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照り焼きアリゾール!②

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 俺の手元にやってきたのは日本から転移してきたキッチン一式。
 炊飯器は今は使わないからと、グレインさんの奥さん、リーシアさんに預けている。
 それにしても、キッチン一式を手で持ってこっちまで傷一つつけずに持ってくるとは、さすがはルーナだ。
 あとで照り焼きアリゾールの試食でも手伝ってもらおうか。

「これくらいでいいだろうか? 今店にある分の肉はすべて持ってきてみたが……」

 グレインさんが抱えるのは、これまた大きなブロック肉。
 曰く、アリゾール龍のモモの部位だという。
 300グラムほどのブロック肉が6個。
 元々はその3倍ほどは持ってきていたらしいが、そのうちの12個は他の運龍に食べさせるために龍舎の獣人族の門番に手渡していた。
 従って、俺たちの手元に残っているのはメイちゃんとルイちゃんが食べる用の6つ……というわけだ。
 ……あと、横で鼻息荒くこちらを見つけるルーナの分も換算にいれとかなきゃな……。
 こちらに持ってくる際、スピードと正確性をとにかく重視したのか、軽度の肉体増幅魔法を使用したらしい。
 あれほど使うなと言ったのに……。とにもかくにも燃費が悪すぎるぞ獣人族。
 ぐぎゅるるると小さくおなかを鳴らすルーナも可愛いけどな。
 こう、小動物みたいだ。俺が与えたビスケットをハムスターのように両手で抱えてさくさくと口に入れている。
 だが、こちらも早めに何らかの対策を講じておかねばならないな。
 異世界には一粒食べればどんな怪我も治療し、10日は何も食べなくていい仙○のような豆はないものか……。後で、グレインさんに聞いてみるとしよう。

『グアー?』

 ふと、自分たちの目の前で何かが行われると察知したルイちゃんとメイちゃんは、眠そうな、疲れていそうなそんな表情でも重たそうな首を持ち上げてキッチンの周囲をくんかくんかと嗅いでいる。
 ちなみに、ここで調理をしてみるという旨の話はルーナが獣人族の門番に告げていてくれたらしい。
 出来たマネージャーだ。

 俺はグレインさんから預かったブロック肉を1つ手に取った。
 容量は、照り焼きチキンを作る感じでいいのだ。それが2頭(?)の口に合えばいいんだがな。

 俺は、まな板の上にブロック肉を開いておいた。いつも日本にいたときにやっていたときは、まず……。

「タツヤ様、わ、私にお手伝い出来ることはありますか?」

「俺も好きに使ってくれていい。メイやルイのためならば何でもしよう」

 ルーナとグレインさんは口をそろえて言う。
 そうだな、なら――。
 俺は、引き出しの中からフォークを三つとりだした。

「グレインさん、ルーナさん。二人はこの肉にフォークを突き立てて小さな穴を作り出してください」

 俺の言葉に、グレインさんは「ほう」と頷いた。

「これによって、肉に味を染みこませるようにするんです。簡単な作業ですが、まんべんなくお願いしますね」

 2人にフォークを渡し、俺は自分の担当する肉にフォークをざっくざっくと突き立てた。
 地味な作業だが、これをするとしないとでは食ったときの肉の味が大きく変わるんだよな。俺も何度か照り焼きチキンを作っていたときに面倒くさくてこの工程をやらないことがあったが、やらないとなんか、物足りなく感じてしまう。
 結局、美味いものを食うならそれに向ける過程はおろそかにしないってのが大事だ。

「タツヤ様。この肉に軽度の穴を開ければいいんですよね」

「……あぁ、そうだ」

「なら、もっと簡単な方法があるのですが、いかがでしょう」

「簡単なやり方……?」

 俺の疑問と共に、「お任せを!」とそう言って、ルーナは手を流しでぴちゃぴちゃと洗い出した。
 さっき俺がやるのを見てるときに蛇口をひねる操作を覚えたのか。飲み込みが早いな。

 手をふるふると振って、水気を切った――後に、「ふぅ」とまるで精神を統一させるかのように目をつぶった。
 特に何も言わずに、俺は肉にフォークを突き立てながらルーナを見守ってみる。
 一体何をする気だ……?

