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時空龍グラントヘルム!①
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「んんんんんっ! んま~~いの~ぅっ! グスマンも、一つくらいはくれてやるぞ?」
「……間に合っています」
「そうかそうか、連れない奴め……。うん、んまい!」
ひょいぱく、ひょいぱくと次々に水龍の唐揚げを口に放り込んでいくドレッド王の後ろで、嘆息するのはグスマンだ。
屈強な身体を包んでいた鉄鎧を外してラフな格好となったグスマンは眉間に皺を寄せてため息をついた。
玉座を挟んだこちら側には治療を終えて戻ったルーナ。ルーナの手は先ほどよりかは皺の数が少ないように見える。
エルドキア曰く、このまま何度か治療をしていけば今回は完治するとのこと。ありがたい話だ。
そしてエルドキアが仁王立ちに、その横でアマリアさんは激しくグスマンに眼を飛ばしている。
そういえば……言っちゃなんだが、アマリアさん、全く活躍しなかったな……。
終始、おびえてたし……まぁ……いっか……。
「……して、奇術使いよ――いや、タツヤと呼んだ方が良いかのぅ」
ドレッド王は玉座から立ち上がり、その階段を一段一段丁寧に踏んで降りてくる。
「先ほどの非礼を詫びさせてくれ。主を冴えない男と罵ったこの余を、許して欲しい」
ぺこり、小さくお辞儀をしたドレッド王。
ふと隣を見てみると、ルーナが「ふんっ」と鼻息荒く笑みを浮かべる。
その尻尾と耳は嬉しさからきたものなのか、ふるふると元気がいいように思えた。
「べ、別に大丈夫ですよ……。こうして認められただけで、俺は満足ですから!」
頭を下げるドレッド王にどう声をかけていいかは分からなかった。
玉座の後ろでは俺を見下ろすようにグスマンが目線を投げかけている。
「して、タツヤよ。そういえばお主の願いを聞き届けていなかったの。何でも申すと良い。可能な限り叶えようぞ」
そういえば、ルーナは願いというか、対価を要求していたけど俺は驚きすぎてて何も言えなかったんだっけな。
そうか……ドレッド王がせっかくそう言ってくれているのならば――。
「じゃあ、一つ」
顔を上げたドレッド王に、俺は告げる。
「あのグスマンって男が、俺を殺したがっている理由を教えてくださいませんか?」
「――っ!」
瞬間、グスマンの表情が強張った。
決して教えてなどやるものか、そんな表情で。
「うむ、良いぞ。グスマンはお主を『異世界転移者』だと踏んで殺したがっておるのじゃ」
瞬間、グスマンの表情が絶望に変わった。
何でそう簡単に口を割るんですがドレッド王よ、そんな表情で。
「あー……ッホン、ドレッド様。こちらからお話し致します」
観念したかのようにグスマンは蓄えた顎髭を掻き毟った。
「王とエルドキア様はそれぞれの部屋へお戻りください。その獣人と奇術使いはアマリアと共にこちらへ」
グスマンが居住まいを正して俺たちを迎え入れる。
アマリアさんも呼んだのは俺たちが警戒しすぎないことを懸念してだろうか。
アマリアさんを見ると、彼女もこくりと小さく頷いた。
▼ ▼ ▼
グスマンは俺たちを地下へと誘う階段へと案内する。
普段ならば意味の分からないことに疑心暗鬼を示しそうなものだが、アマリアさんは階段を先導しつつ告げる。
「この場所はクセル王国の建国時――ひいては、現グレイス王朝が立ち上がるきっかけとなった1000年前に、初代グレイス王によって作られた一室となっています」
焦げ茶色に古びた扉の前に立ったアマリアさんと、グスマン。
ルーナは暗くて狭い場所が苦手なようで、俺の右腕袖をぎゅっと握りしめていた。
アマリアさんが懐から部屋の鍵を取り出すと同時に、グスマンは呟く。
「約1000年前――クセル国内の前身であったレスタル国の時代に起きた来襲を、人は『時の悪魔』と呼称した」
