒したの?」
「え、えっとこの街から結構離れた場所です。森林で、遭遇したんです」
「ブラックフォレスト…… やっぱり」
「お姉ちゃん、もしかしてそこに」
「ねえ、あなた。これくらいの小さい女の子、見てない?」

彼女(名前は、シャルル)は手でジェスチャーをしながら聞いてきた。

「すいません、見てないですね。すれ違ったり、もしてないですし」

俺がそう答えると途端に彼女の表情は曇った。
目には聞く前のような輝きもなかった。
俺、もしかして悪いことを言ったのか?

「あ、お姉ちゃんのことは気にしないでくださいね。人を探していてなんの手掛かりもないから…」
「…… 知り合いなんですか?」
「私たちの友達だった。お母さんが病気で数週間前にブラックフォレストまで秘草を採りに出かけたきりまだ帰ってきてなくて…」
「街の人がブラックフォレストでバーサークを見かけたって聞いたからもしかしたらと思って…」
「………」

まさか、あのときすでに?
だとしたらあまりにも……。

「けど大丈夫よ! 彼女神経図太いとこあるししぶとく生き残ってある日ひょっこり帰ってくるかも」
「そ、そうだよね!」
「あの…」

俺は手をあげた。
2人を見ていてなんだか居た堪れなくなった。
それにご飯もごちそうになったし。
あと、困っている女の子を放っておけない。
いや別に誰だろうと助ける気ではいるけど。



「俺が探しに行こうか?」


「「  えっ!!? 」」



2人が顔を合わせ顔を近づけてきた。
近い。近すぎる。

「ご飯、ご馳走になったから。行きますよ。お礼として受け取ってください」
「けど、あのあたりには凶悪な魔物が彷徨いてるって話だよ。ここからは離れてるから被害は少なくて済んでいるけど。あまりに危険すぎる」
「必ず連れて帰るから大丈夫」
「話聞いてる!?危ないって言ってんの!」
「そうですよ! 危険なんです!!」
「けど、心配なんだろ?」
「そ、それはそうなんだけど」
「ここまで来るのに色々あったけど何とかなったんで大丈夫です。じゃ」

俺は立ち上がりそのままドアに向かって歩く。
2人は何か言って俺を止めようとしたんだろうがただ俺が行くのを見守ることしかできなかった。
きっと映画とかならこのあたりで感動的なBGMが流れてくるんだろうな。
ア◯マゲドンとか。
せっかくだからさっき考えていたこと試してみようかと思う。

あ、べつにカッコつけたいとか彼女たちに良い印象与えてあわよくばお付き合いしたいなんて邪(よこしま)なことは考えてないから。
けどまあ、成り行きとはいえ安請け合いしてしまった。
でも「ごちそうさまでしたー」って言って2人を放って帰るほどの無神経さ、無親切さを俺は持ってない。
俺がプロゲーマーになったのも実はスカウトに来た人が困っていた(ように見えた)からだ。

できることに自分の力が役立つなら。
どんなこともしてやりたい。

それはずっと前から変わらない信念だった。





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