 直後、ルーナは自分の担当する肉を右手で自身の直上に放り投げた。

「人間族は道具を使うのが上手いとは聞きますが、獣人族は身体を使うのが上手いんですよ」

 そんなどや顔と共に、ルーナは宙に浮かせた肉を狙って平手を突き出した。
 よく見てみると、彼女の手の先はぴんととがっている。
 にょきにょきと爪が伸び始めているそれは、目測でおおよそ10cmほどだ。

「肉体部位増幅魔法――タイプクロウ!」

 直後、ルーナの手先から繰り出されるのは見えない突き。
 超高速の突き技が的確に肉に突き刺さっていく。
 ルーナは、落ちてきた肉を今度は反対向きにして再び高速の拳を何度も突き出して、その鋭利な爪を肉に刺していった。

「出来ました、タツヤ様」

 見てみると、肉の表面には適切な間隔で開けられた小さな穴がある。
 まさに、俺がフォークで数分かけて行おうとしていたことをルーナは一瞬でやってのけてしまったのだ。
 マジかよ……!」と目を剥いているとルーナは申し訳なさそうに呟く。

「えぇと……や、やはり、まずかったでしょうか……?」

 おずおずと、俺の顔色を伺うように顔をのぞき込むルーナに、反射的に苦笑いを浮かべてしまう。
 だが、これなら――。

「いいやナイスアイディアだ、ルーナ。残りも全部やっちまってくれ」

 俺の言葉に、ルーナは活気を取り戻したかのように「了解しましたっ!」と目を光らせる。
 なるほど、ルーナが出来ないことが俺には出来て、そして俺に出来ないことをルーナに補ってもらう。
 案外、俺たちはいいコンビなのかもしれないな。

 ルーナが次の肉を空中に掲げると同時に、俺は引き出しの中からタレを作るための調味料を取り出していく。
 今回使う調味料は大きく4つ。
 醤油、みりん、砂糖のタレ三銃士と料理酒。
 ただ、前回大いに使いに使ったがためにその四種類の調味料の量もそろそろ限界が近づいている。
 だが、これだけの肉を調理する分にはまだ大丈夫だ。
 ルーナによって適度に穴が開いた肉に塩胡椒を振りかけた後に、グレインさんの用意してくれた熱した大きなフライパンに油を敷いた。そして肉を敷き詰める。
 フライパンに肉を落としていくと同時に、大きな音を立てつつフライパンには肉の脂がにじみ出て行く。

「……でも、やっぱ少し臭みは残るか……」

 いつもしない調理法で龍肉の臭みが放出されたのか、グレインさんは少しだけ顔をしかめている。
 臭み消しに一番手っ取り早いのは料理酒だろう。
 ついでに、蒸し焼きにしておけば肉が柔らかくもなるし一石二鳥だ。
 フライパンの中でじゅわ、じゅわじゅわと肉の脂がダンスをしているところに、料理酒を一振りかけ。すると、料理酒と脂が互いに互いを刺激して、フライパン内部では脂と料理酒が踊り狂っているようにさえ見えてくる。

「た、タツヤ様……それはもしや、酒羅場シュラバと呼ばれる方法では……?」

 そんな中で、ルーナは意味分からんことを俺に告げる。 
 何その独特な造語。
 俺が不思議に思っていると、グレインさんが俺の調理風景を見ながら呟いた。

「古来より人間族に伝わる食人習慣カニバリズムの名残だと聞く。人間が人間を食うとき、その匂いを消すためにこうして酒を用いて臭み消しを行う……という旨のことを聞いたことがある」

「た、タツヤ様は……そ、その……人を食べたことが……?」

「ねーよ!? 食おうなんて思ったこともねぇから!」

「まさか、人間族が最も忌避する酒羅場を用いるとは……。どこでその技術を磨いたのかが気になるところだな。その調理器具とて、この世界の文化水準を遙かに上回る逸物だ」

 そんな異世界の訳の分からない習慣を聞きつつも、俺は調理を続行させる。
 これはもしかしたら、見知らぬ人の前に何気なく調理するのも危険なことなのかもしれないな……。
 基本的に人の目に付くところで堂々と調理するのはやめておいた方がよさそうだ……。
 
『ぐふぉー……ぐふぉー……』

 ちなみに、龍舎のメイちゃんルイちゃんは少々疲れてしまったようで、一足早く眠りについてしまった。
 君たちのための料理だってこと、分かってるのかな……?
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