嘆息するようなグスマンの物言いに、ルーナがぽつりと「グラントヘルム……ですか」と言葉を返す。
「そう、それこそがかの時空龍グラントヘルム。旧エイルズウェルトを火の海にした悪魔だ」
アマリアさんの誘導により部屋に入る。
そこは古びた資料に包まれた一室だった。埃と蜘蛛の巣が張り、淀んだ空気の中をかきわけて歩いて行く。
数々の書籍、紙切れの山の中から小さな木造テーブルの前にやってきた俺たち。
眼前には、すすきれて腐食した一冊の本がある。
その額縁に大切に入れられた紙に描かれている数シーンの絵を見て、グスマンは言う。
「これは1000年前のグラントヘルム来襲時に先人が描き残したとされるもの。当時、時の悪魔から逃げ切ったであろう者が描いた数少ないグラントヘルムの資料だ」
その言葉を受け取り、俺とルーナが長い一枚絵を覗き込む。
アマリアさんはその絵を見ながら身体を震わせて、呟く。
「その絵の通り、でしたね」
空がガラスのように割れ、そこから出てくる巨大な1頭の龍。胸の中央には淡く光り輝く正方形の結晶――これが恐らく、大円森林ヴァステラの族長が言っていた時龍核と呼ばれるものだろう。
逃げ惑う人々。炎の海に包まれる街。グラントヘルムが通った跡には草木が異常増殖している。
そんな中で街の中心部から放たれる数々の魔法攻撃。
これはきっと、アマリアさんが俺たちの目の前で放ったものに類似するものだろうか。
その魔法攻撃に一切臆することなく進んでいく龍だが……。
「次の所では、片翼が……ありませんね」
ルーナが片翼を無くしたその龍を指さすと、グスマンは頷いた。
「そこでかつての魔法戦士が片翼を斬り落としたらしい。手負いの龍が怯んだ隙に――」
その次の所では……一人の男が、グラントヘルムと対峙。そこで長い長い一枚絵は終わりを告げていた。
絵巻物を思い起こさせる一枚絵の最後の何かの文字を見て、ルーナは小さく呟いた。
「『時の悪魔と交渉し、彼の地を救った異世界転移者の伝説』……ですか……」
俺には読めない文字でそう書かれていたものを見て、グスマンは腕を組んだ。
「この『異世界転移者』がグラントヘルムを呼び起こし、そしてグラントヘルムの撃退の要因になったことは確かだ。この王宮内部に『異世界転移者』の訪問があった記述も少ないながらに散見された。そしてその『異世界転移者』は、この国に大きな恩恵を与えたんだ。代表的なものの一つとしては、これだな」
そう言ってグスマンが懐から取り出したのは、丁寧な丸を呈した――硬貨だった。
「1000年前の当時、物々交換だった取引に貨幣の概念を与えたのはその『異世界転移者』とも言われている。中心に穴が空いた小さな黄銅が5リル、青銅で作られた10リル、中心に穴が空いた白銅が50リル、大きめの白銅に100リル。これを基本仕様として派生させていったものが、現世の貨幣制度。当時の異世界転移者が残していったものが、これだ」
グスマンが部屋の中をがさごそと漁っていく。
漁った先に、ジャラリ、聞き慣れた音がした。
「近頃では魔法鋳造士によってこれを模倣したものを作れてはいるが、未だに田舎には浸透していない。このような精巧な鋳造技術を持った民族がいるなど――」
俺の頭の中で、初めて北方都市ルクシアでルーナに聞いたことが、ありありと思い浮かぶ。
――この世界の通貨です……! そ、その……これ一枚が百リルなんですよ。五百リルがあればこの市場をそれなりに散策できると思います。
――日本の鋳造技術には程遠いが……日本円と概念自体は似てるな。
そうだ、あのとき……。
――通貨体系的にも、ふと見回してみると小さな野菜が七十リルだったり、日本の価格価値に似たものを感じる。
あのときは、通過体系が似ているだけだ、そう流していた。
だが、それは偶然ではなかった。通過体系が同じなのは、俺と同じ感覚を持っていたからに他ならない。
1000年前に、ここに来たんだ。
俺と同じ、異世界転移者が。
俺と同じ――日本人が。
「――とてもではないが、信じがたいことではあるが……な」
