帰りたくない

hiragi ryou

文字の大きさ
上 下
1 / 4

帰りたくない

しおりを挟む
中井葉瑠君の家に浅野和真は遊びに来ていた。土曜日なので当然学校は休み。
俺が葉瑠君の家に上がるのは、これで五回目になる。
初めて来た時はびっくりしたけど、もうすっかり慣れてしまった。
それにしても葉瑠君の家っていつ来ても綺麗だなぁ。
「…和真君、宿題しよっか」
「うん」
葉瑠君の部屋には小さなテーブルがある。
俺はそのテーブルに教科書とノートを広げた。
「和真君分からないことある?」
「うん、ちょっとある」
「どこ?」
「ここ」
俺は問題文を指さす。
その問題を解きながら葉瑠君の説明を聞く。
「和真君、僕の説明で分かった?」
「うん、大丈夫だと思う」
「良かった」
葉瑠君はほっとした表情を見せる。
こういう素直なところが可愛いんだよね。
そんなやりとりをしているとノックの音と共にドアが開き、女性が入ってきた。
「あら、いらっしゃい」
「あ……お邪魔してます」
葉瑠のお母さんが入ってきた。
「葉瑠、可愛い子ね」
「うん、僕の友達なんだ」
「そう。ゆっくりしていってね」
葉瑠君のお母さんは優しく微笑むと部屋を出て行った。
「葉瑠君のお母さんって美人だね」
「そう?」
葉瑠君はあまり興味がなさそうだ。
「あ、そうだ! 俺お菓子持ってきたんだ」
俺は鞄からクッキーの袋を取り出した。
「これ一緒に食べよ?」
「うん、ありがとう」
葉瑠君は嬉しそうに微笑んだ。
俺はクッキーを一枚手に取り、口に運ぶ。
うん、美味しい。
その時葉瑠君がじっとこちらを見ていることに気付いた。
どうしたんだろう? 俺は不思議に思い首を傾げる。
すると葉瑠君はハッとした様子で口を開いた。
そんなに見られたら食べづらいんだけど……。
少し間を置いてから葉瑠君が言った。
「和真君可愛いからついみてしまって、ごめんね」
「え……?」
葉瑠君が変なことを言い出した。
可愛い? 俺が……??
「そんなことないよ……。葉瑠君も可愛い所あるし」
「ううん、和真君の方が可愛い」
即答されてしまった。
そんなに真っ直ぐ言われると恥ずかしいんだけど……。
もう一口クッキーを食べると、俺は口を開く。
「あ、でも葉瑠君はかっこいいよね」
「……本当?」
葉瑠君は目を丸くしている。
「うん!」
俺が笑顔で頷くと、葉瑠君は嬉しそうに微笑んだ。
「和真君にもっと好きになって貰うにはどうしたらいいかな?」
「え?」
葉瑠君は真剣な顔をしている。
「和真君が僕を見てくれるにはどうしたらいいかな」
「それは……」
僕は口ごもる。
葉瑠君、もしかして俺のこと……。
いや、そんなはずないよね。
だって俺男だし……。
そんなことを考えていると、葉瑠君が口を開いた。
「和真君、抱きしめていい?」
「え??」
俺が戸惑っていると、葉瑠君が俺に向かって手を伸ばしてきた。
俺は慌てて後ずさる。
しかし、すぐに壁際まで追いつめられてしまった。
葉瑠君は真剣な表情でこちらを見ている。
どうしよう……。
このままじゃ……。
俺はぎゅっと目を瞑る。
すると葉の感触がして、葉瑠君が抱きしめてきたのが分かった。
「和真君……」
耳元で囁かれ、背筋がゾクッとするのを感じた。
もう逃げられない……。
そんなことを考えていると、葉瑠君が俺の耳元に顔を近づけてきた。
そして俺の耳を舐め始める。
葉瑠君の舌のざらっとした感触を感じて、全身が粟立つのを感じた。
「葉瑠君…っ」
「和真君……好き……」
葉瑠君はそう言うと、俺の耳を甘噛みし始めた。
「んっ……やめ……」
葉瑠君の息遣いが耳にかかってくすぐったい。
俺は身を捩るが、葉瑠君にしっかり抱きしめられていて動けない。
「はぁ……っ」
俺は甘い吐息を漏らす。
そんな俺の様子を見た葉瑠君は嬉しそうに微笑むと、今度は首筋に舌を這わせてきた。
「ひゃあっ!」
思わず声が出てしまう。
そんな俺を見て葉瑠君はクスッと笑った。
葉瑠君は俺のシャツの中に手を入れると、胸元を撫で始める。
「和真君、ブラしてる?」
「え……?」
「…外しても良い?」
「だ……だめ!」
俺は慌てて葉瑠君の手を掴む。
すると、葉瑠君は少し残念そうな顔をした後微笑んだ。
「じゃあ、今度見せてね」
「……っ」
そんなやりとりをしていると葉瑠君のお母さんが入ってきた。
「あら?お邪魔だったかしら?」
「あ……いえ……」
俺は慌てて首を横に振る。
そんな俺の様子を見て葉瑠君のお母さんはクスッと笑った。
すると葉瑠君のお母さんは俺に向かって言った。
「葉瑠をよろしくね」
「え……?」
俺は驚きの声を上げる。
「和真君、そろそろ帰ろっか」
葉瑠君は何事もなかったかのようにそう言うと立ち上がった。
「あ……でも。帰りたくないな」
