上 下
1 / 13

1.精霊契約

しおりを挟む
「死ぬまでに一回くらい、女のおっぱい揉んでみたかった人生だったなぁ」

 所属させてもらっていたパーティーにも見捨てられ、俺――ラクトロード・アヴローラは今ダンジョンの奥底で死を迎えようとしている。
 ダンジョンの天井を見上げるようにして倒れる俺の周りにはCランク魔獣筋肉狼マッスルウルフの群れ。
 魔法は元からほとんど使えないし、剣も折れた。
 戦う力も残ってない。俺に待つのは魔獣の餌になる運命だけだ。

 どうしてこんなことになったんだ――。

 田舎を出る時、心配そうだった父ちゃんと母ちゃん、元気かなぁ……。

『身体にゃじゅうぶん気ぃつけぇな~! いつでも帰ってきてええけんな~!! 精霊ちゃんと、仲良くするんで! 綺麗な嫁さんもらって帰ってきんさいね!』
『男なら、一発でけぇ夢叶えてくんだぞ! ワシん息子じゃ、信じとるけぇの!!』

『見とってな父ちゃん、母ちゃん! 俺、ここまで名前届けるけぇ!!!!』

 そんな啖呵と剣一本、そして《精霊術師》という珍しい職業適性を手に俺は田舎を出てきた。
 
 都会に出て有名になって、たくさんの女の子たちとウハウハ生活を送ることを夢に見てたあの頃の俺に教えてやりたいもんだ。
 現実はこんなにも無情なんだってことを。

 ――《精霊術師》なんて、クソの役にも立たなかったってことを。

「ガルルルルル……ッ。グルルルルル……ウォゥッ! オヴッ」

「ガルルルルルッ!! ァオオォォォォォンッッ!!」

 筋肉狼マッスルウルフは今にも俺に飛びかかってきそうな勢いだ。
 こうなりゃイタチの最後っ屁だ……。
 俺は手を翳し、空に向かって告げる。
 いくつかの書物には、まゆつばの・・・・・精霊と契約するためにはこうするといいって書いてあったんだ。

「《精霊契約》――この際何でもいい。何でもいいから契約しようぜ。っははは」

 もうヤケクソだ。
 人生で一回だけでも、精霊術師として生きた証が欲しかった。
 手の平がぽわっと光る。ここまで出ただけでも初めてだった。
 だけど、それだけだった。

 でも、なーんにも起こらない。

 人は15歳になれば、教会で神からの訓示を受ける。
 《剣士》、《魔法術師》、《賢者》に《聖女》に《魔剣士》に。
 様々な訓示があるなかで、俺はというと《精霊術師》というものを受け取った。

 過去にも例はないどころか、精霊って何だったのかさえ分からず終いだった。
 お伽噺に出てくるような、ポッと光るだけの鬼火ウィルオ・ウィスプでも、そよ風吹かす小さな風精霊シルフでも何でも良かったんだけどな。

 ただでさえない魔法力を使ったせいで、一気に身体から力が抜けた。
 視界が暗くなっていく。
 
 ダンッ!!

『ガルルルルァァァァァァァッッ!!』

 筋肉狼マッスルウルフは一斉に地を蹴った。

「わり、母さん、父さん。綺麗な嫁さんも、男の夢も……無理だったわ……」

 全てを諦めて手を下ろしかけた――その時だった。

『あらあら。精霊術師なんて何千年ぶりかしら。ここまで連れてきてくれてありがとう、あなた達もこの子のことが心配だったのね』

 視界に映り込んだ、翡翠色のポニーテール。

 そしてその周りをふわふわと飛び回る、羽の生えた小人たち。
 風に乗ってふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐった。

 こんな深いダンジョンに、誰だ……?