そう言ってグスマンが提示したのは――俺が……嘉一達也《・・・・》が見慣れた、日本の硬貨等だった。
「……間に合っています」
「そうかそうか、連れない奴め……。うん、んまい!」
ひょいぱく、ひょいぱくと次々に水龍の唐揚げを口に放り込んでいくドレッド王の後ろで、嘆息するのはグスマンだ。
屈強な身体を包んでいた鉄鎧を外してラフな格好となったグスマンは眉間に皺を寄せてため息をついた。
玉座を挟んだこちら側には治療を終えて戻ったルーナ。ルーナの手は先ほどよりかは皺の数が少ないように見える。
エルドキア曰く、このまま何度か治療をしていけば今回は完治するとのこと。ありがたい話だ。
そしてエルドキアが仁王立ちに、その横でアマリアさんは激しくグスマンに眼を飛ばしている。
そういえば……言っちゃなんだが、アマリアさん、全く活躍しなかったな……。
終始、おびえてたし……まぁ……いっか……。
「……して、奇術使いよ――いや、タツヤと呼んだ方が良いかのぅ」
ドレッド王は玉座から立ち上がり、その階段を一段一段丁寧に踏んで降りてくる。
「先ほどの非礼を詫びさせてくれ。主を冴えない男と罵ったこの余を、許して欲しい」
ぺこり、小さくお辞儀をしたドレッド王。
ふと隣を見てみると、ルーナが「ふんっ」と鼻息荒く笑みを浮かべる。
その尻尾と耳は嬉しさからきたものなのか、ふるふると元気がいいように思えた。
「べ、別に大丈夫ですよ……。こうして認められただけで、俺は満足ですから!」
頭を下げるドレッド王にどう声をかけていいかは分からなかった。
玉座の後ろでは俺を見下ろすようにグスマンが目線を投げかけている。
「して、タツヤよ。そういえばお主の願いを聞き届けていなかったの。何でも申すと良い。可能な限り叶えようぞ」
そういえば、ルーナは願いというか、対価を要求していたけど俺は驚きすぎてて何も言えなかったんだっけな。
そうか……ドレッド王がせっかくそう言ってくれているのならば――。
「じゃあ、一つ」
顔を上げたドレッド王に、俺は告げる。
「あのグスマンって男が、俺を殺したがっている理由を教えてくださいませんか?」
「――っ!」
瞬間、グスマンの表情が強張った。
決して教えてなどやるものか、そんな表情で。
「うむ、良いぞ。グスマンはお主を『異世界転移者』だと踏んで殺したがっておるのじゃ」
瞬間、グスマンの表情が絶望に変わった。
何でそう簡単に口を割るんですがドレッド王よ、そんな表情で。
「あー……ッホン、ドレッド様。こちらからお話し致します」
観念したかのようにグスマンは蓄えた顎髭を掻き毟った。
「王とエルドキア様はそれぞれの部屋へお戻りください。その獣人と奇術使いはアマリアと共にこちらへ」
グスマンが居住まいを正して俺たちを迎え入れる。
アマリアさんも呼んだのは俺たちが警戒しすぎないことを懸念してだろうか。
アマリアさんを見ると、彼女もこくりと小さく頷いた。
▼ ▼ ▼
グスマンは俺たちを地下へと誘う階段へと案内する。
普段ならば意味の分からないことに疑心暗鬼を示しそうなものだが、アマリアさんは階段を先導しつつ告げる。
「この場所はクセル王国の建国時――ひいては、現グレイス王朝が立ち上がるきっかけとなった1000年前に、初代グレイス王によって作られた一室となっています」
焦げ茶色に古びた扉の前に立ったアマリアさんと、グスマン。
ルーナは暗くて狭い場所が苦手なようで、俺の右腕袖をぎゅっと握りしめていた。
アマリアさんが懐から部屋の鍵を取り出すと同時に、グスマンは呟く。
「約1000年前――クセル国内の前身であったレスタル国の時代に起きた来襲を、人は『時の悪魔』と呼称した」
嘆息するようなグスマンの物言いに、ルーナがぽつりと「グラントヘルム……ですか」と言葉を返す。
「そう、それこそがかの時空龍グラントヘルム。旧エイルズウェルトを火の海にした悪魔だ」
アマリアさんの誘導により部屋に入る。