(和真君!?泊まってくれるの?)
「じゃあ、泊まる?」
「うん!」
俺は元気よく返事した。
「じゃあ、お風呂いれてくるから待ってて」
葉瑠君はそう言って部屋を出ていった。
(葉瑠君と一緒に入るのかな?)
俺はドキドキしていた。
そんなことを考えていると、葉瑠君が戻ってきた。
そして別々でお風呂に入った後、葉瑠君の部屋で一緒に寝ることになった。 
(お風呂は別でちょっと残念だな)
ベッドに入ると、葉瑠君は俺の隣に寝転んだ。
そして俺を抱きしめてくる。
俺は少し緊張していたが、すぐに眠りについたのだった……。
翌朝目が覚めると、目の前には葉瑠君の顔があった。
(あれ……?)
あの後、そのまま寝ちゃったのか……。
俺はゆっくりと起き上がると大きく伸びをする。
すると葉瑠君も目を覚ました。
そして俺の顔を見るなり言った。
「おはよう…」
「お……おはよう」
俺はぎこちなく挨拶を返す。
葉瑠君は起き上がると大きく伸びをした。
そして俺の顔を見るなり言った。
「和真君……」
「ん?」
「……キスしていい?」
(え……?)
突然のことに頭が真っ白になった。
そんな俺の様子を察してか、葉瑠君は慌てて言った。
「あ、ごめん!今の忘れて!」
(え?でも……)
葉瑠君の目を見ると本気だということが伝わってきた。
(どうしよう……)
「えっと…」
葉瑠君は、ショートパンツに手を伸ばしてきた。
「あ、ちょっと……!」
「和真君……いいでしょ?」
葉瑠君はそう言いながら俺の体を触り始める。
「んっ……」
くすぐったいような感覚に声が出てしまった。
そんな俺を見て葉瑠は嬉しそうな表情を浮かべている。
「可愛い」
「…葉瑠君…」
(あ、お腹触られてる)
「和真君……気持ちいい?」
「そ……そんなこと聞かないで……」
(恥ずかしいよ……)
葉瑠君は、俺の首筋に舌を這わせ始めた。
「んっ……!」
「和真君……可愛い」
「……っ」
(どうしよう……このままじゃ流されちゃう、でも葉瑠君ならいいかなぁ)
「朝から敏感だね」
「ちが……!」
葉瑠君は俺の言葉を遮るように言った。
「大丈夫、これ以上はしないから」葉瑠はそう言って俺から離れた。
俺は少しホッとしたが、どこか寂しさを感じた。
そんなことを考えていると、葉瑠君は着替えを始めた。
そして服を脱いだ時、あることに気がついたようだ。
葉瑠君は顔を赤くして俯いている。
どうやら俺の視線に気付いたらしい。
(和真君……)
「ごめん、もう見ないから着替えて」
「う……うん」
葉瑠は急いで着替え始めた。
「和真君、お待たせ」
「うん」
(あれ?)
「和真君は着替えないの?」
「あ……」
(忘れてた)
俺は慌てて服を着替えると部屋を出た。そしてリビングに向かう。すると葉瑠君のお母さんが声をかけてきた。
「あら、おはよう」
「おはようございます」
「朝ご飯できてるから食べてね」
葉瑠君のお母さんはそう言って微笑んだ。
俺はお礼を言って席についた。
テーブルの上にはトーストと目玉焼きとサラダが並べられていた。
俺は早速食べ始める。
(美味しい)
葉瑠君のお母さんの作る料理はとても美味しかった。
そんなことを考えていると、葉瑠君がやって来た。
そして俺の隣の席に座る。
俺はチラッと葉瑠君の方を見る。
すると目が合った。
「食べたら一緒に学校行こうか」
そう言って葉瑠君は微笑んだ。
俺は小さく頷いた。
そして朝食を食べ終えた後、俺たちは家を出た。
(なんか……緊張するなぁ)
俺はそんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか学校に着いていた。
「あれ?生徒会長と和真君家から一緒?」
女子生徒から声をかけられた。
「うん、そうだよ」
俺は笑顔で答えた。すると彼女は羨ましそうに言った。
「いいなぁ!私も一緒に行きたい!」
「えっと……ごめん……」
俺は思わず謝ってしまう。葉瑠君に迷惑がかかると思ったからだ。
しかし彼女は気にしていない様子で言った。
「あ、気にしないで!冗談だから!」
(良かった)
ホッとしていると、葉瑠君が口を開いた。
「和真君は僕だけのものだよ?」と言ってきた。
(え?)
俺は驚いて葉瑠君の顔を見る
「え?」
女子生徒は目を見開いている。
(嘘?生徒会長と和真君ってそういそうい
う)
女子生徒は走り去っていった。
「和真君は僕の大切な人だから」
「え?」
俺はまた驚いて葉瑠君の顔を見た。
「僕だけの和真君」
(あ……)
俺は葉瑠君に抱きしめられる。
その瞬間、胸が高鳴った。
まだ校門には入れそうにない。


end
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

処理中です...