風の下位精霊シルフ。あなた達は一帯に風の膜を張って。さて、この好機。見過ごすわけにはいかないわ。聞こえる? 聞こえてるなら目配せで良いわ。返事をちょうだい』

 ぽよよんと、俺の前にたわわなおっぱいが露わになった。
 露出の多い緑系の服を着た美女が、俺の前をふわふわと浮いている。

「これは……夢?」

 最後の最後で好みドストライクのお姉様系美女に会えた。
 もう思い残すことはない。夢なら一生醒めてくれるなよな……。

 美女は念入りに俺の顔を覗き込みながら、頷いた。

『まだ行けるわ。魔法力もほとんど使われていない。いえ……押さえ込まれてるのかしら? 人類も小賢しいことを考えるものね。あえて私たちと契約出来ないように仕組むなんて』

 美女の細く白い指が、俺の鼻にツンと触れた――気がした。
 感覚が無いのだ。

 やっぱり、夢なんだろうな。

 美女は続ける。

『あなたはまだ生きていたい?』

 変なことを聞くな。
 そうだなぁ……。

 俺の視線は美女の胸に行っていた。
 俺の人生、酷いもんだった。女っ気もなければ、いくら努力しても何一つ役立てることは無かった。
 でも――。

 目の前の美女が目覚めてもそこにいてくれるのだとしたら、今まで見てきたなかで一番綺麗なこのおっぱいを存分に揉めるなら、まだ生きてたいかもなぁ。

『ふふっ。変なことを考える子もいたものね。いいわ。いくらでも好きなようにさせてあげる』

 ――今、何と……ッ!?

『胸を揉ませてあげるくらいで精霊術師が手に入るのなら安いものよ。風の精霊シルフたちもこのままじゃ結界を保てないわ。あなた、名前は?』

「ら、ラクトロード……アヴローラ……」

『良い名前ね。ラクト。剣を持って、私に続いて』

 動けぬ身体に鞭を打って、俺は折れた剣を握りしめた。

 っははっ……。夢ならどうか、醒めてくれるなよ……ッ!!

『我、ラクトロード・アヴローラは《暴風の超常精霊》シーファ・アイオロスとの精霊契約を締結する。《暴風》の魔法力・開放。そして行使の許可を認証せよ』

 美女――シーファが唱える呪文をそのまま俺は反芻した。
 手を掲げると、手の平が光る。
 ダンジョンを全て覆い尽くすような淡い翡翠色が場を支配した。
 
 シーファの髪色と全く同じ色だった。

 見惚れていると、シーファの手が俺の手に触れる。
 細くて、白くて、ほんのり温かい。
 それでいて、ひんやりとした『力』が一気に流れ込んできた。

 ドクン。

 身体へと一気に脈打つ鼓動。
 シーファは倒れた俺に言い放つ。

『私と――《暴風の超常精霊》と契約したんだから、生半可な力だったら許さないんだから』

 身体に力が漲ってくる。
 折れた剣の先から、魔法力の塊で出来た刀身が勝手に出来上がっていく。

 今まで人生で一度たりとも使えたことが無かった、魔法ってやつだ。
 
『行きなさい、ラクト』

 ダンジョンの奥底で死にかけた。
 美女が来た。
 よく分かんない契約と共に力が漲ってきた。
 目の前にはやっぱり美女がいた。

「……よく分かんねぇけど……ッ!」

 あぁ、本当に何が起こってるのか一つたりとも分かんねぇ。

「これが夢じゃないなら、絶対絶対醒めてくれるなよッ!!!」

 これは女のおっぱいが揉みたかっただけの無能精霊術師だった俺が、驚くほどたくさんのおっぱいと触れあっていくような夢物語の始まりだったんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八
ファンタジー
 主人公のレンは、冒険者ギルドの中で最高ランクであるSランクパーティのメンバーであった。しかしある日突然、パーティリーダーであるギリュウという男に「いきなりで悪いが、レンにはこのパーティから抜けてもらう」と告げられ、パーティを脱退させられてしまう。怒りを覚えたレンはそのギルドを脱退し、別のギルドでまた1から冒険者稼業を始める。そしてそこで最強の《勇者》というスキルが開花し、ギリュウ達を見返すため、己を鍛えるため、レンの冒険譚が始まるのであった。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...