そこは古びた資料に包まれた一室だった。埃と蜘蛛の巣が張り、淀んだ空気の中をかきわけて歩いて行く。
数々の書籍、紙切れの山の中から小さな木造テーブルの前にやってきた俺たち。
眼前には、すすきれて腐食した一冊の本がある。
その額縁に大切に入れられた紙に描かれている数シーンの絵を見て、グスマンは言う。
「これは1000年前のグラントヘルム来襲時に先人が描き残したとされるもの。当時、時の悪魔から逃げ切ったであろう者が描いた数少ないグラントヘルムの資料だ」
その言葉を受け取り、俺とルーナが長い一枚絵を覗き込む。
アマリアさんはその絵を見ながら身体を震わせて、呟く。
「その絵の通り、でしたね」
空がガラスのように割れ、そこから出てくる巨大な1頭の龍。胸の中央には淡く光り輝く正方形の結晶――これが恐らく、大円森林ヴァステラの族長が言っていた時龍核と呼ばれるものだろう。
逃げ惑う人々。炎の海に包まれる街。グラントヘルムが通った跡には草木が異常増殖している。
そんな中で街の中心部から放たれる数々の魔法攻撃。
これはきっと、アマリアさんが俺たちの目の前で放ったものに類似するものだろうか。
その魔法攻撃に一切臆することなく進んでいく龍だが……。
「次の所では、片翼が……ありませんね」
ルーナが片翼を無くしたその龍を指さすと、グスマンは頷いた。
「そこでかつての魔法戦士が片翼を斬り落としたらしい。手負いの龍が怯んだ隙に――」
その次の所では……一人の男が、グラントヘルムと対峙。そこで長い長い一枚絵は終わりを告げていた。
絵巻物を思い起こさせる一枚絵の最後の何かの文字を見て、ルーナは小さく呟いた。
「『時の悪魔と交渉し、彼の地を救った異世界転移者の伝説』……ですか……」
俺には読めない文字でそう書かれていたものを見て、グスマンは腕を組んだ。
「この『異世界転移者』がグラントヘルムを呼び起こし、そしてグラントヘルムの撃退の要因になったことは確かだ。この王宮内部に『異世界転移者』の訪問があった記述も少ないながらに散見された。そしてその『異世界転移者』は、この国に大きな恩恵を与えたんだ。代表的なものの一つとしては、これだな」
そう言ってグスマンが懐から取り出したのは、丁寧な丸を呈した――硬貨だった。
「1000年前の当時、物々交換だった取引に貨幣の概念を与えたのはその『異世界転移者』とも言われている。中心に穴が空いた小さな黄銅が5リル、青銅で作られた10リル、中心に穴が空いた白銅が50リル、大きめの白銅に100リル。これを基本仕様として派生させていったものが、現世の貨幣制度。当時の異世界転移者が残していったものが、これだ」
グスマンが部屋の中をがさごそと漁っていく。
漁った先に、ジャラリ、聞き慣れた音がした。
「近頃では魔法鋳造士によってこれを模倣したものを作れてはいるが、未だに田舎には浸透していない。このような精巧な鋳造技術を持った民族がいるなど――」
俺の頭の中で、初めて北方都市ルクシアでルーナに聞いたことが、ありありと思い浮かぶ。
――この世界の通貨です……! そ、その……これ一枚が百リルなんですよ。五百リルがあればこの市場をそれなりに散策できると思います。
――日本の鋳造技術には程遠いが……日本円と概念自体は似てるな。
そうだ、あのとき……。
――通貨体系的にも、ふと見回してみると小さな野菜が七十リルだったり、日本の価格価値に似たものを感じる。
あのときは、通過体系が似ているだけだ、そう流していた。
だが、それは偶然ではなかった。通過体系が同じなのは、俺と同じ感覚を持っていたからに他ならない。
1000年前に、ここに来たんだ。
俺と同じ、異世界転移者が。
俺と同じ――日本人が。
「――とてもではないが、信じがたいことではあるが……な」
そう言ってグスマンが提示したのは――俺が……嘉一達也《・・・・》が見慣れた、日本の硬貨等だった。
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