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18・新たな弓を手に入れた

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「どうかな、弓比べでもやらないかい?」

 会見が終り、さわやかにそんなことを言って来る好宗さん。特に拒否する理由も無いので僕は頷いて彼と共に射場へと向かった。

 付き従って来た近習らしき者から受け取った彼の弓は、見るからにアーチェリーの弓だった。手で持つ部分は金属だろうか、複雑な形をしていてそこから上下に本来の弓の部分が取り付けられている。

「この弓を見ても興味深く観察するなんて、これまでなかった事だよ。君の弓に比べて小さいんだから、『バカにするな』と怒って見たり、『そんな短弓で勝負になるか』と貶してみるものじゃないのかな?」

 と、にこやかに聞いてくる。分かって言ってるよね?

 アーチェリーで使うリカーブボウって、より大型の和弓と同等かそれ以上の飛距離を持つんだから、怒ったり貶したりするわけがない。形が違うだけで性能に違いはほぼ無いかあちらが勝っているはずだ。言葉にはせず首を振るだけにする。

「そうかい。分かっているんだね」

 そう言って射場に着くとすでに的は用意されており、二人で競うように射った。

 結果は、優劣着けがたいものだったけど、それは当然の事だろう。所詮は一般的な射場なので、僕が行っている狙撃と比べると近すぎるくらいだから。

 何やら満足したげな好宗さんが僕を見る。

「自分以外の転生者を見ても動じないのか、それとも、危険だと思っていないのか、どっちだい?」

 と、ド直球な事を聞いて来た。そう言われても、敵という訳では無いならそこまで警戒しなくてもよくないだろうか?
 なにより、僕は僕であって記憶の人物の事を全て知ってる訳でもない。前世は日本という国に生きたらしい記憶、そこで得た農業に関する知識。確かに有難い知識だし、否定はしない。
 では、前世の自分という人物の感情を今持っているかと問われると、無いとしか答えられない。僕は玄家の産まれであり、日本より現世の価値観を持っているのだから。

 そんな話を聞いた好宗さんはポカンとし、そして笑い出した。

「ハッハッハッ、そうか、そうだな。これは私の負けだ。私も前世の記憶や知識は確かに有しているが、では前世の自身の感情となると、今さら思い出せるモノは確かに無い」

 そう、たしかに前世の記憶はあるのだが、それは社会的なモノについてであって、家族構成や自分の細かな生活に関するモノはほぼ無い。確かに「日本に生きた」と記憶が訴えかけるが、前世の親や子がどの様な人物であり、交友関係など、感情を伴う話は非常にボヤケたものになり、意識しないと消えているモノもすでにあるだろう。

「たしかにそうだ。前世の記憶や知識が蘇った時は驚いた。が、今ではそれが天啓だったのではとすら思う事がある。前世の『自分』をあまり思い出せなくなったのだから」

 なるほど、好宗さんも似たような状態らしい。はじめの頃は前世の価値観が湧き出したりもしたが、いつの間にかそれは収まり、言われてみれば天啓とすら思えてくる。

 二人でしばらくそんな話をした後、好宗さんが尋ねてくる。

「玄家の生き残りというと、源平の合戦の様に挙兵して討ちに行ったりしようとは思わないのかい?」

 と、僕もふと頭をよぎった事を言ってくる。
 そこで、こちらに来た経緯を話したらため息をつかれた。

「それは本来ならば東境とうきょうで力を蓄える事が出来たのに、その暴走したひとりの所為で全て台無しって事じゃないのかな」

 やれやれといった感じの好宗さんだが、きっとそうだと思う。
 縁もゆかりも無いひのと家に拾われた時点で全て台無し。
 
 もし僕がナニカの縁で東国の天族と誼があったなら違うのだろうが、玄家、少なくともここ数代にそんな話は無かったはずだ。
 かと言って、天国あまのくにとの繫がりすらアイツの所為で切れているので戻った場合の安全性すら分からない。
 それに、姫さまが手放してくれそうにないし。

「こちらに居着くのなら、どうかな?私から弓を買ってみては」

 と、リカーブボウな弓を差し出してくる。

「身体強化は出来るよね?なら、今持っている弓よりも飛距離も威力もこちらが上だよ」

 自信満々にそう言って来るのでひとつ試してみようと、好宗さんに乗せられる事にした。 

 受け取った弓は思ったほど重くなく、少し驚いてしまった。

「ハハハ、そんなに重くないよ。確かにハンドルは金属製だけど、時代不相応な軽金属だからね」

 と笑いながら説明してくれたところによると、前世地球には無かった妖術と言うものが関係しているらしい。
 地球において物質と言うと、酸化とか硫化と言ったものが存在するが、ここには妖化と言うものが存在するらしい。

「魔法の様なモノが存在する世界だからもしかしてと思ってね。そうしたら、マグネシウムに酷似した鉱物が妖気と化合して扱いやすい性質になったんだよ」

 との事で、詳しい話は理解の範疇外だったし、きっとその説明のまま再現しようとしても詳しい手順や温度が分からないと無理なんだろう。
 いずれにしても、この金属は妖化マグネシウムと言う事であるらしい。妖化の扱いを間違うと燃えてしまうあたりが恐ろしい。

 ならば、これで槍とか建物作れば最強じゃね?

「金属にはそれぞれの性質がある。妖化マグネシウム、今は妖銀と呼んでいるコレは硬さはあるんだけど、硬すぎて槍の軸や建材には向かないんだよ。適材適所って奴だね。製造難易度から言っても、やはり鉄には敵わない。普通に反射炉で錬鉄辺を作る方が容易だし、大量に取得出来る」

 それはそうか。いわば、ファンタジー作品に出てくるミスリルみたいなモノ。
 そう言うと、「名前も妖銀と真銀だから、たしかに」と、好宗さんも納得である。

 そんな弓は全金属という訳ではなく、しなりが必要な部分は竹と木で鋼鉄のバネを挟んだ構造になっていて、短いがしっかり威力を持つ設計らしい。
 使う矢は従来通りの矢竹製だ。もちろん、狭い射場では意味が無いので僕が練習している城外の広場へと向かう。
 そこはゆうに100メートルの飛距離は確保出来るので、いつもの的を狙ってみる。
 弦を引くとかなり重く、身体強化無しでは難しい。身体強化をして引き絞り、的を狙って放った。

 見事に的を貫通したらしい。

「ほう、中々にウデは良いね」

 と、好宗さんに褒められたが、この弓、とんでもなく凄くないだろうか?しかし、なんでコンパウンドボウにしないんだろ?

「身体強化が使えるなら、これで十分じゃないかな?妖術を使えない一般弓兵までこの威力になったら銃の出現と変わらない事態になるよ。それに、滑車や軸受なんて精密部品の量産は流石に今の設備では難しい」

 今はこのリカーブボウの金属部品すらハンドメイドの一品物らしく、コンパウンドボウにまで手は出せないのか。いや、出さない方が良いかも知れない。
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