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13.助言とトラブル

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『ラック港の冒険者ギルドといえばここになるのね。ラクトが元いた所の2倍ほどの大きさはあるんじゃない?』

「片田舎の冒険者ギルドと商人の交流地点として大きくなったラック港のギルドを一緒にされてもな。港の漁師さんが言うにはその分ゴロツキも多いらしいぞ」

『あらあらうふふ。そのゴロツキからは魔石でも取れるのかしらね?』

「なんでお前はそう所々で物騒なんだ……。俺はそんな面倒事に巻き込まれたくないの。自然にのびのび女の子に囲まれてイチャイチャしてたい人生なの!」

 相変わらず少し好戦的なシーファが高貴な笑みを浮かべるなかで、俺たちはラック港の冒険者ギルド玄関を勢いよく開いた。

 ガヤガヤと賑わう店内。
 香ばしい魚や肉の香り、昼間から酒瓶が宙を舞っている。
 ずいぶんと気風が良さそうなギルドだが、荒れくれ者も多そうなのも頷ける。

 冒険者人数はおおよそ500人。
 俺たちが元いたギルドの2倍ほどの人数だ。
 取り扱っている受注任務としては、港に近いと言うこともあり船の護衛や海賊撃退、海獣退治が主になっていると聞く。

 俺たちの目的は『燃える泉』だ。
 ここらで泉があると言えば、少々有名な所としてはラマンルの森という箇所がある。
 そこには多種多様な動物が住み着き、ある種の自然の聖地と化している。

 ――そういえば一つだけアドバイスしてあげる。アンタ口調には気をなさい。

 ここに来る直前、ヴォルカは俺にそう告げた。

 ――冒険者稼業は舐められたら終わりよ。常に不遜で、常に自信を持って、常に相手を食ってかかる態度。それでいて礼儀と対応だけは怠らないことね。片田舎のギルドなら生ぬるい空気で良かったかもしれないけど、ここからアンタが相手取る奴等は一筋縄ではいかないの。売られた喧嘩も正当なものならきっちり買う。それが真に冒険者として生きるっていう『覚悟』よ。

 彼女は俺のことを案じてくれていたのだろう。
 何せ俺は元いた所では奴隷のようにこき使われ、捨てられた情けない冒険者だったからだ。

 とは言ってきたものの、来てそうそうそんなおかしいトラブルに巻き込まれるとも考えられないが――。

 ともかく!
 常に不遜で、常に自信を持って、常に相手に食ってかかる態度!
 それでいて礼儀と対応を怠らない!

 心の中で何度も反芻する俺。

 冒険者ギルドの受付嬢は慣れた手つきで俺に書類を差し出した。

「初めまして、ラック港冒険者ギルド担当のシャーロットです。お名前とご職業をお連れ様のものとご一緒にお願いします」

「俺はラクトロード・アヴローラ。職業は精霊術師だ。こっちはウチの契約精霊だ」

『シーファ・アイオロスよ。職業なんてものはないけれど、強いて言うなら「精霊」ってトコかしら?』

 瞬間、辺りはシンと静まった。皆の注目が一斉に集まる。

『あらあら。そんなに見つめられたら恥ずかしいじゃない』

 シーファはまんざらでもなさそうだが、俺にはもうそれどころの話ではなかった。
 舐められないように、舐められないように――!

 受付嬢のシャーロットさんが持っているペンを落とした。
 何故か動揺を隠せないまま苦笑いを浮かべている。

「しょ、承知……しました。え、ええと、当ギルド会員でなければ当ギルドの受注任務を受けるだけの実力があるかどうかの簡易的な試験を行わせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「いや、問題ない。知り合いからこれを預かってるんだ」

 俺はなるべく平常心を保ちながら・・・・・・・・・懐からカードを取り出した。
 アーヴィング商会の白金カードだ。
 これがあればアーヴィング商会の関連するギルドの受注任務が受けられるようになる。

「……っ!? ……あ、え、えぇ……!? あ、アーヴィング商会の白金認定証……!? ぎ、ギルマス……! ギルドマスター呼んできて!!」

 シャーロットさんが側の者に慌てて伝える。
 ギルド内は騒然となった。
 ? なんだ、そんなに騒ぐことか?


『あらあら、ラクトも案外可愛いところがあるのね』

 悠長に構えるシーファの後ろには大男が立っていた。

「おいクソガキテメェ、アーヴィング商会の名を騙るとは良い神経してんじゃネェか。精霊? 精霊術師? 寝言は寝て言え。知らないのかよ、精霊術師は、《ハズレ職》だろォ?」

 あれ? 何か、思ってたのと、違う……!?
 だがここで舐められてしまったらおしまいだ……ッ!



 後になって考えてみればこの時の俺は、頭が少々パンクしていた。
 見慣れぬ土地に見慣れぬ対応。そして都市部のギルドと新たな精霊との出会い。
 今までとは全く違う力を持ってしまったが故に、今度こそ使い潰されないようにしようという思いがあまりにも強すぎたんだ。

「表ぇ出るんだな。ここのAランク冒険者ゴルドー様が手合わせしてやる。どっから奪ってきたか分かんねぇが、覚悟するんだな」

 威圧感満載で来た大男に、気付けば俺は真正面から啖呵を切っていた。

「見下ろさせてやるよ。俺はさっさと次に進まなきゃいけないんでな」

 側で見ていたシーファが、傍目で言った。

『この子、もしかして相当頭悪いのかしら……。本当にこの子を選んで間違いじゃなかったわよね、私……?』

 そんなシーファの声は、その時の俺には届くはずも無かった。
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